シーズン
卒業シーズンを意識させられるような話題がテレビで取り上げられるようになって、普段利用しているコンビニで少し懐かしい卒業ソングが流れたとき、わたしもフレーズに合わせて口ずさんでいた。合唱で歌った記憶が蘇ると思わずホロリとしてしまうけれど『卒業』は別ればかりじゃないということは確かにその後の人生でも感じたことで、不安はもちろんあるものだけれどそれ以上に新しい世界に飛び込んでいきたい気持ちは社会人になっても大切にしたい。色合いが可愛らしいストロベリー系のスイーツが目に飛び込んできたので手に取りカロリーを確認した結果、ちょっと運動も必要そうな数字。
<4月からジムに行ってみるのもいいのかなぁ…>
新しいことを始めるにはピッタリな季節だけれど、数日後には怜も引っ越してくる。結局その日はチョコレートを買うことにした。店を出て立ち止まり、道ゆく人の姿を少し目で追ってみて、それから街の様子を今一度見渡してみる。ここに来て何年目だろうか。どんどん思い出は積み重なってゆくし、もちろん良いことばかりでもない。2年前恋人と別れたときに引き摺らないようにと思っていたのに、立ち直るまでだいぶ時間が掛かった。職場の先輩の家に招かれたときに先輩が飼っていた黒猫に癒され、衝動的に実家の茶トラに会いにいって、そこで自分の原点のようなところに立ち返ったような気がする。
時間は進んでゆく。そんな事を感じた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
自宅。すぐにカーテンの中に隠れてしまうハンナを正面から撮影しようと少し躍起になっていたところでメッセージが届く。
『土曜日引っ越し終わったら、またそっち行くから』
怜のメッセージはいつも割とあっさりしている。
『手伝うよ』
と返信すると、
『いやいや、香純ちゃんの手を煩わせるわけにはゆかないよ』
という反応。なぜ「ちゃん」をつけるのか分からないけれど彼女は結構いたずら好きな性格で、ときどき変な言葉遣いをする。もしかしたら荷物の中に見られたくないものとかもあるのかも知れない。
『じゃあ、当日は引っ越しパーティーかな』
わたしなりにできる事を考えて、無難にオードブル的なものでも用意しようと考えた。
『よろしく!』
このメッセージのあとは気を取り直してハンナの撮影会が再開。無理強いすると明らかにイヤそうな表情になる猫なので、狙った写真にならない。小さくってすばしっこいのもあって、この日は「まあまあ」の一枚で妥協せざるを得なかった。それでも某SNSに投稿するとすぐに反応がある。投稿を続けて分かったことは、わたしが「良いものが撮れた」と感じるときにはやっぱり他の人も何かを感じ取ってくれるという事。写真に添える文面とか、写真の加工の仕方一つを取ってみても、いいと言ってもらうにはしっかり考えたり工夫をしなくてはならない。
確認すると一つ前の写真が最近では一番評価が高い。それはハンナの写真ではなくてこの間の河津桜の写真だ。『綺麗ですね!』というコメントももらっているし、やっぱりこの季節だけの光景は誰もが惹かれるのだろう。そのとき少し思うことがあって、
『河津桜』
をキーワードに検索してみるわたし。ヒットした写真はどれも素晴らしくて、中にはプロが撮影したと思われるようなものも含まれている。
「やっぱり、ないよね」
そのときの微妙な心情で探している一枚は探し出すことはできなかったけれど、もしその一枚が投稿されているのを見つけたとしたらどうするというのか。ピンクの鮮やかな色合いはスマホの画面でも際立って目を惹く。少しの間、それは確かにこの世界に現れる。『目の前に現れた証』はわたしにとって少し違う世界の入り口のようにも感じられた。




