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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

婚約破棄された彼女は思い出す。

作者: 日暮蛍

彼女はふと、シャルロッテという少女の事を思い出す。


シャルロッテの事を思い出すと、自然と学生時代の時や婚約者直々に婚約破棄を宣言された時の事も思い出し始めた。



◆◇◆◇◆



シャルロッテという少女は彼女が通っていた学院で知らぬ者がいないほど有名人だった。元は平民出身であり、とある貴族の養子となり彼女と同じ年に学院に入学した。それだけでも話題になるのだがシャルロッテは周りに好奇の視線に晒されながらも明るく振る舞い勉学に勤しむ努力家で心優しく愛らしい見た目の少女であった。

そのため、シャルロッテは常に学院の注目の的になっていた。


そんなシャルロッテに近づいたのは彼女の婚約者であり、彼女の生まれた国の第一王子だ。

平民の出でありながら優秀な成績をだしたシャルロッテに興味を持って近づいた。まぁ、それは建前。本当は愛らしい見た目のシャルロッテと仲良くなりたくて近づいたのだ。

彼女の婚約者は女遊びが大好きで友人達と一緒に学院を抜け出して夜遊びをする始末。彼女はこの国の未来の王として行動を慎むように何度も言ったが、王子は聞く耳を持たない。そして今回も下心を抱えてシャルロッテに近づき、仲良くなった。


さらにシャルロッテは王子の紹介で王子の友人達とも親しくなっていた。王子の友人である彼らは将来国の重鎮の椅子が約束されている者ばかり。類は友を呼ぶというのか、全員女好きだったり傲慢だったりと性格に大きな難がある。

しかしシャルロッテはそれを気にする事なく彼らと仲良くなり共に行動する時間が増えていった。彼女もシャルロッテが王子や王子の友人達に手作りのお菓子を渡すところを何度も目撃した事がある。


そのせいで婚約者がいる男性達と仲睦まじくするシャルロッテは王子の友人達の婚約者や他の女生徒達にとって嫌な存在だ。

それにいち早く気がついた彼女はシャルロッテが1人になったところに近づき、婚約者がいる男性に必要以上に近づくのは控えなさいと進言した。これがシャルロッテとの初めての会話だ。


シャルロッテはきょとんと目を瞬き、固まってしまった。彼女は無視をされているのか? と思いもう一度声をかけると、シャルロッテは辺りを見渡し、誰もいない事を確認すると勢いよく頭を下げた。


「も、申し訳ありません。」


それがシャルロッテの第一声だ。


「まさか、貴女様の方からお声がかかるとは思わず。私ではなく他の人に声をかけたとばかり。無礼をお許しください。」


拍子抜けした。

彼女はシャルロッテの事を数人の男を手玉に取る蠱惑的な女だと思っていた。シャルロッテの養父の家よりも位の高い家出身の彼女の言葉でも他の者と同様シャルロッテは聞き入れずのらりくらりかわされるかもしれないとも思っていた。しかし彼女の予想とは違い、今のシャルロッテは頭を下げたまま動かない。彼女の言葉を待っている様子だ。彼女は慌ててシャルロッテに頭を上げるよう言うと、シャルロッテは恐る恐る頭を上げる。その様子は怯える小動物を思い浮かばせる。


シャルロッテが落ち着くよう彼女は近くにあったベンチに一緒に座り、当たり障りのない話をし始めた。2人がいる場所は今の時間帯ではあまり人がいないため、会話を邪魔をされる事はない。最初は緊張気味で聞き役を徹していたシャルロッテだったが、だんだんと緊張がほぐれていったのか笑顔を見せはじめた。彼女自身もシャルロッテとの会話を楽しみ話が弾んでいった。

話がひと段落したところで、シャルロッテの方から本題に切り出した。


「…王子の事は、すみません。私のような身分の低い身では王子達からの誘いを無碍にする事ができず、ついつい誘われるがままで。貴女様や他の皆様にご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございません。」


シャルロッテはベンチから立ち上がって頭を下げた体勢で謝罪の言葉を口にする。彼女はこの短い時間の中でシャルロッテの事をほんの少し分かった気がした。シャルロッテ自身、悪気があったわけではない。自分のため、家のため、自分よりも立場が上の人間に逆らう事ができないのだ。

