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ミズキの異世界物語  作者: すぺぇすふぁんたグレープ
二章 あるいはミズキチという名の犬
42/42

クーリエ領主館

 ラミリアちゃんに連れられて豪邸の中へ。入り口を抜けた所はホテルのロビーみたいになっていて、近くにに立っていた執事的な格好をした初老の男性が「お帰りなさいませお嬢様」とお辞儀をする。佇まいが凛としていて如何にもザ・執事って感じだ。きっと名前はセバスとかそんな感じだろう、知らんけど。


「グンソク、お父様はどちらへ?」

「書斎で書き物をして居られますが、先程メイドを向かわせましたのですぐにこちらに来られる筈かと」

「そう。じゃあ取り敢えず待ちましょうか。ミズキ様はそちらのソファーに座って頂いて…グンソク、お茶の準備を」

「畏まりました」


 スッと奥へ引っ込んでいったセバス、もといグンソクさんを見送った後、ラミリアちゃんに勧められるがままにソファーに腰掛ける。向かいのソファーに座ったラミリアちゃんが俺に微笑んだ。


「改めまして、私はこのクーリエ一帯を治める領主の娘でラミリアと申します。この度は危ない所を助けて頂きありがとうございました!」

「いえいえ、この街へ向かう途中に偶然通り掛かっただけですので」

「それでもです。あの大きいオークを倒す所は馬車の窓から拝見させて頂きました。とてもお強いんですね!探索者さんなんですか?」

「一応探索者ですが、主にミスティカの騎士として勤めてます」

「あぁ、騎士さんだったんですね!ミスティカの騎士の方々は精強だと伺ってますからね。お強いのも納得です!あ、そういえば元々この街に向かっていたとの事ですがどんなご用件だったのでしょう?」

「魚を食べに来たんです。新鮮な刺身が食べたくて」

「あら…」


 ラミリアちゃんの顔が曇る。なんだろ?ダメな事言っちゃった?


「本当なら、手によりを掛けてお刺身をご賞味頂きたい所なんですが…今ちょっと漁港で問題が起きてまして」

「問題ですか?」

「はい…あ、お茶が来た様ですね」


 グンソクさんが背の低いテーブルを持って来て、それに続いてメイドさんがカートに乗っている高そうなティーポットやカップをテーブルにセットしていく。この時間、庶民な俺は落ち着かない。

 メイドさんが入れてくれたお茶をラミリアちゃんが先に飲んで、「どうぞ」と勧めてくれたので一口飲むと紅茶っぽい味がした。教養の無い俺には良い例えが浮かばないけど飲みやすく、美味しい。


「美味しいです」

「それはようございました。それでその問題なのですが、ここ最近海から魔物が沢山陸に上がってきていて、そのせいで漁が出来なくて魚が獲れないんです」

「魔物ですか?」

「はい、半魚人とでも言いましょうか。人の姿形をしていて、でも背ビレがあって魚っぽい顔をしてる魔物なんです」


 サハギン?分からんけどそんな感じか?


「以前からチラホラと出てきてはいたんですが…最近急に大群で現れる様になって、船を沈められたり陸に上がってきて漁師達に襲いかかってきたりで漁港が占拠されてしまって。それで今回女王様にご相談をしに忙しいお父様の代わりにミスティカへ行った帰りだったのです」


 女王様って、シャニ様の事かな?


「成る程。シャニ様は何と?」

「探索者と共に魔術師団を派遣してくださるそうです」

「あぁ、それなら安心かな。そっかぁ、刺身はお預けか」

「すみませんミズキ様。代わりと言ってはなんですがこの街のもう一つの特産、コケコケ鳥の料理を振る舞わせて頂きますので」

「コケコケ鳥…」


 ニワトリ的な?どんな料理だろ?

 と、そんな話をしていると屋敷の奥から中年ぐらいのガタイのしっかりした男性がこちらに歩いてくる。多分この人がラミリアちゃんのお父さん?


