表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

1話



きっと、大半の人は好きな季節は春か秋って答えるんじゃないのかな。だって、過ごしやすい気温だものね。夏や冬は暑いし寒いし。私も春は好きな方だよ。なんてったって桜が綺麗だもの


「桜が舞ってるのを見るとまるで自分が舞わせているみたいで楽しいよね」


と、呟くと



「やぁ、そこのお嬢さん」



背後から声をかけられた。思わず振り向くと、そこにいたのは好青年。


「すまない、あまりにも楽しそうにしていたから声をかけてしまった」


「そうなんですね」


「ああ、タメ口で大丈夫だよ。私はフレンドリーだからな」


「えぇ、でも貴方は私より断然年上でしょう?」


「まさか。これでもお嬢さんと変わらないよ。なら、私も敬語にしてみますね」


「うぉ、会ったばかりだというのに物凄い違和感」


「戻すわ」


「貴方はそっちの方が合ってるよ。タメ口で良いならそうしようかな」


「よければ、貴殿の名前は?」


「音廻。群青 音廻。貴方は?」


「アズール」


「だいぶユニークな名前だね」


「よく言われる」


何故だろう、見ず知らずの人に声をかけられたというのに、私は自然と彼と会話をしていた。


多分、私は恋に落ちたんじゃないのかな。


「……………」


「………ん?」


アズールは私をまじまじと見た後、驚きの事実を告げる。


「惚けているところ申し訳ないのだが……私はこれでも女なんだ」


「………あ?」


開いた口が閉じなかった。それほど私は驚いていた。


「まさか、男だと思っていたのか?」


「いやいやいや、だってそんなにかっこいいんだから仕方がないじゃん」


「驚いた?」


「ひとつ間違えれば月まで飛んでた」


こんなどっからどう見ても美少年なのに、美少女なの? おっぱいがついたイケメンにも限度があるって。


「まぁ、貴方が女っていうのは理解した。でもじゃあなんで男の服を?」


「女の服、どうにも苦手でね。あのフリフリした感じが鬱陶しいんだ」


「なるほど、気持ちはわかる。私もズボンだし」


「女として見られる時は見られるけど、やっぱり私を男だと誤認させる原因はやはり声じゃないのかな」


「ああ、ちょっと声低いもんね」


アズールの声は私の声より断然低かった。男の人となんら変わらないんじゃないかってくらい。


「声変わりした?」


「声変わり? した、んじゃないのかな。気づかないうちに」


「ふーん。でもこんな女の人もいるんだね」


「お、バカにしたな?」


「してないしてない。こういうのは個体差なんだからバカにしちゃいけないんだよ。それでも、驚きを隠せないんだ。こんなにも男らしい女の人を見たのは初めてだから」


「そこまでか」


うん、だってついさっきまで惚れかけてたもん。


「昔とか、いろいろ言われてたんじゃない?」


「昔か。昔は姉上くらいしか付き合いがなかったからな。まぁ外野がどうこう言おうと私はどうでもいいんだ。気にするのは自分が付き合う人だけで良い」


「そうなんだ。すごいね」


「…ところで、その手に持っている包みは?」


「ああ、お弁当。良いお天気だから外で食べようかなって」


「……付き合っても?」


「ん、構わないけど。それじゃああそこに座ろう」


私達は桜の木の下に腰を下ろす。桜の花びらが舞う空間でお弁当を食べるだなんて風情があると思わない?


