後編
「村に帰ってソフィーとのんびり暮らそうと思うんです。」
勇者がそう言った時、思わず二度見してしまった。
「…本気で言ってるのかしら?」
問いかけに対し、にこやかに微笑んで頷く勇者。勇者とあろう者でも幸せ惚けはするらしい。
共に魔王を倒した仲間のよしみで勇者に懇々と説明をした。
「ちっとも分かってないみたいだから教えて差し上げます。今、王宮は貴方の囲い込みに必死なの。私との婚約だなんて話が出たのもそのためね。あわよくば姫とくっつけて王族に取り込もうという思惑よ。それが失敗した今、貴方には貴族になるか騎士になるか、いずれにしろ国に飼い殺しになってもらうしかない。魔王を倒した勇者は脅威そのもの。敵国に行かれるのが一番困るのよ。敵国も貴方を手に入れようと必死になってるわ。今のところ我が国の優秀な外交官、兵士、その他諸々が頑張っているから貴方に直接の接触はないだろうけど。いい?重要なのはこれが我が国に限ったことではないということ。例え我が国を嫌って、他国に行っても貴方の扱いに変わりはないわ。多少の差違はあれど、強力な兵器として飼い殺しにされる。それが嫌ならば、一切の国に所属せず、あらゆる国の追っ手を躱しながら放浪し続けるしかない。貴方1人ならそれも可能だろうけど、ソフィーさんには厳しいと思う。貴方に取れる選択肢は多くないのよ。」
顔を青ざめさせる勇者。
ようやく自身の立場を自覚したらしい。
「ソフィーが、何と言うか…」
「貴方と二人ならどこへでも、って言うでしょうね。」
「っ、ソフィーに無理はさせられない…。」
ソフィーはごくごく普通の村娘だ。どこの国にも所属せず追われる生活に耐えられるとは思えない。
「…我が国にいるならば、私にできる限りの協力をするわ。それしか言えないけど…。」
私の言葉に、勇者は迷いながらも頷いた。
勇者が我が国に所属することを大々的に知らしめるため盛大な夜会が開かれた。父王も一安心といったところか。
勇者が望んだので夜会にはソフィーも招いた。正面から挨拶をしたのは初めてだったけれど、素朴な可愛らしい娘だ。勇者の婚約者を見た貴族の娘たちは、俄に活気だった。これならば勝てる、そう思ったらしい。馬鹿な娘たちだ。そうならば、とっくに勇者は私を選んでいるはずだ。それなのに勝てないのだから誰も敵うわけがないというのに。
馬鹿な娘たちがソフィーにちょっかいを出している。ちらりと勇者を見るが、勇者は貴族たちに囲まれてソフィーに気付く様子もない。
そうこうしているうちに、ドレスに水をかけられたソフィーがそっと会場を出た。影を制し、先に後を追う。ワインでなく水をかけたことは可愛げがあるというか、ないというか。
ソフィーは庭に面した回廊の隅でぼんやりしていた。泣いているのかと思ったが、涙は流していないようだ。強い娘だ。いきなり悪意に晒されたにも関わらず、気丈にも微笑みを絶やさなかった。
今、出ていって慰めてやるべきだ。味方のふりをして取り入れば良いのだ。人を思い通りにするなんて簡単なことだ。今までもやって来たことだ。そのつもりで追いかけてきたはずだ。
それなのに、足が進まなかった。なんだかやるせない。
影の伺う様子に苦笑を返した。
「大工のイルに任せた。」
「…さすがにこの場にいたらおかしいのでは?」
「どうかな。善良な娘だ。」
影はするりと姿を消した。
そして、どこからともかく明快な男の声が聞こえてきた。
「おや、ソフィーじゃないか!ソフィー!」
「…だれ?え!イルさん!?」
ソフィーの笑い声が聞こえてきたところでその場を後にした。空元気でもないよりマシだろう。
「姫様、話があるのです。」
夜会から数日後、勇者に呼び出された。浮き立った私の心を速やかに沈めたのも勇者だった。