「ラミリア、無事帰ったか」

「はい、お父様」

「そちらがラミリアを助けてくれた方かな?」

「そうです、この方が私が魔物に襲われた時に助けてくださったのです」

「そうか、娘を助けてくれてありがとう。私はラミリアの父、ラインハルトと言う。して、貴殿のお名前は?」

「ミズキです」

「ミズキ君か。重ねて感謝を」

「いえ、当然の事をしたまでです」

「それで、ミズキ君はこの街にいつまで滞在出来るのかな?」

「休みが今日だけなので、暗くなる前には帰ろうと思ってます」

「まぁ、そうなのですか?今は昼前ですね…では早速お料理の準備をさせて頂きますね!お父様、私ちょっと席を外します」

「ラミリアが腕を振るってくれるのかい?楽しみだ」

「ふふ。ではミズキ様、後ほど」


 そう言ってラミリアちゃんが屋敷の奥の部屋へ行ってしまう。残された俺とラインハルトさん。ラインハルトさんがラミリアちゃんが座ってたソファーに腰掛ける。俺の真正面だ。


「娘自慢になるがあの歳で中々に料理の腕が良くてね」

「それは楽しみですね」

「ところでミズキ君は普段何をしている人なんだい?娘を窮地から助けたって話を聞くに探索者かな?」

「一応Cランクの探索者ですが、本業はミスティカの騎士です」

「おぉ!騎士なのか!私もこれでそれなりに武芸を嗜んでいてね」

「きっとそうだと思いました」


 だってめちゃくちゃ身体が仕上がってるもんな。身長もさっき見た感じ190ぐらいあるんじゃ無いだろうか?なので威圧感が凄い。


「本当なら模擬戦でもどうかと誘うところなのだが…今は立て込んでいてそれどころではなくてね」

「聞きました。漁港が半魚人に占拠されてしまってるとか」

「そうなんだよ。一匹一匹はそれほど大した事はないんだけど、次から次へと海から上がってきてね。何とかバリケードを作って街の方までは来ないようにしてるんだけど…」


 はぁ、と溜息をつくラインハルトさん。ご苦労様です。


「そんなわけでお昼を済ませたら私も状況の確認と全体の指揮を取りに行かなくてはならないんだ。大したお構いも出来なくてすまない」

「いえいえ、こうしてご飯を食べさせて貰えるだけで充分ですよ」

「そうか。ではまた昼食の時にでも話を聞かせて貰おうかな。それまでに書類を片付けないと」

「はい、お仕事頑張ってください」


 と、ラインハルトさんが席を立ってロビーから立ち去って行った。1人になってちょっとソワソワ。近くにメイドさんが立ってるのがなんか気まずい。えっと、昼食までこのままなのかな?