シャルロッテのために何かできる事はないのだろうかと彼女が考えていると、突然怒鳴り声が聞こえた。声の主は王子だ。どうやらシャルロッテの事を探していたようだ。2人の姿を見つけた王子は彼女を突き飛ばし、シャルロッテの腕を掴み彼女から遠ざける。そしてシャルロッテをいじめるな、と一方的に言われ謝罪も無しにそのままシャルロッテを連れて行く。王子に引きずられるように立ち去る途中でシャルロッテは彼女に言葉をかける。


「も、申し訳ありません!」


遠ざかる謝罪を聞きながら彼女はシャルロッテ達の後ろ姿を見つめる事しかできない事を悔しく思い、スカートの裾を握りしめた。


それ以降、彼女はシャルロッテと話せていない。

相変わらずシャルロッテは王子達と行動を共にしている。いや、以前よりも束縛が激しくなっている。他の者達がシャルロッテに話しかけようとすると王子達が邪魔をしてしまう。彼女も何度もシャルロッテと話をしようと試みたが王子達に拒まれてしまう。しまいにはシャルロッテをいじめる気かと言いがかりをつけられる始末。


何も好転しないまま時だけが過ぎ去り、学院の卒業を迎えてしまった。そして数多くの来賓が訪れる卒業記念パーティーで、事件が起きた。

王子がパーティーホールのど真ん中で堂々と彼女との婚約破棄を宣言したのだ。王子のそばにはシャルロッテがおり、恋人同士のように王子と腕を組んでいる。それを見て彼女はあの時見せた表情や言葉は嘘だったのか、と精神的に大きなショックを受けた。


「これで貴方とあの人は無関係。ただの赤の他人ですよね?」


シャルロッテがそう言うと王子は嬉しそうにシャルロッテの言葉を肯定し、すかさずシャルロッテに向けて愛の言葉をささやく。

それを聞いてシャルロッテは満面の笑みを見せた。


「あぁ、よかった。」


シャルロッテの笑みを見て気を良くした王子は続けて隣にいるシャルロッテと婚約すると高々と宣言しようとした時、王子の動きが止まった。 


心に傷を負いながらも王子の様子がおかしい事に気がついた彼女はどうしたんだと思いふと、視線をほんの少し下に向ける。そして、王子が苦しんでいる理由がわかった。王子の脇腹に刃物のようなものが刺さっている。まさか、と思い彼女は視線を上に向けシャルロッテの方を見て、息を呑んだ。


王子の隣にいるシャルロッテが刃物の持ち手をしっかりと握り、王子の脇腹を深々と突き刺している。シャルロッテが王子を突き飛ばすと刺されて弱っているせいか王子は簡単に倒れ、傷口を手で抑え呻き声を上げて苦しむ。 


周りの者達は突然の事に驚き戸惑い動かず見ている事しかできなかった。

彼女もその内の1人でその場に動けずにいた。王子が刺された事もそうだが、彼女の動きを止めた恐怖は別にある。

シャルロッテの目だ。

つい先ほどまで愛おしげに王子を寄り添っていたシャルロッテが今では王子を見るその目はとても冷たい。まるで汚物を見ているかのよう。目の前にいるのは本当にシャルロッテなのかと疑うほど、シャルロッテの様子は一変した。


しかしシャルロッテが彼女の方を向くとあの時と同じように愛らしい笑顔を見せてくれた。


「ありがとうございます。私のような者に話しかけてくださって。貴女様とお話ができて、私とても嬉しかったです! どうかお元気で。」


それがシャルロッテの最後の言葉だった。

シャルロッテはその場で倒れてしまった。


その後すぐに衛兵が駆けより、2人の状態を確認する。王子は呻き声をあげているためまだ生きているようだ。だが、シャルロッテの脈を確認している人がゆっくりと首を横に振るのを見た彼女は、シャルロッテが死んでしまった事を知ってしまった。

彼女は自身の従者に引きずられる形でパーティーホールから出て行くまでの間、呆然と立ち尽くしていた。  


そして彼女は馬車に押し込められ、その中で従者からこれから亡命すると告げられた。突然の事にもちろん混乱したが、そんな彼女を他所に馬車は目的地にへと向かって行った。



◆◇◆◇◆



シャルロッテの母親は王の愛人だった。王の寵愛を受けて贅沢な思いをしていたが、シャルロッテを身篭ったと分かった途端王はシャルロッテの母親を捨てた。

その後無事に生まれたシャルロッテだったがお前のせいで捨てられたと母親に恨まれ毎日虐待を受けていた。そんな日々を黙って耐えてきたシャルロッテだったが、ある日シャルロッテの中で何かが切れたのか、シャルロッテは母親を殺害した。