「ソフィーが、元気がないようで…。力になりたいと伝えても何でもないから放っておいて、と言われてしまって…。」
しょんぼりとしている勇者は庇護欲を誘った。私だったらいくらでもお前を甘やかしてやるというのに。
「ソフィーさんは貴方に迷惑をかけたくないだけよ。それで貴方まで落ち込むことはソフィーさんの本意ではないはずよ。」
違う違う。もっと別の言葉をかけたかった。さりげなくソフィーを貶めて、私に傾くようなそんな言葉を。
「ソフィーさんが放っておいて、というなら彼女なら自分で何とかするわ。それでもだめならきっとソフィーさんはちゃんと貴方を頼る。」
だというのに、私は何を言っているんだろうか。
「貴方とソフィーさんなら絶対大丈夫。だからそばにいてあげて。それだけでいいのよ。」
私の言葉に勇者は顔を綻ばせた。やっぱり笑顔が一番、というやつだ。仕方ない。これが見たかったのだから。
「それに、私だっているわ。協力する、そう言ったでしょ?」
全く。チャンスをことごとく潰してしまった。結局のところ、私に付け入る隙なんてないのだろう。
最近、城下町で流行っているという勇者とその幼馴染みの純愛物語の観劇にお忍びで行くことになった。お忍び、なんていうものはポーズで王族専用席に案内された。
魔王を倒し、幾人もの美姫に言い寄られても一途に幼馴染みを想う勇者。愛する者のため魔王と闘う勇者には胸が熱くなった。一方、勇者があちこちの街で浮き名を流していると聞いて傷付きながらも勇者の心配ばかりをしている幼馴染みの娘。気丈に微笑みを絶やさない彼女がひっそりと涙を流す場面には一緒になって涙した。やがて魔王を倒した後の世界で、二人がすれ違いそうになりながらも劇的に再会した場面では歓声が上がった。
実に素晴らしい演劇だった。やはり脚本が素晴らしい。あの記者の才能は本物だ。
「素晴らしい演劇でしたわ!私大変感動いたしました。」
涙ながらに言えば、演劇は爆発的人気となった。光魔法の名手にして魔王討伐の一員でもあった私の一挙手一投足は国民の注目の的なのだ。
演劇のみならず、人形劇、紙芝居、詩吟と様々な形をとり国中に広まり、やがて国中が勇者とその幼馴染みの純愛を祝福することとなった。
少々時間は掛かったが、彼らが幸せに結ばれるためには時間が必要だった。
国中に祝福される勇者と幼馴染みの仲を引き裂くものはいなくなったし、爆発的人気を誇る二人に国としてもおいそれと手が出せなくなった。隣国でも人気があるというから、そのうち敵国にも広まるだろう。
「…めでたし、めでたし。というわけですか。」
国一番の役者の顔をした道化師が笑う。
「いいじゃないか。素晴らしい。」
「…貴方が報われない。全然めでたくない。」
「馬鹿なことを言うな。好きな人が出来たことが既に果報なことだ。王族でありながらなんと幸運か。」
「…いつか、勇者と幼馴染みの当て馬になった姫の演劇でもやりましょうか。」
「…私が死んでからにしろ。付き合いきれん。」
お読み頂きありがとうございました!
※追伸(で合ってるか分かりませんが…)
自分の中でいい感じに現実逃避できそうなので、世界観とか人物描写とか削りまくった部分をもうちょっと掘り下げて話を作り直そうと思います。
そこでお願いなのですが、意味がよく分からなかった部分や逆に良かった部分とか感想で教えていただけませんか!m(__)m
つまんないとか文章下手とか自己満くそ野郎とかは分かってるので、内容の部分でアドバイス頂けると嬉しいです…
厚かましいお願いですが外も暑いんでいいですよね!
(ちなみにファンタジーにおいて王様の側にいる道化師と王道的三角関係を書きたかったんですってよ…)




