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ミズキの異世界物語  作者: すぺぇすふぁんたグレープ
一章 ミズキ、人間を辞めるってよ
5/41

闘気法

「ミズキ君、中々様になってるじゃないか」

『うん、カッコいい』


 あれから数日経った今日、俺の寸法に合わせて仕立てられた騎士服に初めて袖を通す。今この場にはアストルさんとユイがいる。


「なんだか気持ちがキリッとしますね」

「ハッハッハ、そうだろうそうだろう」

『はい、ミズキ、この剣をつけて』

「あぁ、有難う、ユイ」


 ユイが持っていてくれた剣を腰に下げて、3人で訓練場に向かう。


「怪我が治ってからのミズキの動きは中々のものらしいな。他の騎士の連中もうかうかしてられないって息巻いてるよ」

「ここ数日調子が良いんですよね。皆さんの動きについていける様になってきたと言うか」

『私の血が受け継がれてる』

「そう聞くと俺がユイの子供みたいだな」

『私の子供…ミズキが?ふふっ』

「何で笑ったんだ」


 以前はへっぽこだった剣や槍の腕前は、毒から目覚めた後はまるで違う人の様だと言われるほど見違えていた。

 剣の振り方、相手の動きの読み方が何となく分かるし、それに身体がついていく。以前の俺からは考えられないレベルの思考速度、身体能力を発揮している。

 それが何故か調べてもらうと、どうも俺の身体に前迄カケラも存在しなかった魔力が宿っており、その魔力が影響しているのでは無いかとの事だった。恐らく列強種族である妖鬼族のユイの血を体内に取り込んだ事で起きた物だろうと錬金術師の人から言われた。

 後、先日怪我をして気付いたが、今の俺の血は紫色だ。ちょっと気持ち悪い。これ、治るのかな?


「さぁ今日から正式に騎士だ。頑張ってくれよ」

「はい!今日こそ模擬戦で勝ってみせます!」

「あぁ、その意気だ」

『頑張って』



 今は訓練場での模擬戦中。対戦相手はレイダスさんという、肌が鱗に覆われた蜥蜴族の騎士だ。


「うらぁぁぁ!」「ふぅっ!」

 レイダスさんの剣が俺の胴体を狙って振われる。それをギリギリ回避する。模擬戦で使われる剣は刃を潰してあるので切れはしないが当たると勿論痛い。骨ぐらいはあっさり折れるだろう。


 俺たちの動きで砂埃が舞い、キィンキィンと剣と剣がぶつかり合う。

 実力は拮抗している。技術的にはレイダスさん、スピードとパワーは俺が勝っている感じで一進一退の攻防を繰り広げている。

 蜥蜴族であるレイダスさんは不意に尻尾も振り回してくるのでそこにも注意が必要だ。


「てやっ!」ガキィィン!

 俺の剣がレイダスさんの剣の腹を叩き伏せる。その勢いに相手は体勢を崩す。チャンスだ!

 「ハァッ!」

 相手が体勢を整える前に剣を振り抜…かず寸止めする。ピタッと止まった剣先は胴体から10センチ程で停止している。

「そこまで!勝者ミズキ!」


 おぉぉ…と周りから声が聞こえてくる。皆この城の騎士達だ。


「負けたよミズキ」

「対戦有難う御座います」


 レイダスさんと握手をして別れる。騎士達の輪に戻ると皆に身体中をバシバシ叩かれる。痛い痛い!

