6話
「………うわぁ」
「どうした?」
携帯電話に届いた嫌なメール。姉さんからだった。今度家に帰ってくるらしい。
「なんだ、姉が帰ってくるなら良いじゃないか。それとも嫌いなのか?」
「嫌いじゃない。ただ面倒くさい。おせっかいで色々言ってくるし」
「苦労してるんだな」
「それなりに。あの人口軽いし」
「音廻は私に知られたくないことがあるということだな?」
「誰だってあるでしょそういうの」
「それはそう。でも気になるものは気になる。例えばどういう隠し事をしてるんだ?」
「別にそんなのないって。聞かれてることは大抵返してるじゃん。それに、貴方だって私に隠してることあるでしょ」
「そうだっけ。そんなに隠し事をしているつもりはなかったけれど」
「あー、姉妹って面倒臭い」
「でも、ひとりっ子はそれはそれで寂しいんじゃないか?」
「…………うん」
今でこそ多少は慣れたが、姉が居ない間はそれなりに……いや、かなり寂しかった。
「どうしていきなり姉が来ることに?」
「どうせおせっかいでしょ」
「なるほど……やっぱり、料理がうまいのか?」
「そうだね。腕は確かだった。もう味は覚えていないけど」
「おっ、それじゃあ姉妹で料理対決をしよう。審判は私だ」
「ご飯食べたいだけでしょ貴方」
「バレた?」
「それに、ややこしくなるからダメ」
「なんで? 私は音廻の姉と話したいぞ」
「……貴方だからなぁ。アズール、男っぽいし」
彼氏とか言われたら面倒だ。絶対ぐだぐだ言ってくる。
「勘違いされるのが嫌なら最初からそう言えば良いのでは?」
「どっからどう見ても男なのに女って信じるのは大抵の人は無理がある」
「ふん、私にだって女々しいところくらいあるぞ。むしろ女々しくて辛いくらいだ」
いやないでしょ。圧倒的に男でしょ。
「まぁ、会わせたくないっていうのはわかったけど。いつ来るんだ?」
「夕方」
「急だなぁ」
「あの人は私の予定なんて聞かないからね」
「まぁ、頑張ってくれ。私はひっそり外から応援しているよ」
「もし会っても赤の他人として接してほしい」
「わかった」
話が早くて助かった。私の姉は本当に面倒なのだ。アズールが本当に女だったら、と初めて私はそう願った。
「………そろそろ夕方になるな。私は外に出るよ」
「うん、終わったら迎えに行くから」
コン、コン
そこで玄関をノックする音が聞こえた。
「は!?」
「もしかして、姉か?」
「なんでだよまだ夕方じゃないじゃん早すぎるって!!」
ああくそ、アズールが玄関を通れないじゃないか! クローゼットに隠れてもらうわけにもいかないし……
「なんだ、玄関通れないのか。じゃあ窓から外に出るよ」
と、アズールは音を立てずに窓を開けて外に出ていった。私はそれを見てから玄関に向かう。
「……随分早い訪問だね。蒼冬姉さん」
「一応ここ私の家でもあるんだけどね」
「はは、帰ってくる頻度が低すぎてすっかり忘れてた」
「それで……彼氏はできたの?」
「できてないけど何?」
「あはは、やっぱりね」
「………早く入るなら入ってよ」
「せっかく愛しいお姉ちゃんが帰ってきたっていうのにその反応はないでしょ」
と、姉さんが家に上がるや否や……
「……男の匂いがする」
「へ?」
「少なくとも、音廻の匂いではない何かが。音廻の匂いはこんなに獣臭くない。まるで男のそれだ」
「それちょっと男性のことディスってない?」
その匂い、というのはアズールのものだろう。昨日泊まったから匂いが残っていたのか……ていうか、なんでわかるんだよ。
「……彼氏、できたの?」
「できてないよ。ただ、友達ができて家に呼んだだけ」
「呼んできて」
「そんな無謀な」
ほら、面倒臭いことになったじゃないか。
「………どうしてこんな好青年の存在を姉さんに言わなかったんだい?」
「必要も機会もなかったし」
「付き合ってるの?」
「………え?」
「このアズールって人と、付き合ってるのかって」
「……それは」
「付き合ってるわけがないか、釣り合いがない」
