4話
「……貴方って、暇人なんだね」
「音廻と一緒に居るのが楽しく感じる身体になってしまった。責任とって」
「その言い方はなんか語弊があるからやめろ」
「でも、音廻が今までの人間で一番好きなのは本当だよ」
「ちょっと待った」
その言葉は告白まがいじゃないか。惚れそうになるからやめたまえ。女だ、相手は女なんだ。この状況は他者が見ればさぞかし尊いものだろうけど、ホモじゃない私にとってはなんとも言えない気まずさがある。
「音廻の一番は私なのか?」
「姉さんを除外すればここまで話すのは貴方以外に居ないね。馬が合うRTAでもした気分」
「あはは、それは純粋に嬉しいな」
爽やかな笑顔を見せるアズール、ダメだ男にしか見えない。もういっそのこと男の扱いしてやろうかと思う。
「そういえば、今日のご飯はどうする?」
「お、やるやる」
最近私達の日課は共に料理をするというものになった。アズールの物覚えが良いのか、かなり上達のスピードが速い。
「今日は何を作る?」
「そうだねぇ、今日は生姜焼きと豚汁にしようか」
「肉だヒャッハァァァァァァァァ!!!」
アズールはお肉が大好物みたいで、お肉料理を出すと子供みたいにおおはしゃぎする。なんか可愛い。
「それじゃあアズール」
私は材料を書いたメモとお金を渡して
「自分で買い出しに出かけてね」
「私一人だけ?」
「今回だけだからそんなしょげないの。ちゃんと一人で買い物できるか確認したいだけだから」
「なるほど」
「……そうだ、今日はアズールの家で料理しない? この前は私の家だったから」
「ッ、ダメだ!!」
アズールが突然声を張り上げた。その迫力に思わず尻込みしてしまった。
「あぁ、いや、その、家の中汚いから……音廻でも見せられないくらい……」
「そ、そうなんだ。じゃあ私の家にしよう。掃除は定期的にしないとダメだよ? 良かったら手伝おうか」
「大丈夫だ、それくらい一人でできるから。それじゃあ、行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
私は買い物に出かけるアズールを見送り、私は自分の家に戻って待機する。
アズールが変な物買ってないかなぁ、とちょっとだけ心配していた時だった。窓からコツコツ、と音がした。窓を開けて確認すると……
「………猫?」
「やぁ、人間さん」
「喋った!?」
窓の下に礼儀正しく座っている赤色の猫が居た。驚いたことに人の言葉を使っている。
「僕はブレイズ、幾年を生きた猫魈さ」
「猫魈?」
「化け猫よりもすごい妖怪だよ」
「ふーん」
「人間さん、僕は君に質問があるんだ」
「何?」
「アズールは、本当に女?」
「女だよ、ちょっとがさつだけどね」
「即答じゃないか。人間さんが一番アズールとつるんでいるだろ、だったら本当の性別とか教えてもらってるんじゃないの」
「だからアズールは女だって」
「あんながさつすぎる女なんか居るか」
「中には居るでしょ」
「くっ、僕は認めないぞ。あんなイケメンが女だなんて」
その気持ちはわかる。仕草も声も見た目も何もかも、全てが男にしか思えない。
「アズールが女だって言ってるんだから女なんでしょ。それに、私は例えどっちだろうと知ったことじゃないし。そもそも貴方はアズールのなんなのさ?」
「子供の頃、一緒に居た時期があってね。久しぶりに見かけたら人間さんと一緒に居ただなんて驚いた。しかも女だと偽って」
「だからアズールは女だって」
「どうだか。あの時の仕草は間違いなく男のそれだった」
「どうしてそこまでアズールの性別にこだわるの?」
「猫は消化不良になると吐いてしまうからな。白黒はっきりつけたいのさ」
「あー、そうですか。それじゃ」
「ちょっとまったまだ話は終わって……」
にゃんにゃんと鳴く声も聞かず、私は問答無用で窓を閉めた。その少し後、玄関をノックする音が聞こえた。私は迎えに出る。
「おかえり」
「ただいま。……なんか少し疲れてないか?」
「いや、変な赤い猫に話しかけられた。貴方の知り合いだって」
「赤い猫? ……そんな知り合いなんか居ないぞ」
「じゃああの猫は一体何者だったんだ……」
「どういう要件だった?」
「貴方は男か女かどっちか聞いてこいだってさ」
「音廻はどう返事した?」
「女って返した。女なんでしょ?」
「ああ、これでもな。まさか音廻……」
距離を取るアズール。
「やましいことをするつもりだったらこんなこと言わないから。貴方も性別云々言われるの嫌いでしょ?」
「……まぁな。私の性別がそんなに気になるか?」
「猫は消化不良になると吐くからだって」
「なるほど、なんかごめん」
「良いんだよ。あの子が勝手にしてることだから。それより、変なもの買ってきてないよね? パンとかお菓子とか」
「ちゃんとメモ通り買ってきたって!」
「ふふ、えらいえらい。それじゃあ早速ご飯を作ろう。……ねぇ、アズール」
「ん?」
私はアズールの目を見て尋ねた。
「答えられないなら答えなくて良いんだ。アズールは女の人、なんだよね?」
すると、アズールは鼻息を漏らして言う。
「さぁ、どうなんだろうね?」
「うわ、ずるい」
「音廻はどっちが良い?」
私はしばらく考えて
「ふふ、どっちなんだろうね?」
「む、そうきたか。まぁどうせ男の方だろ。いかにも恋をする年頃の女の子なんだから」
「う」
「はっ、図星だな? 音廻のことは結構見ているんだ。私が男だったら完全に恋してただろう」
「んなわけ……」
あるんだけどさ。
「……さっさとご飯作るよ」
「了解」
あぁ、お願いだからそんな笑顔をしないでくれ。イケメンオーラで成仏してしまうから……