「ミズキ!やったな!」

「初勝利じゃないか!」

「俺たちも負けてられないぞ」

「こりゃあ今晩は祝勝会だな…勿論ミズキは強制参加な!」


 わぁぁぁっと騒がしい。でも皆が俺の事を祝ってくれてるのを感じて悪い気分じゃ無い。


 そうこうしていると、シャニ様がやってきた。騎士達は海が割れるかの様に左右に分かれていく。


『ミズキ、丁度来た所で試合を見てはいなかったが、初勝利だって?おめでとう』

「はい、有難う御座います、シャニ様」


 シャニ様がわざわざ祝いに来てくれるその状況に周りの騎士達から羨望の目線が送られてくる。


『そうだな、私もミズキがどれぐらい強くなったのか見せて貰いたいな』

「あ、はい。じゃあ対戦相手を探しますのでちょっと待ってて下さい」

『いや、相手を探す必要は無い。私とだ』

「は!?いやいや、無理、無理ですって」


 だってこの城の頂点だよ?この間、一対一なら最強とか言ってたじゃ無いですか。勝てるわけがない。そんな俺の気も知らず、後ろから「シャニ様ー!」「ミズキ頑張れー!」と、ヤジが飛んでくる。


『強い相手と戦う事で得られる物もあるさ。さぁ、始めようじゃないか』

「ひえぇ…」


 何処と無くワクワク顔のシャニ様が手を挙げて開始の合図を出すと、俺とシャニ様を中心にまた騎士達の輪ができた。


『さぁいつでも良いぞ、寸止めする必要もない。全力で掛かって来い』


 そう言うシャニ様は手ぶらだ。腰に挿している恐らく形状は刀?を抜く気配はない。

 一先ずは牽制として間合いに入って剣を振るう。始めは肩口を狙った一撃を…既にシャニ様は俺の懐に入り込ん…でいるぅ…!?


『そいっ』


 俺の腹部を指で軽く突いてくる。頬が引き攣る…戦慄した。目を離した訳でも無いのに全く動きが視えなかった。俺が振るったのは牽制の一手。つまりジャブみたいな物で、隙を出来るだけ無くしたつもりだったのに。呆然としてしまう…


『…掛かって来ないのか?』

「っつ!」


 密着状態から逃げる為にバックステップしながら剣を横薙ぎに…


『コレは闘気法というものだ。魔力で全身を纏って強化しているから凄いスピードで動く事が出来るし、極めればこうやって指で剣を止める事だって出来る。大幅に力が上がるから騎士は皆この闘気法を覚えるために苦心する。今のミズキには魔力が宿っていると聞いた。なら使える筈だ』


 横薙ぎにした剣が指で挟み込む様に止められている。コレ、漫画で観た奴や!

 そしてなんと、俺も出来る様になるはずだという闘気法。是非覚えたい。もしかしてコレを教えるために稽古を付けてくれているのか?


『先ずは体内の魔力を全身に巡らせる』

「はい、シャニ様、分かりません」


 まず巡らせる為の魔力とやらがわからない。


『えぇと、そうだな。今ミズキは身体の中に魔力を感じているか?』

「いえ。どうやって感じれば良いのか…」

『…そうか。私は子供の頃から知覚していたから分からない理由が分からないな』


 俗に言う、出来る人には出来ない人の気持ちが分からないと言う奴か。元々妖鬼族のシャニ様には簡単でも、元が地球人の俺には難しい事なのかもしれない。でも出来る様にはなりたい。


『体内の状態を感じるために瞑想でもしてみると良いかもしれんな…そうだ、頭を貸せ』

「頭ですか?」


 シャニ様に少し屈んで頭を差し出す。その頭に手を置いて何やら唸り始めるシャニ様…なにするの?


「え?大丈夫ですか?いきなり頭爆発したりしませんよね?」

『うむ、爆発しない様に力加減を測っている』


 えぇぇ!?


「こ、怖いんですが…」

『まぁ待て。こんなもんかな?それっ』


 シャニ様が何やら力を込めると、ブァァァァァ!と、嵐の様な何かが身体を駆け巡り始めた。それに合わせて心拍数もかなり上がった…全身が熱い!


『無理矢理ミズキの魔力を動かしてみた。どうだ?魔力を知覚したか?』

「なんとなく!でもなんか身体の中が凄い事になってます!」

『それはほっとくとミズキの身体が大変な事になるから、今から根性で制御するんだ』

「大変な事ってなんですかぁ!」


 叫びながら身体を押さえ、出来るだけ冷静になって身体の中の状態を感じ取る。

 激しくなった血流に沿って魔力?が流れている感じがする。

 魔力の流れを抑えるにはどうすれば良い?深呼吸?座禅を組んで瞑想?それとも逆に力む?


