下
放課後。
花とつるんでいる女子数名がこちらにきて、教室で待っておくようにと言いにきた。
ここは素直に待つしかないと思い、待つ。
数分経ったところで凛という子と花が来た。
急に大声で花が喋る。
「お前のせいで恥をかいた!どうしてくれるの!?」
と言ってきた。
「恥を見せてるからいけないんじゃないの?私は何もしてない。」
正直に思っている事を話す。
「私はあなたが悪いんじゃないか、と思うんだけど?」
突如、凛が言う。
「なんで?」
私は凛に問う。私は悪くないはずだ。
「だって、最初は花も普通だったでしょ?でも、あなたが小声で意味不明な事を言って、本当のことも違うと言ったからイラついた、と聞いたわ。つまり、あなたが悪いと思うんだけど?」
全く、不公平な事だ。本当のことを言ってはダメなのか?
いつも、この人たちは上に立ちたがる。自分が悪かったとは認めない。一回清算をしたほうがいいのではないか?
私は立ち上がり、筆箱を開ける。
「ねぇ、何してるの?」
花のイラついた声が聞こえる。
もうちょっとで、その声も消える。
私はハサミを持ち、花目掛けて振り下ろした。私のハサミは鋭く、花からは血が溢れ出す。
そのまま花を倒し、顔面に突き刺す。そこからも血が吹き出して、花の顔は真っ赤に染まった。
花は声にならない悲鳴をあげたっきり、何も言葉を発することはなくなった。
「きゃああああ!!」
隣で呆然とその光景を見ていた凛は、思い出したように悲鳴をあげ、腰を抜かした。
私は何をしている?花を殺したのか?
私は凛を見つめながら呆然と立ち尽くす。
私の意思でやったわけではなかった。
やりたかったわけではなかったのに。
戻らないと……。
あの力を思い出す。
不安もあったが今すぐに戻りたかった。
戻りたい、戻りたい。戻りたい!
そう強く思って、目を瞑った。
目を開ける。
目の前には花と凛がいる。
良かった、戻れたんだ。
少し安堵する。
「お前のせいで恥をかいた!どうしてくれるの!?」
花の大声が聞こえる。
慎重に、謝らなければ……。
「ごめんなさい。」
謝れたことにも安堵する。
花の顔色を伺うと、私の返答に驚いたようで、目を見開いていた。
なんでだろう?
「おまえ、なんなの?反抗したと思ったら素直に謝って……。」
「へ?」
私から間抜けな声が漏れる。
そんなに驚くことなのか?
「ま、まぁ、おまえが謝ったんならそれでよし。」
花は焦った様子で凛に「行くよ。」と声をかけ、教室を出て行った。
1人取り残された私。思いっきり?を浮かべていた……。
その日からと言うもの、力を使わない日はなかった。
学校のテストがあった時も、やり直して高得点を取ったり、大きなパフェを食べたがもう一度食べたくなり、過去に戻ってもう一度食べたり。
パフェはとてもおいしかった。
この力のおかげで、友達もできた。
喧嘩になるようなことを起こさず、無難に対応することができた。
花たちからのいじめも徐々になくなっていき、楽しい生活となって行った。
スリルを追い求めるが故に、犯罪を犯したこともあった。でも、この力のおかげでやり直すことができた。
しかし、犯罪は1、2回で辞めることにした。
犯罪を犯した後、とても後悔をしたのだ。
殺された側がとてもかわいそうだ、と。
自分がされたら嫌なんだからやめたほうがいいのだ、と。
とても軽くそう思った。
それっきり、自分にまつわることしか使わないことにした。
力を使うことは日常で、手足を使うことと同じことだった。
もう、使わない過去には戻れない。そう思うぐらいだった。
その後、何年もたったある日。
もう夜で、布団の中で寝ようとしていた。
ふと、そこで思ったことがあったのだ。
私がなかったことにした過去はどうなっているのだろう、と。
テレビを見ていて気づいたことがあった。
時間には、1日、1時間、1分、1秒、とそれごとに自分がいるらしい。
並行世界というものもあるらしく、自分は複数いるのだ。
その時はただ興味深く聞いていただけだった。
しかし、寝る前に思い出してしまった。
どうなるのか?
そのまま消えるのか、それとも別の自分が過ごしていくのか。
その思考がぐるぐると回る中で、私は無理矢理寝ることにした。
朝、目を覚ます。
今日は友達と遊ぶ予定だった。
時間は後30分もない。
急いで身支度を済まし、家を出ていく。
全速力で走る。
前の十字路では信号が変わりそうだ。でも、このまま走っていると渡り切れると思い、そのまま全速力で走ることにする。
あれ?これはどこかで……。
そう思いながらも、走る。
横から車が飛び出してくる。
あの時と同じように、私は轢かれた。
同じように跳ね飛ばされ、同じように地面に横たわる。
全身から血が出てくる。
痛い、痛い。
すぐに戻ろうと目を瞑る。
しかし、目を開けても、そこには車と私の赤い液体だけだった。
戻れない?なんで……?
視界が暗くなっていく。
走馬灯が流れる。
それはほとんど、力を使ったばかりの記憶だった。
いや、違う。
力を使わずにこの結末まで辿り着いた私だった。
この時にようやくわかった。
なかったことにされた過去がどう言うものか。
この私も、なかったことにされたのだ。
別の私によって。
そのまま真っ暗になっていく。
音をうまく拾えなくなる。
体がピクリとも動かなくなっていく。
組織が死んでいく。
冷たくなって。
心は深く後悔している。
また、走馬灯が流れ出す。
あの日のことを鮮明に思い出す。
そうだ、あの日は。
私は青かった。
そう。あの日は、私の青さと空の青さが混ざり合っていた___。