「………アズール、女だよ?」
「何無謀なこと言ってるのさ。こんなガタイの良いイケメン女が居るか」
「女だよ」
「………いや、どこからどう見ても美少年ってやつじゃないですか」
「女だよ」
「………本気で言ってる?」
「うん」
「おっぱいのついたイケメンにも限度ってもんがあるじゃんか!!」
うん、わかるよ。私と全く同じことを思ってるね。流石は双子の姉妹だね。
「………これ、同性からも異性からもモテモテってやつじゃないですか? ラブコメみたいに」
「確かに昔はそんなこともあった」
「声も見た目も、男のそれにしか見えない。どこからどう見ても美少年だ」
「……蒼冬、お姉さんだったかな? 貴殿も音廻と同じで料理が上手って聞いたんだが」
「嗜むくらいには」
「じゃあ姉妹で料理対決をしてくれ! 私は審査員だ!」
「急にどうしたの?」
「………さっきからお腹空いてご飯が食べたいんだって」
「まぁ、いいか。妹だからって手加減はしない」
「ふん、舐めプなんてうざいだけだからそっちの方が良いよ」
そうして私と姉さんは台所へ向かった。
アズールの審査の結果、どっちも美味しかったという。甲乙つけがたいくらいには。結果は引き分け、なんとも冴えない終わり方だ。その後は雑談をして、夜になった今は何をしているのかというと、アズールを家まで送っていた。
「良い姉だったじゃないか」
「アズールに対しては敬語だったもんね」
「……やっぱり、嫌いなのか?」
「確かに面倒なところはあるけどさぁ……まぁ嫌ってほどじゃないよ」
「二人の仲が悪かったら家に来ることもなかっただろうに」
「なら、まだ仲が良いってことなのかもね」
「全然会話をしない者達も居るらしい、それに比べたら仲が良いんだろう」
「……なら、いいけど」
「あの人はいつ帰るんだ?」
「明日には帰るよ。姉さんだって色々あるし」
「寂しくなるな」
「……そうだね。あれでも大事な姉さんだ」
「きっと姉もそう思っているだろう。音廻は大事な妹だって」
「どうだろうね、私は姉さんじゃないからわからない」
「……それは、わかってあげようとしないからじゃないか?」
「それもあるかもね。……姉さんは、貴方のことを男だと見ていたけれど、やっぱり多少は女らしくしたほうが良いんじゃないの」
「……今更女の格好をして、違和感まみれだと思うけど?」
「……それは言えてる」
「今日は姉が泊まるのか。私も泊まりたかったな」
「泊まるのは二人の時だけにして。……いや、二人の時もダメだけど」
「どうして?」
「……貴方のことを無意識に男として見ちゃうから。考えても見てよ、目の前に絶世のイケメンが居るんだよ?」
「おや、そんなに褒めてもらえるだなんて。いっそのこと男として見てしまえば楽なんじゃないのかい?」
「何その理論」
「キスでもするか?」
「は?」
「そうしたら私を男として見れるんじゃないのか」
「ダメに決まってるでしょ!」
「はは、わかってるわかってる。女の子のファーストキスをそう簡単に奪ってはいけないものな」
「はぁ………」
「それじゃあ、ここまでで大丈夫だ。気をつけて帰るんだよ」
「うん、またね」
私は手を振ってアズールを見送り、踵を返して家に帰った。
ベッドに一緒に入っていると、姉さんが聞いてきた。
「音廻」
「何?」
「あの人、本当に女なの?」
「うん、私もそう思う」
「確かめた?」
「確かめてない」
「どうして?」
「確かめることが怖い」
「あぁ、なるほど。わかる。なんていうか、触れないっていうか。それを解明したら恐ろしい事実が待っている、みたいな?」
「でも、いずれわかると思う。姉さん、賭けようよ。どっちだと思う?」
「あんなに言うのなら、女なんじゃ?」
「だよねぇ、じゃあ私は男に賭けておくよ」
「負けたらご飯奢りね」
「自分に自信があるからってそんな……」
「あはは、別に良いじゃん」
……こうして会話をしていると、双子でよかったな、とつくづく思う。




