表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/15

15話




「………帰ってこれた、のか。案外変わってないんもんなんだな」


故郷への帰還の安らぎはこれくらいにして、俺には行くべき場所がある。


「どれだけ、待ち続けていただろう」


俺にとっては数時間でも、彼女にとっては十年だ。どうしているのだろうか。俺は約束の場所へと走り向かった。


すっかり辺りは夜になっていた。俺は走る、ひたすらに走る。そして、そして、俺は辿り着く、その場所に。


「…………」


だが、そこには彼女は居なかった。その代わりにとでもいうのか、花が一輪と


「………音廻から、もらった……ストラップ……」


今気づいたが、首の圧迫感が消えていた。どうやら落としていたらしい。思い当たるなら、ここに戻る瞬間だろうか。


それにしても……



「この岩は、なんなんだろう」



岩にしては形がおかしい。明らかに人の手が加わっている。そうでなければこんなにつるつるしていないし、ビート板みたいな形なんてしていない。


「………誰か、来る?」


足音が聞こえた。現れたのは、音廻の姉……蒼冬という名前だったか。彼女は私を見るなり、驚いた様子で


「……えっ、蒼冬さん?」


という声を出すのだった。


「どうしてここに? 引っ越したんじゃ?」


「ああ、えっと、戻ってきたんだ。音廻との約束を果たしに。ここで、待ち合わせをするって約束を」


「…………」


「それで……音廻はどこに? まだ来ていないのかな?」


「……あの、アズールさん。聞いて欲しいことがあるの」


「何だ?」



「音廻は、亡くなったのよ」



「………ん?」


彼女は、今なんて言ったんだ?


「今、なんて?」


「音廻は死んだ、ついこの間ね」


「…………どういう意味だ?」


「……そのままの意味よ」


「……待ってくれよ」


音廻が、死んだ? その言葉を、到底受け入れられるわけもない。


「あの子ね、病気だったの。なかなかの難病で、長くは生きられないってお医者さんから言われて」


「……いつから?」


「十年前には、既に」


じゃあ、俺が彼女に会った時には、既に彼女は、病に侵されていた? 病で死んだから、俺は彼女に会えなかった?


「お願い、あの子を恨まないでほしいの。それに、私も音廻も、貴方に感謝しているから」


「……どういう意味だ?」


「音廻の病気、不治の病……ってほどではなかったんだけど、病気の事を知ってから音廻は治療をしなくなったの。どうせやっても無駄だって。……生き続けることを、諦めたのよ。でもあの日会った時、体調が悪かったはずの音廻は明らかに体調が良かった。双子だからすぐにわかった。今思い返せば、貴方の影響なのかしら?」


「私?」


「推測でしかないけどね。貴方が遠くへ引っ越した日、音廻は病気の治療に専念し始めた。理由を聞いたらあの子は言った。『伝えなきゃいけないことがあるから』って」


「…………」


「でも、それは唐突だった。順調なはずだった、治るのもあと少しのはずだった。なのに……病気がいきなり悪化したのよ」


「…………」


「『死にたくない』ってあの子、何度も言ってたわ。泣きながら、何度も、何度も」


「……そうか」


もはや、どう言葉を返せばいいかもわからない。なんと言えばいいのか、心が無になるというのはまさにこのことを言うのだろう。


「それと……これ、音廻から」


そうして彼女が渡してきたもの。確かボイスレコーダーと呼ぶものだったか。



『やっほ、この声をを貴方が聞いているってことは……もしかしたら私はもうこの世界には居ないのかな? もしもの時のために、言いたいことを残しておくね。まず、秘密について説明するよ。姉さんから聞いたと思うけど、私、病気なんだ。あと十年も生きられないんだって。そのことを言わなかったのは、言いたくなかったのは、貴方が悲しむ姿を見たくなかったし、私がヘタレだったから。ごめんね、こんな人間で


 病気のことを知ってから、生きる気力が無くなっちゃって。もういつ死んでもいいやー、ってところで貴方に会って……生きたいって思った。貴方と過ごした日々が、本当に楽しかったから。これからもずっと、そんな日々を過ごしたいと思ったから。だから、私は今病気を治すのに専念してる。


 アズール、私に会ってくれてありがとう。私に生きたいって思わせてくれてありがとう。……さて、この音声を消すためにも病気を治さなくちゃ。またね』



「…………」


「……大丈夫?」


「……これ、貰っても良いだろうか」


「もちろん」


「……ありがとう」


俺は岩の前に膝をついて一礼し、帰路についた。




家に帰ると、姉上が迎えてくれた。心配そうに俺のことを見る。


「………何だ」


「………いや、すごく酷い顔だなと。過去で何があった?」


隠す必要も、今はないか。


「……大好きな人間に、会おうとした。命の恩人で、話せば話すほど一緒に居たくなった人間。あっという間に時間がすぎて、別れを告げて、また会おうって約束して……」


喉が痛い。鋭い痛みが、痛くてたまらなくて、血反吐を吐いた。


「……なぁ、姉上」


「……うん」


「俺の大好きな人間、死んじまった……」


姉上が血を吐く俺を宥める。鳴き声にすらならない声があがる。


俺は彼女のために過去に行った。過去に行って、さらに彼女のことが好きになって、好きで好きで仕方がなかったのに、こんな結末……現実はあまりにも非情なのだと思い知った。


彼女は、どうして生きられなかったのだろうか。成長した彼女の姿が見たかった、成長した彼女とデートくらいしたかった。神が存在するのなら、俺はとことん神を憎むだろう。


こんなにも喉が締め付けられて、裂けて、痛くて苦しいのに。こんなにも目頭が熱くなっているのに……



俺の目から涙は一粒も出なかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