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神社の神聖な空気に懐かしさを感じながら、階段を上り満開の大きな桜の木がある境内の方へと足を進めて行くと、我々とは逆に階段の方に向かってきた一人の女。


「綺麗な女性ですね」

「・・・そうだな」


ワンピースなどの綺麗な格好をしている訳でもなく、ただのジーンズに黒のパーカーを羽織り、足元はスニーカーといったラフな格好にも関わらず、凄く綺麗に見えたその女に思わず目を奪われた。


はっきりとした顔立ちと力強さを感じる漆黒の瞳で真っ直ぐと前を向き、胸まである艶やかな黒髪を風に揺らしながら、姿勢良くこちらに向かって歩いてきた。


その女に我々は見えない。だから前から来ても目が合うこともない。今の我々は人間には姿が見えないように消えているからだ。


んっ!?


すれ違った時にふわっと香ったあの鼻腔をくすぐる様な甘い匂いはいったい何だ?


「凄く良い香りがしましたね、今の女性」

「お前も感じたか。今まで嗅いだことがない香りだったが、何度でも嗅ぎたくなるような癖になりそうな匂いだったな」

「えっ!そこまでじゃ・・・」

口元に弧を描き横目でニヤニヤと楽しそうに俺を見るブライン。

な、何だ、そんな変態を見るような目付きで見るなよっ!


いま日本で流行っている香水か何かか?


境内に入ると、人で賑わっていた昔の面影は全くなく、ひっそりとした雰囲気になっていた。


「この神社も廃れてしまったのか。まだこんなにも神聖な空気を放っていると言うのに」

「護り手もいなくなる訳ですね」



その後、街へと戻りある程度視察を終えると、マンションに帰宅した。


「やはり今の日本は魔物が多いですね、少し見て歩いただけでも数体狩りましたよ」

「そっちもか、こっちも同じだ。この分だとそのうち人型にも遭遇しそうだな」


夜は交代で2人1組で巡回することになった。


今夜は俺とブラインで夜の繁華街へと向かった。

夜は酒など飲んで気の緩んだ人間も多いからか、融合型はそういう連中を狙って精気を吸い取っていく。


酒を飲んでフラフラとした足取りで歩くスーツを着た男の後ろをついて行く黒い影。


「見つけた」


地面を蹴り高く跳び上がり、一気に融合型との間合いを詰めて、その背中に鋭い爪で肩辺りから腰まで一気に斜めに切りこんだ。


ギャァッー!!

融合型の断末魔の叫びと同時に、前方に回ったブラインが融合型の喉を爪で切り裂き、融合型は塵となって消えていった。


それからも魔獣と融合型を何体か見つけては殲滅し、気づけば街のネオンはだいぶ消えて行き交う人も疎らとなっていた。


明け方前には部屋へ戻り、シャワーを浴びてからブラインと二人で冷蔵庫にある赤い液体を酒と一緒に流し込み、漸く眠りについた。


暫くそんな代わり映えのない日々が続き、やっと土地に慣れて来た頃、交代で休日を取る事にした。

我々も働き詰めでは、ストレスが溜まる。

たまには発散も必要だからな。


休日は酒を飲みに行く者や女と遊ぶ者、ただ街をぶらぶらするだけの者、皆それぞれだ。

人間の世界で遊ぶ際には、我々ヴァンパイアの特徴とも言える赤い瞳とシルバーの髪は、その国に合わせた色に変化させ人間のフリをして過ごす決まりとなっている。


そして何よりも大事なのは、決して下界の人間に吸血目的で噛み付いてはならないという事。これを破った者は魔界に強制送還となる。


ま、うちの部隊にそんな馬鹿な事をする奴はいないが・・・ジルシアは怪しいな。


今日は俺の休日だ。

休日と言っても人型が現れた場合に備えて、いつ呼ばれても動けるようにはしておかないといけないのだが。


もうここ数年、休日だからと言って何をする訳でもなく、酒は部屋で飲めばいいし、女は面倒だからいらない。ただひたすら寝たり散歩したり・・・他の連中にはジジくさいだの何だと言われているが、案外気楽でいいけどな?


今日はまたあの神社にでも行ってみるか。

もう桜は散ってしまっただろうな。


姿を消したまま、外へ飛び出すと真っ直ぐに神社の方角へと向かった。

階段下の鳥居の前につき、上を見上げると長い階段と一緒に目に入った人影。

それは以前来た時にも見かけた綺麗な女だった。


また居た、よく来るのか?


そのまま階段を上り始めると、ちょうど階段の真ん中辺りで女とすれ違った。相変わらず凄く甘くて良い香りに、思わずスゥーっと勢い良く鼻から深く息を吸い込んだ。

その瞬間に女は顔を動かさずに、視線だけでチラッとこちらを見た。


み、見たっ?見ただと?!

もうすでに階段を降り進めて背中しか見えない女を振り返って見たが、女の方は逆に振り返えりもしないし、特に何事もなかったように普通に降りていく。


そう、だよな?俺は姿を消しているんだ。

俺の方を見るはずなんてない。


バカか俺は・・・少し疲れているのか?そろそろ俺も少しハメを外して発散した方がいいのかもしれないな・・・


そんな事を考えながら境内に上がると、やはり桜の花はすでに散っており、新緑が芽吹いていた。


満開の桜の花も好きだが、やはり花が散った後の新緑も綺麗だよな。新緑を眺めながら暫くその場に佇んだ。


普段、戦いの中に身を置いているせいか、こういう何も考えずにいる時間が意外と好きだったりするんだ。


それにしてもあの女は、やはりいい匂いだったな。あの細い首筋に顔を埋めて、ずっと時間が許す限り嗅いでいたい・・・って、これじゃ本当に変態じゃないかっ!!









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