 身体が悲鳴を上げ始める。このままの状態が長く続くと多分死ぬんじゃないか?。いよいよ危なくなったらシャニ様が止めてくれると思うが、男の子としてはそれまでに何とかしたい所だ…!


 瞑想してみる。すると心臓の鼓動が良く聞こえる。心拍数が平常な状態になるまで心を落ち着ける。それが出来てきたら、意思の力で暴れている魔力を少しずつ落ち着かせる。…うん、成程…少し分かってきた。流れがなだらかになってくる。


 それから数十秒ほど四苦八苦して、体内を落ち着かせる事が出来た。お陰でちゃんと魔力がある事を感じ取れるし、少しなら動かせる。


「なんとか…落ち着きました」

『よし、私に1撃入れてみろ』

「はい!」


 そう言われて、自分の隙を最小限に抑える動きでシャニ様に切りかかった。でもこれでは今までと一緒だ。あっさりと避けられた。


 闘気法は全身に魔力を巡らせるってシャニ様が言ってたな。ブワッと全身に魔力が行き渡る様にイメージしながら…!


 すると今迄とは身体の作りが違っているかの様な滑らかな動きで剣が振り抜かれる。まるで剣が羽のように軽い。身体もいつにも増して動く。そんな渾身の斬撃をシャニ様は笑顔で避けた。


『まぁこんな所だろう。さっきの一撃はいい感じだった。今日はここまでにしておこうか。まだ闘気法の入り口程度だが。次回までにはもっと魔力を自在に操れる様になっておけよ?』

「はい、ご指導有難う御座いました!」


 つ、疲れたぁ〜。シャニ様が圧倒的に強い事はわかってたけれど。でもこの闘気法をマスターしたら俺だってかなり強くなれるかも?


「さっきの動きは中々良かったぞ!」

「ミズキ、今から俺とも対戦してくれよ!」

「俺も俺も!」

「は、はい、宜しくお願いします」


 それから騎士達と模擬戦、流石にそう甘くは無く全敗。「はははっ、まだまだだな」なんて騎士達に言われながら街の居酒屋に連れて行かれた。



 翌日。


「うー、頭いてぇ…」


 コレが噂の二日酔いって奴か…頭痛いし気持ち悪い。

 飲まされすぎた…先輩達は加減を知らなすぎる。それと身体が酒臭い。一先ず風呂に入ろう。


 着替えとタオルを持って城の浴場に歩いて行く。朝早く起きたので通路には殆ど人がいない。


 この城の浴場、まるで銭湯の作りをしていて、時間帯によって男湯と女湯に別れている。

 昔シャニ様が騎士達を労う為に作ったらしい。そんな浴場には訓練終わりの夕方の時間帯ともなると人でごった返す。ここで風呂に入って食堂で美味しいご飯を食べて家に帰って寝るのだ。中々いい生活をしていると思う。


 そういえばもうちょっとで給料日だとか皆が言っていた。でも、現時点で城に住まわせて貰ってて、衣類は支給。食堂でタダで食事が出来る俺としては使い所が無い。うーん、給金が入ったら今度城下町に行ってみようかな?


 そうこう考えてるうちに風呂に着いた。番頭をしてるおじさんに声を掛ける。


「すみません、いまから入っても良いですか?」

「あー、今小さい風呂以外は湯を抜いてるが、それでも良ければ入れるよ」

「はい、大丈夫です」


 小さい風呂と言っても実際は10人程が余裕で入れるそれなりの大きさだ。一人で入るには十分だ。


「あー、すまんにいちゃん、今フィナ様が…ってもう行っちまったか。まぁ大丈夫だろ」


 既に脱衣所に入ってしまっていた俺にはその言葉は聞こえなかった。

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