 この気まずい感じのままお昼まで待つのも辛いし、思い切ってメイドさんに話しかけてみようか。


「あのー」

「はい、なんでしょう?」


 背筋がピン!と伸びていて凛とした雰囲気のメイドさんが俺に目を合わせてくる。


「ちょっと手持ち無沙汰なんで話し相手になって貰っても良いですか?」

「はい、私で宜しければ」


 にこやかにそう答えてくれたメイドさん。


「お名前は何とおっしゃるのでしょう?」

「私はメナと申します」

「この屋敷のメイドになって長いんですか?」

「3年程になるでしょうか。まだまだ新人です。先程ミズキ様はミスティカの騎士だと聞きましたが、お若くみえる所を見ると新人さんなんですか?」

「ですね。まだ半年と少し程度のピチピチです」

「ふふっ。でも話を聞くにとてもお強いのでしょうね」

「最近ちょっと自信がついてきた所です。ところで港に出た魔物っていうのはどれほどの数か分かりますか?」

「はい、今朝の時点で百を超えているそうです。有志の方や探索者の方達の助力で何とか、という状況と聞いてます」


「メナさんは…


 そこからメナさんと雑談を交わすことしばらく。奥からエプロン姿のラミリアちゃんがやってきた。


「大変お待たせしました!…あら、随分とメナと仲良くなったみたいですねミズキ様」

「はい、とてもメナさんが話し上手で」

「ミズキ様こそ楽しいお話を有難う御座います。お嬢様、昼食は出来上がったのですか?」

「ほぼ完成ですね!盛り付けを料理長達に任せて迎えに来ました。ミズキ様は私が連れて行くから、メナは給仕の手伝いをしてくれる?」

「畏まりました。それでは」


 深くお辞儀をしてロビーの奥へ消えて行くメナさん。


「早速食堂へ向かいましょう!」

「楽しみです」

「はい!お口にあえば良いのですが」


 可愛い子が頑張って作ってくれた料理だ。父親のお墨付きもあるし期待しておこう。







 食堂に案内された俺は20人程が座れる縦長のテーブルの、ラミリアちゃんの向かいの席に座ることに。右手の上座にはラインハルトさん。多分ラミリアちゃんのお母さんらしき人もラインハルトさんの隣に座っている。


「料理が冷めてはいけない。早速食事を始めようか」

「はい、ミズキ様も召し上がってください」

「はい、いただきます」


 並んでる料理の中でもメインっぽいチキンステーキがとっても美味しそうだ。早速切り分けて一口。肉は柔らかく、味も照り焼きに近い風味でご飯が何杯でもいけそうな絶対男の子が好きな味だ。


「これがコケコケ鳥ですか。美味しいですね!」

「そうですか!嬉しいです!」

「料理上手なんですね」

「いえ、まだ勉強中で…他のも私が作ったので食べてみてくださいね」

「うんうん、ラミリアの作るご飯に胃袋を掴まれて仕方ないよ」

「お父様ったら」


 一言も喋らない奥様。なにか終始暗い顔でご飯を食べている。口に合わないのかな?こんなに美味しいのに…勝手に深読みしちゃうのも何だけどラミリアちゃんと仲が良くなかったり?


 それから美味しく食事を終わらせてお茶を飲みながら歓談。


「ラミリアちゃん、料理美味しかったよ」

「美味しそうに食べて頂けて何よりです!」

「そうだラインハルトさん。午後からちょっと港へ行ってみたいんですけど」

「港へ?魔物だらけで危ないよ?」

「これでも騎士です、有事に率先して人の助力になるべき立場なのでお手伝いできる事があればと思いまして」

「さすがですね!ミズキ様はそれはお強いので助けてもらえるのならば私達としてはとても嬉しいです!」

「手を貸して貰いたいのは確かだし、ミズキ殿が良ければ」

「勿論です。宜しくお願いします」

「あの…ミズキさん」


 と、ここでこれまで一言も話さなかった奥様が俺に声を掛けてきた。


「はい、何でしょう?」

「その胸の神像…もしかして回復魔術が使えたりしますか?」

「あ、はい。一応」

「それでしたら、私の息子を治して頂けないでしょうか」

「お前…」「お母様…」


 息子さんが怪我か何かをしているのかな?


「息子さんはどこにいらっしゃるんですか?」

「寝室に…お願いできますか?」

「出来る限りの事は」

「まさに騎士の鑑だなミズキ君は。私からもお願いするよ」

「案内しますね!」


 そのままラミリアちゃんに連れられて屋敷の2階の一室に。扉を開けて中に入った所、ベッドの横の椅子に座っていたメイドさんが立ち上がりこちらに小さくお辞儀をした。


「アルエ、どうだいカミルの調子は」

「薬師様の鎮痛剤を飲んで何とかお眠りになられてます」

「そうか…ミズキ君、見てやってくれるか?」

「はい、それでは」


 ベッドで眠る少年…多分ラミリアちゃんよりは年上な感じの、ラインハルトさんの面影があるカミル君に掛かっている布団を除けると…


「これは…」


 身体に巻かれた包帯。包帯に隠れて傷の深さは伺えないけど、明らかに胸と腹の辺りに重傷を負っている様だ。


「この街に神官や回復術師の人は?」

「いらっしゃるのですが、その方達では延命ぐらいしか出来ないと言われて…」

「魔力切れ寸前になる迄治療を頑張って貰ったのですが、内臓が傷ついてしまっているらしくて上手く治療出来ず…後数日持つかどうかと」


 哀しそうな顔で奥様とラミリアちゃんが説明をくれる。


「そうですか。俺にどれだけ出来るか分かりませんがやってみます。身体の包帯を解いてもらっても構いませんか?」


 奥様が頷くとメイドのアルエさんがカミル君の身体の包帯をハサミで切っていく。現れたのは刃物で斬られた様な胸に走る大きな傷。塞がれているもののまだ血の滲む腹部の刺し傷。

