静かな春
大学三年の春、高校時代のクラスLINEに突然の連絡があった。
病室にクラスメイト全員は入りきらないから、10人ずつ三回に分けて入った。僕らが呼ばれて病室へ向かうと、部屋の前に、「ありがとうございます。すみません。」と繰り返し僕らに頭を下げる女性がいた。母親だとすぐに分かった。涙が枯れた後も泣き続けたようだった。
病室に入ると、ベッドに彼が横たわっていて、病院の先生が僕らにお辞儀をした。目を閉じた彼は呼吸器に繋げられて、口から太い管が出ていた。間違いなく僕らのクラスメイトだった。でも、人が眠っているのとは様子が違った。呼吸器に繋がれた肺が風船のように膨らんではしぼんでいて、人形のようだった。
「彼は今、必死に頑張ってます。まだ声が聞こえているかもしれないので、皆さんから応援の言葉をかけてあげてください」と先生が辛そうな表情で言った。それは別れの言葉を意味していた。僕は言葉が出なかった。彼と親しかった一人がそばに歩み寄って、細い手を握った。みんなが思い思いに口を開いた。手を離すと、そこから彼は二度と動かなかった。機械音とともに肺が膨れて、しぼむだけだった。
原因は急性アルコール中毒だった。部活の仲間との打ち上げで飲みすぎたらしい。でも、彼が勉強熱心で、誠実で、場を和ませてくれるやつだと誰もが知っていた。きっと、その日も周りを楽しませるために飲みすぎたんだろう。だからこそ悲しかった。僕らの高校は男子校で、三年間クラス替えがなかった。僕らには何の違いもなかった。今みんなの目の前に横たわっているのが自分だったかもしれないと思うと怖かった。
そこに、彼の父親が入ってきて、お辞儀をした。誰よりも悲しいはずなのに、そんな顔は一切見せなかった。お父さんは彼のそばに寄り添って、優しくこう言った。「悠太、お前の友達、みーんな来てくれたぞ」。
こんなに悲しい日は今までなかった。帰り道、彼が生まれた日のこと、幼稚園に入った日のこと、小学生になった日のことを想った。20歳の春に彼は息を引き取った。




