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2人で神社を後にして街の方へと向かった。

歩いている時でさえスキップでもしそうな程、ご機嫌な様子に見える一之瀬亜月。


そんなに飯をご馳走してもらうのが嬉しいのか?くくくっ今まで見た事がないタイプの女だ。


何が食いたいか尋ねると「牛丼汁だく」と予想外の返答に思わず目が点になった。普通はもっと高級なレストランとか言うものじゃないのか?!


牛丼の店は通りすがりにチラッと見たことはあるが、落ち着いて話せるような店ではなかったはずだ、ひとまず店に着くまでに聞ける事は聞いておこう。


「なぁ、君はなぜいつも神社に居るんだ?」

そう話しかけると、じっと見つめる漆黒の瞳。


「私が居るのを知っているという事は、あなたもしょっちゅう来るって事だよね?あなたは何故神社に来るの?」


まさか質問に質問で返されるとは思っておらず、内心少し焦った。


「え、あ~そうだな、俺の場合はあの神社には少し思い出があってな・・・で、君は?」

「思い出か~、私も」と言いニッと俺に笑いかけた顔に何故かやたらドキッとした。


「あと『君』じゃなくて、あづきね。一之瀬亜月、あなたは?」

「俺か、俺はローゼスだ。姓はない」


亜月の名前はジルシアの調査で知っていたが、俺が名乗ると「へー」と適当な相槌を打ちながら少し先の牛丼屋が目に止まったのか「玉子も頼んじゃおうかな?」などと独り言を呟き始めた。


俺の名前より牛丼優先なのか?

自慢じゃないが、俺はどこの国に行ってもモテるんだぞ?俺に興味なさすぎじゃないか?


牛丼屋に入り、仕方なく自分も牛丼を頼んだ。

人間の食事は久しぶりだな。

「玉子はいらなかったの?」と聞く亜月の牛丼は玉子をかけたうえに、いつの間にか紅しょうがが山盛りとなっていた。


俺の目が紅しょうがに釘付けになった事に気づいたのか「紅しょうが美味しいよ?」と自分の山盛りの紅しょうがからほんの少しだけ俺の牛丼に乗せて、ニッコリ微笑んだ亜月。


その後、何とも美味しそうな表情で牛丼を食べる亜月を見て、今まで人間の食事を美味しいと思った事などなかったのに、何となく牛丼が美味く感じたのは気のせいか?


やはり牛丼屋では話せる雰囲気ではなく、食べてすぐに店を出ると、通りにあった自動販売機で缶コーヒーを2本買った亜月は「ご飯ご馳走様」と俺に1本缶コーヒーを寄越した。


「流石に牛丼屋じゃ話せないし公園でもいい?」

と、繁華街から少し離れた場所にある公園のベンチに2人で腰を掛けて、先に口を開いたのは亜月だった。


「で、あなたは何者なの?銀髪で赤い瞳も、今の黒髪のあなたも同一人物だよね?人間でない事は分かるんだけどね」

そう言い缶コーヒーを1口飲んだ。


「あぁ、俺は人間ではないな」

「なら、あの魔物とやらの仲間?」

「いや、あれと一緒にはされたくない」

「じゃあ何?」

「・・・ヴァンパイア」


俺の言葉を聞いた途端に目を見開いて、持っていた缶コーヒーをそっと脇に置くと、静かに両手で首を隠した亜月。


何だその行動、面白すぎだろ。

距離を取る訳でもなく、ただ首を隠すって!

そもそも噛みつくならとっくに噛みついてる。


「噛みつかないから安心しろ、くくくっ」

亜月の表情と行動に思わず笑いが込み上げた。

「え、噛まない?吸わないの?」

「あぁ、それをしたら魔界に強制送還だからな」

「ま、ま、魔界!?じ、実在するんだ?!」


目を見開きっぱなしの亜月に、俺が何処から来て、この国で何をしているのか説明したのはいいが、俺の話しを聞いて頷いてはいるものの口が半開きになっているその顔はヤバいって。


ぶほっ!マジでヤバいなこの女。


俺の素性を話し終えると、亜月もぼちぼちと語り始めた。小さい頃から霊や魔物が視える事、それが理由で家族と疎遠な事、小さい頃は友達も出来なかったし、今はあえて作らない事など。


「あまり人と関わるとさ、もれなく余計なモノまで付いてくる可能性高いからねぇ」


なるほどな、それでずっと1人なのか。


「だから今日こうやって、神社の宮司さん以外の誰かとこんなに話すなんて久しぶりで、ちょっと嬉しい」

「俺で良ければまた話し相手になってやるよ」

その言葉を聞いた途端に破顔した亜月の笑顔は今日一の笑顔で、ドキッどころか心臓がギュッと押し潰されたような気分になった。


「そういえば、香水がどうとか言ってたけど、あれは何だったの?私何か匂うの?」

「凄く甘くていい香りがする」

こうしている間にもずっと香っている亜月の甘い香り。この香りに包まれているととても心地が良い


「えっ!美味しそうな匂いとか?」

また盛大に眉間にシワを寄せてササッと首を両手で隠した。

「ブハッ!何故そうなるっ!アハハハッ」


首から静かに手を離し、俺の方をじっと見た亜月は「ローゼスさんて、と話し出した所で、被せるように「ローゼスだ。『さん』はいらない」そう言うと、少し恥ずかしそうに指をモジモジさせながら「ロ、ローゼス」と上目遣いで亜月が俺の名を口にした途端にバクバクと早鐘を打つ心臓。


な、何だこれ。俺の心臓、壊れるのかっ!?


「ローゼスって笑い上戸なんだね、良く笑う、というか笑いすぎ。ぷっ」


普段あまり笑うことなどないが、確かに今日は笑ってばかりいるな。


亜月と居ると、時間があっという間に過ぎるのか、気づけばすでに夕方だ。まだまだ聞きたい事もあるので、亜月とまた会おうと約束してマンションに帰宅した。



「ねぇ!ローゼスがニヤニヤしてて気持ち悪いんだけどっ!何があったの?!」

ジルシアは巡回から帰って来て、人の顔を見るなり驚愕した表情で失礼な事を叫んだ。


そんなニヤけているのか?

自分ではそんなつもりないんだけどな。







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