 包帯を解く間もカミル君は目を覚さない。既にかなり体力が失われている様だ。


 胸に下げた神像…シン様を握り込んで祈りを捧げる。


 …シン様、俺にこの子を救う力を。


 いつもより強く輝き始めるシン様を左手で掲げて、右手をカミル君の胸に当てる。


「………ヒール!」


 いつぞやにフィナ様の手の傷を治した時とは比べ物にならない大量の魔力がカミル君に流れ込む。光と共にどんどん塞がる胸の傷。


「おぉ…!」「ミズキ様凄いです!」

「カミル…っ!」


 少しして胸の傷が塞がったので、次に腹部の刺し傷に手を当てる。指先から俺の血を少し侵入させて内臓を確認、正常な状態になる様に意識して位置を修正しながら癒す。

 

 取り敢えずこれ以上血が流れない状態まで持って行くことが出来たので一安心。更に念入りに、身体を、活性化させるイメージで…っ!


 数十秒ほどカミル君の身体に回復魔術を掛け、目立った傷などがない事を確認。


「…ふぅ。これで大丈夫だと思います。後はカミル君の体調に合わせて栄養のある食べやすい物を食べさせてあげてください」

「凄い…何とお礼を言ったらいいか…ミズキさん、有難う御座います!」


 奥様が俺の手を取ってお辞儀をしてくる。


「いえいえ、当然の事をしたまでです。所でカミル君はどうしてこんな傷を?」

「それはですね、先日私とカミルで…」


 奥様の話を聞くと、奥様とカミル君で漁港の視察をしていた所、丁度例の半魚人が続々と沖から上がってきて襲われた際に奥様を守って大きな傷を負ってしまったんだと。


「漢だね、カミル君」

「自慢の弟です」

「…ぅ…」

「カミル!」


 カミル君が目を覚まして、ゆっくりと起き上がる。


「いたた…あれ?痛くない?なんで?」

「カミル、目覚めたようだね。怪我はこのミズキ君が治してくれたんだが、どうだ?大丈夫そうか?」


 ラインハルトさんが身体の調子を問うと、カミル君が自分の身体を恐る恐る触る。


「はい、嘘の様に調子が良くて何処も痛くないです。…あなたがミズキさんですか?」

「はい、ミズキです」

「僕自身もう諦めていたんですが、あれ程の傷を回復させる事が出来るなんて、まるで神の使いの様ですね。本当にありがとうございます!」


 ラインハルトさんが安心した様にため息を吐いた。俺もカミル君が起きるまではちゃんと治ったかちょっと不安だったけど、どうやら大丈夫そう?良かった良かった。

 しかし神の使いっていうのは大袈裟だ。俺吸血鬼モドキだしどっちかって言えばダークサイド?


「ま、まぁ無事で何よりです」

「はいっ!」


 キラキラとした目で俺を見つめてくるカミル君。


「それじゃあラインハルトさん、港に案内をして頂いても?」

「あぁ、それでは行こうか」

「ミズキさん、本当にありがとうございます!」

「え、もう言ってしまわれるのですか?是非お話しをお聞きしたかったのですが…」

「カミル君、今日はもう戻ってこないと思うけどまた今度遊びに来るよ」

「本当ですか!是非お待ちしておりますね!」


 流石に病み上がりでいきなりベッドから出るのも大変だろうからその場でカミル君(と、その場に残る奥様)とは挨拶を済ませて、ラインハルトさんとラミリアちゃんと玄関へ。


「お父様、ミズキ様、お気を付けて」

「行ってくるよ」

「お昼美味しかったよ。またね」


 玄関先からのラミリアちゃんの見送りを背に、港へ向かう。

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