衝動的に親を殺してしまったシャルロッテに手を差し伸べた者がいた。シャルロッテの養父である貴族だ。彼はシャルロッテの罪を隠蔽する事を条件にある事を頼んだ。 それは第一王子の暗殺。

それを聞かされたシャルロッテは当然戸惑った。王族殺しは重罪。そんな事はシャルロッテも彼も知っている。

だから彼はシャルロッテに父親の事を話した。そしてもう一度、彼はシャルロッテに王子暗殺をお願いした。


「分かりました。精一杯やらせていただきます。」


それがシャルロッテの返事だ。


それからシャルロッテは王子に近づくために学院に入学するまでの間、血の滲むような努力を重ねた。

人に好かれる表情の作り方。人に好かれる話し方。姿勢矯正に踊りの稽古。知識を頭の中に詰め込めるだけ詰め込んだ。無駄なく王子を殺せるよう何十回、何百回も訓練をした。

どんなに辛くても決してシャルロッテは弱音を吐かなかった。王子暗殺が成功する確率を少しでも上げるためにシャルロッテは稽古や勉学を熱心に学んだ。

すべては王への復讐に大事な息子であり第一王子を暗殺をするために。


シャルロッテは許さなかった。王への恨みを自分にぶつけてきた母親を。

シャルロッテは許さなかった。母親に自分を孕ませておいて一切責任を取らずゴミのように捨てた父親()を。

シャルロッテは許さなかった。何もしていないのに偉そうにふんぞり返る(王子)を。

シャルロッテは許さなかった。人殺しを正当化しようとしている自分自身を。

ゆえにシャルロッテは自分の復讐心を少しでも晴らすために王子暗殺のために腕を磨き続けた。


日数を重ねていくうちに養父からの信頼を得たシャルロッテは王子暗殺の真の狙いを聞かされた。

革命だ。 

この国には王の圧政から民を救うため、王子暗殺を足がかりに王の失脚を目論んでいる。養父もその内の1人、との事だ。

それが真実か嘘かはシャルロッテにはどうでもよかった。シャルロッテは王子を殺し王の心に傷を負わせる事ができればそれでよかった。


学院に問題なく入学できたシャルロッテ。

努力は実を結び、シャルロッテは王子に近づく事ができた。女好きで有名な王子のために体も磨いた甲斐があり、王子はシャルロッテを気に入ってくれた。

それに加えて王子の友人達とも接点を持てた。養父から革命成功のために王子の周りにいる者達も出来うる限りでいいから役立たずにしてこいと言われていたためシャルロッテは自分の持つ全てを使って王子も友人達も少しずつ少しずつ骨抜きにしていった。

そのせいで婚約者がいる男性に近づき仲良くなっている事に快く思っていない者達から嫌がらせを度々受ける羽目になったが、こればっかりは仕方がないとシャルロッテは思う。

シャルロッテ自身も嫌いな男に色目を使う自分が嫌になるが、王子暗殺のために我慢した。


ある日、王子の婚約者である彼女の姿を見たシャルロッテは、彼女に見惚れてしまった。

美しい容姿。成績優秀。誰にも屈しないと思わせるほどの気高さ。シャルロッテは一目で彼女に心を奪われた。

別の日に彼女に声をかけられた時はシャルロッテは驚き、そして喜んだ。憧れの人に声をかけられ心臓が高鳴り、緊張してしまう。そんなシャルロッテを気遣い彼女は近くにあったベンチにシャルロッテを座らし緊張が逸れるよう色々と話をしてくれた。流行りのものや最近学院内で起きた出来事や噂話など、様々な事を話してくれた。短い時間ではあったが、シャルロッテはこの時間がいつまでも続けばいいのにと思うほどに愛おしく感じていた。


だからシャルロッテは養父に彼女の事は見逃してほしいと頼んだ。養父はシャルロッテの要望を聞き入れ、さらには彼女の一家が亡命しやすいよう色々と手配もしてくれる事になった。


