表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

5話



「……アズール、今日はいつ帰るつもりなの?」


「……今日は、泊まる」


「ダメ」


「女同士のお泊まりなんてよくあることなんだろう? どうしてそんなに拒否するんだ」


「……アズールのこと、無意識に男の人って認識しちゃうし」


「じゃあここで全裸になれば女だって認めてくれるわけだな!」


「やめろやめろやめろ!! どうしてそこまで泊まりたいの!?」


「自分の家に帰るのが面倒だから」


「わかったよ、今回だけね」


「え、毎日じゃないの?」


「逆にどうしてそう思ったんだ」


「じゃあ二日に一回」


「頻度高すぎだろ。泊まるのは良いけど……どこで寝るかだね」


「ベッドがあるじゃないか」


「これ一人用なんだけど」


「詰めればいける。最悪私が掛け布団の上で寝る」


「猫かよ」


「別に、女同士なんだから何の問題もないだろう。それとも、男が近くに居ると眠れないのか?」


「……からかってる?」


「からかうと楽しいからな」


「……お風呂は、どうするの?」


「そうだな、流石に照れ臭いから少し外にいてもらえると助かるんだ」


「だったら帰って入れば良いじゃん」


「お泊まりだからここで入る」


「……わかったよ。30分くらい外に居るから」


そうして私は外に出た。あんなに同性だと謳っているのに、お風呂は恥ずかしがるんだな……よくわからない人。




「……そろそろ帰ろうかな。お風呂入って早く寝たい」


「やあ、人間さん」


近くの河でたむろしていた私。そこで聞き慣れた声が聞こえた。


「………何」


「ひどいなぁ、そんなピリピリしなくてもいいじゃないか。どうしてこんな時間に? アズールと喧嘩して家出した?」


「いやそんなんじゃないよ。単純にお風呂に入るから貸してるだけ。見られるのが恥ずかしいんだってさ」


「なんで覗かないんだよ」


「なんで覗くんだよ」


「そうすれば簡単に性別がわかるのに。ついていたら男、なかったら女だ」


「あのさぁ、相手が嫌がってるのに見るバカがどこにいるっていうのさ」


「じゃあどうやって性別確認するのさ」


「別に、私はアズールが男か女かなんてそこまで固執はしてない」


「つまんない人間。アズールが男だったらなかなか面白いし、人間さんにも都合が良い。違う?」


「さぁね」


「今日はここまでにしておくよ。アズールの性別がわかったら教えてよ。僕も何かあったら教えるから。また今度ね」


……もう会いたくないけどね。


「……音廻」


「わざわざここまで?」


「さっきの猫は?」


「この前会った猫」


「何者なんだろうな」


「わからない」


「まぁそれは置いといて。音廻は何か怖いものがあるか?」


「いきなりだね。……パッとは思いつかないかな」


「じゃあ、私の怖いものは何だと思う?」


「ヒントは?」


「ここから近いもの」


私は周囲を見渡して


「……河?」


「正解だ」


「何かトラウマでもあるの?」


「子供の頃、河で溺れてしまったんだ。その橋は老朽化していて、床が抜けてしまったんだ」


「大丈夫だった?」


「……ある人間が助けてくれたから。暗い世界の中息が出来ず、体も動かせず。死を感じた。けれど上に見えた光から手が差し出された」


「その人が、前言ってた命の恩人?」


「そういうこと。あの人間のおかげで、私は今生きている。だから、いつか恩返しをしたい」


「そんなことがあったんだ……怖かったよね。……帰ろうか」


「ああ。寒いのは嫌いだからな。音廻も早く入ると良い」


「そうだね」


アズールと一緒に家に帰り、着いたらすぐに乾いたお風呂場へと入った。





良いお湯だった。私はパジャマに着替えて自分の部屋へ向かう。アズールは既に私のベッドで寝ていた。


「図々しい人……」


律儀なことに私も入れるように隙間を作っている。床で寝るわけにもいかないし、なによりここは私の家だ。私はベッドで寝るべきだ。私はその隙間に入った。


「…………」


アズールは目を閉じている。今なら性別がどちらなのか確認できるだろうか。いや、しかしそれが望まない事実だとしたら怖い。ああもういいや、寝よう。ゆっくり目を閉じて眠ろうとした時


「………?」


物音がした。アズールがベッドから降りて部屋を出ていく。トイレだろうか?



「ゲボ……ガ、……アッ、ガハッ……!!」



「!!」


もしかして、嘔吐してる? 苦しそうな声に心配になって、私はアズールを追いかける。


「………何これ」


廊下を歩く途中、何かが落ちていた。青色の……髪の毛?


「………音廻?」


前からやってきたアズール。首を傾げて私を見ている。


「アズール、大丈夫? なんか苦しそうに吐いていたみたいだけど」


「……ああ、あれか。ごめん、心配させたか。ちょっと喉が渇いて何か飲もうとしたら突然おえってなってさ。よくあるじゃんこういうの」


「……大丈夫、なんだよね?」


「大丈夫大丈夫、何も出なかったから」


「………本当に?」


「どうして?」


「だって……苦しそうに息してるんだもん」


明らかに呼吸の仕方がおかしかった。まるで運動した後のように息が上がっていた。


「吐きかけたからな。そういうものだよ。さ、部屋に戻って寝よう」


「……わかった」




部屋に戻って、一緒に横になる。アズールはいつもの穏やかな姿勢を保っていた。


「………音廻」


「何?」


「ちょっとだけ、怖いや」


「何が?」


「さっき、河を見ただろう? 目を閉じるとあの時がフラッシュバックして、怖いんだ」


「……河、あんまり見たことないんだ」


「私にとっては恐怖そのもの。見ることはできる限りしなかった。油断したら、またあの世界へ飲まれてしまうんじゃないかって」


「そっか……」


「………音廻、無理を承知でお願いするんだが……ハグして寝ていい?」


「……ハグッ、そんな、それはその……」


「……ダメ?」


きゅる、とした瞳でこちらを見てくる。トラウマは、本人にとってはとても恐ろしくて、足枷になるもの。子供の頃なら尚更だ。そこに男女は関係ない。


「……わかった、ぎゅ」


アズールの身体の熱が伝わってくる。まるで炎のように暖かい。冬なら大層喜べたなこれは。


「………まだ起きてるか?」


「うん」


「もう少しだけ、話したい」


「わかった」


「音廻は何か好きな本とかあるか?」


「特にこれといったものは」


「私は、『鶴の恩返し』が好きだ。命の恩人に身をすり減らしてでも尽くす姿勢に憧れる」


「でも、あの話最後は男の人に鶴の姿を見られてどこかへ行っちゃうよ?」


「……私が鶴なら、本当の姿を見られたら逆に嬉しいんだけどな」


「ふーん……」


「……ごめん、眠かったろう?」


「いや、大丈夫だよ。寝ようか」


「ああ、おやすみ」


アズールが目を閉じたことを確認して、私も目を閉じて眠ることにした。必死に鳴り響く心臓を堪えながら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