(8)
「えっ!一之瀬亜月に接触したの?」
「あぁ、ジルシアの調査では今以上の情報は無理そうだったからな」とワインを口にした。
何故か今日に限って、ジルシアに続いてモルベルとブラインの帰りもやたら早くないか?
「今日はもう十分巡回しましたし、数体殲滅もしたので、後は夜中に少し見て回るだけでもういいでしょう」
「自分も同意見です」
と、3人もソファに座りワインを注ぎ飲み始めた。
「それで?一之瀬亜月はどうだったんです?」
え、どうだったって、そりゃな・・・くくくっ
何故か3人は驚愕の表情で俺を見ている。
「な、何だ?」
「いや、ローゼスが笑っているのが珍しいなと」
「さっきなんて僕が帰ったら、1人でニヤニヤしてて最高に気持ち悪かったんだよっ!」
モルベルは、煩い!とジルシアの頭を叩き、俺に話せと言わんばかりの視線を向けてくるモルベルとブライン。
仕方ないので、亜月の報告を始めた。
「なるほど。霊や魔物が視える体質の人間は稀にいるようですから、それは大変だったでしょうねぇ」
「で?あの戦い慣れしている強さと神社に通う理由は何だったんです?」
・・・ん?そういや聞いてないな?
いや、神社に関しては聞いたが、確か俺と同じ思い出の場所だと言っていたな。
「思い出の場所ですか・・・その思い出がどんなものなのか分かれば、通う理由も分かるのでは?」
た、確かにそうだな。肝心な事は全く聞けていなかった・・・と気まずさにモルベルから目を逸らして、グラスに残っていたワインを一気に煽った。
「ローゼス、香りについては聞いたのか?」とブラインが言うと、何か思いあたる事があるのかジルシアが眉を上げ、あっ!という顔をした。
「香りって、もしかして一之瀬亜月から香る少し甘い香りの事?確かに良い香りではあるよねぇ」
そうか、ジルシアは亜月の事を調査していたから近寄る事もあっただろうし、香りの事も気づくよな。
「あぁ、本人は香水などは一切付けていないと言っていたぞ」
そう言うと、モルベルは少し考え込んだ素振りを見せてからおもむろに口を開いた。
「それはもしかすると魔物が好む香りとか?随分昔に聞いたことがあります。稀に人間には魔物が好む香りを発する者がいると」
「何っ!それは本当かっ!?」
「はい、まぁ私も聞いた話なのではっきりとは分かりませんが。今までそういう人間に遭遇した事もなかったですからね。確かその香りも色々のようですよ?」
それで亜月はたまに魔物に追い掛けられたりしているのか。
「なるほどな、初めて神社ですれ違った時に良い香りだとは思ったが、俺はただそれだけだ。でもローゼスはまた嗅ぎたいとか言ってたよな?」
ブライン、何故そんな恥ずかしい言葉をいまここでバラす!?
「そうなんだ~」とニヤニヤするジルシア。
「多分ですが、香りの好みは個体差があると思います。でなければ、そこら辺の魔物が彼女1人に集まって来ますから」
「ってことは、一之瀬亜月の香りはローゼスの好みって事なんだねぇ」と、また意味ありげにニヤニヤするジルシア。
なるほど、じゃあ俺が亜月の事が気になったり、心臓がギュッとなるのもあの香りのせいって事だな。
「それにしても、今の話の流れの中に、ローゼスがニヤニヤするような要素はどこにもなかったですが・・・」と、他にも報告があるのではと何故か疑わしい目で見てくるモルベル。
「あ~、まぁ、何だ、話しを聞くために飯を食いに行っただけだ」
「「「飯っ!?」」」3人は声を揃えて驚きの声を上げたが、俺だってたまには飯ぐらいいいだろが、休日なんだしっ!
何食べたの?としつこく聞いてくるジルシアに「牛丼汁だく紅しょうが山盛り」と言うと、ブハッと吹き出した。
「いくら何でも女連れて牛丼はないよー」
「俺もそう思ったが牛丼が良いと言うから」
ジルシアは亜月に興味を抱いたのか、僕も接触してみようかなと言い出したその言葉に、少し心臓が飛び跳ねた。
ヴァンパイアは顔が整っている者が多い。
特に俺らのように高貴な者は特にだ。
なのでもちろんジルシアも美形なのだが・・・
そんなジルシアと亜月が2人で居る所を想像すると少し腹が立った。
「話はまた会った時に俺が聞くから、お前は接触しなくていい」途端にニヤ~とした3人。
「また会うんだって~」
「もう約束でもしているんですかね~」
「もう長い事遊んでいなかったから、少しは遊んだ方がいいんですよ、ローゼスは」
何故か酒を飲みながら盛り上がり始めた3人。
亜月は甘くていい香りがするから、きっとそれに引き寄せられているだけだろ、それなら仕方ない事だろ。