心残りが無くなったシャルロッテは王子暗殺や王子の友人達を役立たずにする事に専念し、準備を進めた。

王子の友人達が毒味をさせずにシャルロッテが作ったお菓子を美味しそうに食べている姿を見て無用心だなと表情に出さず呆れた。

王子に甘え、「私だけを見て欲しい。」「あなたとずっと一緒にいられたらいいのに。」と甘い言葉をかけ続ける。やがて王子は本気でシャルロッテの事が好きになり、彼女との婚約を破棄しシャルロッテと結婚するとまで言い出した時は血の繋がった妹に恋をする王子の姿が滑稽で笑わないよう我慢するのは苦労した。

しかし、王子が婚約破棄をする事はシャルロッテの望みだ。

革命を考えている者達から微力でも彼女を守るため少しでも王子と彼女との関係性を薄くしようと考えた結果、婚約破棄をさせた方がいいと考えついたシャルロッテはあの手この手を使い王子を陥落し、自分と結婚するよう仕向けた。 復讐相手に甘言を囁くなどもはや拷問だが、彼女のためだとシャルロッテは自分に言い聞かせた。


養父と共に準備を進めたシャルロッテ。ついに王子を殺すために動き出す。


王子が婚約破棄を堂々と宣言したのを見計らい、王子が逃げられないよう腕を組み無防備な横っ腹にドレスの中に隠し持っていた刃物を突き刺した。

刃物には毒が塗られている。確実に王子の命を奪うためだ。しかしシャルロッテとしては少しでも王の心に深い傷を負わせるために王子には苦しんで死んでほしい。そのため、即死しないよう、数日は苦しむよう毒を調合して刃に塗った。突き刺した時に死んでしまわないよう刃が短い物を選んだ。

その甲斐あって毒の刃を刺された王子は苦しみのたうちまわっていた。それを見てシャルロッテは清々しい気分になった。長年の努力が報われたのだ。


後は死ぬだけだ。


このままだと王子殺しの罪で死刑にされるのは明白だ。ならばせめて自分の命は自ら断とうと自決用に奥歯に仕込んだ毒を噛み潰す。少量でもほぼ即死できるほど強い毒なのでシャルロッテはあまり苦しまずに死ねる。

薄れ行く意識の中、シャルロッテは彼女の方を見る。

あの時、学院での彼女との会話はシャルロッテにとって素敵なものだった。シャルロッテの人生の中で1番幸福な時間だった。彼女との出会いがシャルロッテにとって唯一の宝物だ。

せめて彼女は最後まで幸福に生きていてほしいと思いながらシャルロッテは達成感に満ちた死に顔(笑顔)を浮かべ静かに息を引き取った。



◆◇◆◇◆



亡命先で彼女が両親と合流してから数ヶ月が経過した。その間あの後どうなったのか彼女の家の元にも情報は届いた。

両親は彼女にもその情報を知らせた。


シャルロッテは王子暗殺を遂行した後、持っていた毒で自殺。

王子はひとまず刃物で死にはしなかったが、王直属の医師でも解毒不可能な毒によって3日3晩苦しんだ後に死んだ。

王子の友人達はシャルロッテの差し入れのお菓子に入っていた中毒性の高い薬物のせいで日常生活を送る事すら困難な状態になっていた。

シャルロッテの養父は王子暗殺の関与の疑いで指名手配されているが養父は雲隠れし、いまだに行方不明。

王と王妃は最愛の息子が死んだショックで体調を崩してしまい、寝込んでしまった。

それに乗じて王家に反感を抱く革命軍が進撃。激しい闘争の果てに王を失脚させ、革命軍は勝利を収めた。

王の失脚によって勢力が弱くなってしまった貴族達はそれぞれ亡命し、いずれは復権しようと狙っていた。


彼女は両親からの報告を聞き終えた後、ふとシャルロッテと初めて話をした時の事を思い浮かべた。そして突然、今思い出したかの様に両目から大粒の涙が溢れた。

突然泣き出した彼女を心配した両親は彼女が落ち着くまで付き添ってくれた。彼女は優しい両親に甘え、その場でしばらく泣き続けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] これはシャルロットの恋の話だったのだなぁ… 青春の恋は苛烈で鮮烈だなぁ…。きっと令嬢にも一生忘れられない思い出の場面になるんでしょうね。30年後に春の空を見ながら突然思い出したりするんだろう…
[一言] 彼女がシャルロッテに好感を持っていたことが伝わってきました。 ショックなことがあるとなんか感情がフリーズしちゃうというか、一時停止というか、そんな感じの時ありますが、彼女もやっと感情が動いた…
[一言] 赤ん坊に業を背負わせるような名付けやめようよ。たぶん全力で拒否ってるよ。
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