「美味そうだな。自分で作ったのか?」


「そうだよ。自分のご飯は自分で作ってる」


「そうか。羨ましいな。私は料理が下手だから」


「下手なのは仕方がないけど、お手軽だからってあまり身体に悪いものばかり食べちゃだめだよ」


「練習はしているんだが、そもそも食べ物と呼べるかも怪しい」


「そこまでなんだ。慣れるしかないよね」


私はからあげに箸を突き刺す、アズールがぴく、と反応した。


「………食べる?」


「良いのか?」


「はい、どうぞ」


からあげをアズールに差し出す。ぱく、とそれを頬張るとアズールはさも幸せそうな顔をした。


「からあげ、好きなんだ?」


「肉の中で一番好きだ」


「そっか。……よかったら、料理教えてあげようか?」


「本当か。よろしく頼む」


そうしてアズールは微笑んだ。ちょっと可愛い。


「でも、そんなに色鮮やかな弁当を作るのは苦労するだろう。何個か凍ってるやつがあるんじゃないか?」


「冷凍食品のこと? あれもあんまり好きじゃないかな」


「頑固なんだな。思うんだ、人間というものは長くは生きられない。楽しんだもの勝ちなんだと」


「私は別に長生きしなくても良いかな。五十くらいで死んでも良い」


「その時になれば死にたくないと言っているだろうな。考えてもみろ、五十なんてまだ若い。そんな時期に死ぬなんて勿体無い。もしも旦那が居て、その間に子供が居たら……そんな家族に囲まれて過ごす余生も悪くはないと思うが」


「あぁ、良い。確かに良い。理想の家族像」


「私が音廻を嫁にもらってやろうか」


「……アズールが旦那さん?」


一瞬だけその想像をして、アズールが女だということを思い出して頭を振る。


「女の子同士が結婚できるわけないじゃん」


「満更でもなさそうだったけど?」


「うるさいなぁ……」


でも、もしアズールが男だったなら。それで付き合って、結ばれることが出来たなら、それは幸せなことなんだろうか。出会ったばかりだけど、アズールはとてもかっこいいし、一緒に話をしていると楽しい。


「本当に女なの?」


「確かめるか?」


「……やめておく」


確かめても無意味に終わりそうだし。


「ていうか、料理の話から脱線しすぎじゃない」


「だな」


「家が遠かったらどうする?」


「お泊まりするか?」


「お泊まり…?」


「ダメだったかな」


「いや、実質一人暮らしだからそれは別に構わないんだけど」


「その年でか?」


「うん、姉さんがお仕事でよく家を空けてるから」


「なるほど」


「お泊まりは不味くない?」


「私がこんなだからか?」


「そんなとこ、だね。頭の中では女ってわかってるんだけど、男に見えるから……」


「どうしようか」


「とりあえず、家が近いかくらいの確認はしようか」


「そうだな。ところで、一人暮らしと言っていたけど金とかは大丈夫なのか?」


「大丈夫、バイトしてるから。最近はバイトでも結構お金稼げるから良いよね〜」


「もうそんな時代になったのか。私が子供の頃はせいぜい時給600円とかだったのに」


「え?」


「いや、なんでもない。独り言だ」


「あ、そう。それで姉さん帰ってくること滅多にないから、ご飯とかは自分で用意しないといけないんだよね」


「それもバイトの理由か」


「そういうこと」


「複雑なんだな。まぁ、私も一人暮らしなんだが」


「本当?」


「ああ。ただ音廻と違ってバイトはしなくていいってところかな」


「良いなぁ」


「自由に過ごせるのは良いが、逆にそれが孤独に思える時がある」


「家族が居ないのは、寂しいもんね」


居なくなって初めてわかる寂しさってやつだ。当たり前にいた存在だからこそ、いなくなれば虚しさが生まれる。


「……ははは、まだ私達は出会って一日も経っていないのにまるで友達のように会話をしているなんて異常だな」


「それはこっちの台詞。貴方みたいな人がこの世に居るだなんて思いもしなかった」


誰だって予想できるわけないだろ、一目惚れしかけた男の人が女の人だったなんて。今はもう大丈夫、簡単な話。アズールは女、男なんだ。あれ、脳みそバグってない?


「……私は、男か女、どちらだと思う?」


アズールが意地悪げにそう質問する。そんなの、決まってる。真実は、闇の中だ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