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「この国も漸く魔物が減ってきたな」

「ですね、これで少しは我々ものんびりできますかねぇ。そろそろ休暇が欲しいですよ」

「主様も人使いが荒いよね」

「他の部隊が約立たずなんですよ、我々が強過ぎるのがいけないのです」

「まぁ、とりあえず今夜は帰って1杯やるか」

「「「賛成!」」」


ロンドンの郊外にある鬱蒼とした森の中にある大きな一軒家、そこが我々の住居となっている。


テラスの窓から部屋に入ると、そこには見知った気配と見覚えのある顔の男。


「あ?何故、お前がいる?」

私達が忠誠を誓う主の側近の1人だ。

「第十五殲滅部隊ローゼス隊長殿、陛下がお呼びです。急いで身の回りの整理をして陛下の元にお越し下さい」

「随分急だな、何かあったのか?」

「それは陛下の元に行けば分かりますので。各自くれぐれもお忘れ物のないようお願いします」


身の回りを片付けろという事は、もうこの家には戻って来ないという事だ。ここは意外と気に入っていたんだけどな。


全員が部屋の片付けを終えて居間に集まったのを確認すると、空間に手を翳した。手の平から発したオーラで、目の前に現れたのは具現化された一枚の扉。

陛下から、下界に降りている殲滅部隊だけに特別に授けられた力である。


その扉を開けて中に足を進めていく我々を、陛下の側近は胸に手をあて会釈をして見送った。



扉を潜って出た先は、大きな扉の目の前。

その扉の横には、主の別の側近が待機していた。


「陛下がお待ちでございます、どうぞ」

大きな扉を開け放つと、我々に入るよう促した。


「おお、来たか第十五部隊の面々よ、急に呼び出してすまぬ」

「とんでもございません、魔王様」

4人で胸に手をあてて頭を下げた。


そう、我々は魔界の王に仕え、魔界から下界へと堕ちた魔物を殲滅する部隊に所属する者である。


「お前達の部隊には急ぎで『日本』に異動してもらう。何故か『日本』に堕ちた魔物が増えてだな、今担当している数部隊では手も足りていないうえに、少し荷が重いようなのだ」

「陛下のご指示ですでに手続きは完了してますので、すぐにでも向かってもらって大丈夫です」と側近が俺に異動に関する書類を渡しながら言った。


なるほど、今すぐに行けという事か。

『日本』はそんなに切羽詰まった状況なのか


「承知致しました。只今より向かいます」

胸にを当て頭を下げると、その場で手の平を翳し扉を出現させ、4人全員で扉の向こう側へと消えた。


魔界から堕ちた魔物は、下界の世界各国に出没するため、我々殲滅部隊は下界の色々な国へと派遣される。


殲滅部隊は様々な種族の者がいるが、我々の部隊はヴァンパイアのみで構成されており、自分を含めて四人の部隊だ。自慢じゃないが殲滅部隊の中でも最強と謳われている。


「ロンドンにはどのくらい居ました?」

「まだ10年くらいか」

「日本って前に行った事ありましたよね?」

「もうかなり前だろ?百年くらい前か」


そうか、日本から離れてもうそんなに経つのか。


扉を抜けた先は、日本での活動拠点となる我々の住まい・・・のはずだがっ!?


「ん?何だここは。来る国を間違えたか?」

思わず部屋の中をキョロキョロと見渡した。


「ローゼスが間違えるとかないですよね?ほら見てください、そこのカレンダーは日本語ですよ」


永い時を生きている我々は、下界の言語全てを話せるし、読むことが出来る。確かに目に見える字は日本語で間違いない。


「暫く来ない間に日本も変わったんですね」

「こんな豪華なマンションとかあるの驚き~。てっきり藁葺き屋根の木造家屋だと思ってたし。アハハ」


窓から外を見ると、このマンションはかなり高層なのか、綺麗な夜景が見えた。


「そう言えば日本には昔、不思議な力を持った巫女がいなかったか?」

「あ~居ましたね。流石にもう生きてはいないでしょうけど」

「人間は儚いですからね~」

「確かローゼスのお気に入りだったよね~」


ガツッ!「痛っー!」

「ジルシア、余計な事を言うな」

モルベルに拳で頭を殴られたジルシアは、涙目になりながら頭を押さえ、そんなに強く殴らなくてもとグチグチと文句を言っている。



巫女か、懐かしいな。人間の女の中では容姿が整っていて割りと綺麗だったな。

ジルシアの言う通り、確かにお気に入りの1人ではあったが・・・人間の生命は儚い。

俺らが永い時を生きる僅かな時間しか関わらない人間は、ほんの暇潰し程度にしか思ってないのが本音だ。


もしあの巫女に俺が血を与えていれば、まだあいつと一緒に居たのだろうか、それとも飽きて捨てていただろうか・・・今さらそんな事を考えても無駄な事だが。



「その力を受け継いだ子孫はいないのですか?」

「さぁ、どうだろねぇ~居たら面白いのにね」



魔王様の側近から預かった書類の中に紛れていた魔王様からの手紙。


『神無月琴の子孫を見つけ次第保護せよ』と書いてあった。何故保護しないとならないのか、そこまでは書いていなかったが魔王様の命令なら絶対だ。


だが『探せ』とは言われていないから、たまたま見かけたらという事でいいのか?

琴の子孫だろうと、あの力を受け継いでいなければ、血の繋がりがあるだけのただの人間にすぎない。


琴に似て容姿が整っているのなら俺が遊んでやらなくもないけど・・・なんてな。

正直、最近はそういうのも面倒で、人間に関わるより1人で酒でも飲んでるほうが気楽で良い。


「さぁ明日から仕事開始だ、今夜はゆっくり休め」


そのひと言で、モルベル・ブライン・ジルシアの3人はそれぞれ空き部屋に入っていった。

残った1つの部屋に自分も向かい、ロンドンから持ってきた私物を部屋に出した。

私物といっても主に衣服程度だが。


片付けを終え、明日からの仕事に備え早々に備え付けのベッドに横になったがそもそも俺らヴァンパイアは夜型だ。


夜には力が漲ってくるが、だが今夜は特にやる事もないので無理やりに目を閉じた。









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