童貞ハンター佐恵子(58)
我々取材班が佐恵子に密着取材を始めてから、丁度一週間が過ぎようとしていた。
「童貞が居ないわ……」
厳しい現代社会の荒波は、ベテランハンターである佐恵子をも容赦なく呑み込もうとしていた。
若くして夫を亡くし、二人の娘を抱え一人で子育てをしてきた佐恵子にとって、童貞の不漁は死活問題だ……。
「少し足を伸ばして遠くでやろうかしら?」
佐恵子は普段のエリアから、一つ隣の駅へと向かった。
そこは普段とは違い、人の波もまた別な物であった。
「居ると良いんだけど……」
佐恵子が餌となる萌えキャラキーホルダーを撒く。とある店舗でしか買えない数量限定の希少品だ。腹を空かせた童貞が飛び付かない訳がない。
佐恵子は物陰でジッと成り行きを見守り続けた。
空振りばかりの日々、交通費も餌代もバカにならない。今度こそ大物を釣り上げねば、娘達に合わす顔がないのだ……!!
「掛かったわ!」
その時、キーホルダーに反応が……!
急いで後を付ける佐恵子! キーホルダーにはGPSが仕込まれている。万が一見失っても大丈夫だが、転売されてはおしまいだ!
「居た! あれだわ!」
佐恵子が指差した先には、大きなバッグを抱え、缶バッジを大量に着けた帽子を深く被った、丸々と太った童貞が居た……!!
「100kgはあるわね! 大物よ!!」
久々の当たりに佐恵子の腕が鳴る。決して逃がしはしないと、絶妙な位置取りで童貞に食らい付く。
やがて、童貞が自宅へと入った。どうやらココが巣のようだ……。
「車無し、人影なし……洗濯物の量から見て、どうやら一人暮らしね」
佐恵子の勘がそう告げる。この道20年のベテランの目に狂いは無い……。
──と、その時!!
「タケチー殿! 居るで御座るかー?」
巣に複数の童貞らしき男達の姿が……!! どうやら童貞仲間が遊びにやって来たようだ……!
「マズいわ、数が多すぎる」
焦る佐恵子。流石のベテランハンターでもこの数を相手にするには辛い。
「もしもし、ゴメン、三人ほど空いてるかしら?」
佐恵子が何処かへと電話をかけた。同業者だろうか……?
「応援呼んだわ」
「同じ童貞ハンターの方ですか?」
「そうそう。ハンター仲間。私もこの数は初めてよ……」
スタッフも初めて目にする大物獲り。足を伸ばした甲斐があった……!
暫くして、ハンター仲間が現場へと駆けつけた。童貞を刺激しないシンプルな服に身を包むその姿は紛れもなくハンターの証……!!
「どうも」
「佐恵子ちゃん久しぶり」
「初めまして」
ベテランハンター達は挨拶もそこそこに、早速現場の打ち合わせへと入った。
「皆さん昔からのお知り合いですか?」
スタッフが声を掛けるも、その表情は険しく、詳しくは教えては貰えなかった。しかし、打ち合わせが終わると、佐恵子は笑顔で経緯を語ってくれた。
「二人は昔からの仲間なの」
どうやら駆け付けた三人の内の二人は、昔から知る顔馴染みらしい。
「美智子さん(54)と八重ちゃん(52)よ」
「もう一人の若い方は?」
「八重ちゃんの娘。(ハンター)最年少」
そこへ現場の視察を終えた仲間達が、佐恵子に合図を送った。
「さて、行くわよ……」
ベテランハンターの目に鋭さが増した。佐恵子がスマホで何かを始める。
「それは?」
「SNSで擬似餌を撒いてるわ」
どうやら童貞の好きな情報を流しているようだ。
「くるみちゃんが近くに居るで御座る!!」
佐恵子の嘘情報に、童貞が食らい付いた!! 大物童貞四人がその姿を現し、仲間達が取り囲む……!!
「ねぇ~? お姉さん達と……遊 ば な い ?」
この道20年の仕掛けに、童貞達はイチコロ……!! 理性を失った獣ほど操るのは容易い物である……!!
「はい……!! 喜んで!!」
佐恵子の顔に安堵の表情が浮かぶ……これで娘達に顔向けが出来るのだ。ベテランハンターの面目も保たれる。
「……では行きましょうで御座る!!」
──ガッ!
「へ?」
童貞達は一番若い最年少ハンターの腕を取った!
「えっ!? あっ! ちょっと! 待って! 引っ張らないで──!!」
大物童貞四人に押し流されるように連れて行かれる最年少ハンター! 経験の浅さ故に四人の童貞を操りきれない……!!
「…………」
取り残された三人の熟女ハンター達。
「獲物……逃げましたよ?」
スタッフが声を掛けるも唖然としている。
「もう……引退かしら…………」
佐恵子がポツリと呟いた。