訓練
柔軟、素振りが終わって型の訓練の時間になると俺の師匠であるガイさんがこちらにやって来た。
「よし、始めるか」
「宜しくお願いします!」
「そうだな…今日は型というより無手の練習をしてみるか」
「無手ですか?」
「要するに素手だ。まずは自分なりに考えて当てるつもりで俺に攻撃してみろ」
「はい!」
地面に剣を置き、ガイさんに向かって何となくボクシングの構えをとる。普段剣の訓練をしてるから新鮮だな。間合いも狭いし。
次に闘気法。全身に浸透する様に魔力を込める。アレから練習してきたものの、まだまだ魔力の流れはゆっくりでスムーズとは言えない。
そうして魔力で強化された脚力で地面を蹴り、ガイさんとの間合いを一気に詰めジャブ、フック、ストレートなどを撃ち込むがあっさり受けられ、避けられる。
「速さは中々だな。でも動きが単純すぎて読みやすい」
「目線や身体の動きでフェイントを入れたりして相手の隙を作るんだ」
「相手の重心の位置を見て次の有効な攻撃を撃て」
「よし、ちょっと良くなってきたな。そろそろこっちからも攻撃するからちゃんと受けるか避けるかしろよ?」
「相手の攻撃を大袈裟に避けすぎると体勢が崩れるぞ?ほら、こんなのろいパンチが避けられない」
「さっきから防戦一方になってる。それじゃあ一生勝てないな」
「疲れてきたか?だが先に疲れて動きが鈍ってしまえばもう負けだ。上手く闘気法をコントロールして消耗を最小限にしろ」
「よし、ここまで!」
「はぁっ、はぁっ…」
動きながら考えながら闘気法を維持しながらというのはかなりキツい!汗だくだくだ。それにしても…
「ガイさんはこれだけ動いても疲れないんですか?」
「俺が疲れないのは無駄を省いて最小限の動きをしているからだ。それに俺とミズキじゃ基礎体力に差があるし、闘気法の習熟度も全然違う。まぁミズキはまだまだと言う事さ。でもまぁ最初の頃から比べたら雲泥の差だけどな」
そんな評価を頂き、型の訓練の時間はコレで終わり。次は模擬戦の時間だ。
最近はそれなりに勝てる様になってきた…と言っても、対戦する相手は俺と同じくほぼ新人で、少しでも早く強くなろうと俺も皆も必死。相手も見習いと油断なんかしていればあっさり負けてしまう、一戦一戦が気の抜けない戦いだ。
キィン!相手の剣を弾き飛ばして喉元に剣を突きつける。
ザッ!相手の剣を回避し、懐に潜り込みつつ
剣を腹に軽く当てる。
…
そんな感じで今日は順当に勝ちつづけたので、新人騎士の中でも一番強いとされているシャガル先輩と模擬戦をする事になった。
「負けねぇぞ、ミズキ!」
「よろしくお願いします」
「では、始め!」
「はぁぁぁぁぁ!」
開始の合図と共にシャガル先輩が俺に急接近してきて剣を横に振り抜いてきた…コレを剣で受け止める。更に放たれる回転しつつの横薙ぎの剣を弾き、此方も前にでる。
「てやぁ!」
ガキィン!ギリギリギリ…袈裟斬りに放った一撃を防がれそのまま鍔迫り合いに持ち込まれる。それを嫌って相手を押し出す様にして一歩下がる。
「シャガル!やっちまえ!」
「負けるなー!ミズキー!」
『ミズキ、頑張ってー』
外野が賑やかだ。その中に小さくユイの声援も聞こえた…まだ見学してたのか。こりゃ負けられないな。
しかし今迄戦ってきた騎士達と比べて動きが速いし剣も重い。此方のフェイントにも引っかかる事なくうまく捌かれてしまう。
そこから暫く攻防が続き…
シャガル先輩が剣を上段から振り下ろしてくるが、スタミナの切れた俺はそれを防ぐのに手一杯で、その次に流れる様に放たれた一撃を防ぐ事が出来ずに直撃寸前で寸止めされてしまう。
「そこまで!勝者シャガル!」
「くっ…参りました」
「ふはは、危ない所だったがまだまだ負けないさ」
シャガル先輩と握手してベンチに戻る。
「よくやったよミズキ」
「シャガルといい勝負するなんてやるじゃないか」
先輩騎士達がバシバシと俺の背中を叩きながら慰めてくれるが痛い痛い!もうちょい手加減してほしい!
そうこうしてるとユイもやって来た。
『頑張ったね、ミズキ』
「あぁ、ありがとう」
『皆楽しそうだね。私も訓練に参加してみようかなぁ?』
「うん?いいんじゃないかな。自衛にもなるし」
『よし、母様がいいって言ったら頑張る』
「はは、楽しみだな」
今日の訓練はコレで終わりだ。この後訓練場に残って自主練をする人もいるが、俺は真っ先に風呂に入りたい人だ。
「じゃあ俺は風呂に行くから。またな、ユイ」
『うん。またね、ミズキ』
ユイと別れてから風呂に直行する。