ハクと遠乗り
「ハク、待たせたね」
『いや、それ程待ってない』
休日。今日は訓練場の隅にあるペガサスのハクの小屋までやってきた。今日はハクと乗馬訓練を兼ねて散歩に行こうと思う。
「アストルさんが馬具一式を用意してくれたんだ。サイズが合うと良いんだけど………うん、良さそうだな」
『久しぶりの外か。楽しみだ』
「ごめんな?中々相手出来なくて」
『いや、ここでの生活も悪く無い。食べる物にも寝る所にも困らないしな』
野生だったのに微妙にニートになりかけてるハクに申し訳なく思いながら馬具をつけ終わって背中に飛び乗る。
「そういやどうして欲しいかは言えば分かるんだからハミや手綱はいらなかったか…?」
『そうだな、無くても問題はない、が手綱がないとバランスが取りにくいならそのままでも良いぞ。それに上空は風があるから声が聞き取りづらいかもしれん』
「そう?じゃあひとまず今日はこれで」
訓練場から直接城の入り口に出られる道をゆっくり歩いてもらう。
「揺れるね」『そればっかりは慣れて貰うしかない』
少々いつもと違う筋肉が鍛えられてる感。この吸血鬼モドキな身体でもちゃんと筋肉は付くみたいなのでその内馴染むとは思うけど。
城の入り口迄くると門番をしている騎士のエリオさんに敬礼されたので返しておく。お仕事ご苦労様です。
城から出て、街道をカッポカッポと進む。今のハクは翼を小さく折り畳んだ状態なのでそんなに目立たないけど、それでも歩いてる人とかの視線が集まる。
「おかーさん、凄く白い馬だよ!」「ほんと、綺麗ねぇ」「あの肩の部分、翼か?…魔物…妖魔なのかな?」「乗ってるおにーさんイケメンじゃん?」
街の人達の雑談を俺のよく聞こえる耳が拾う。ちょっとイケメンって言われて悪い気はしないけど恥ずかしい気分…
『どうする?飛ぶか?』
「ここで飛んだら騒ぎになるから街門までは歩こう」
『そうか』
そのまま衆人環視に晒されながら歩く事暫く…
「あれ?ミズキチさん?」
ん?何処かで聞いた様な声…と思い声のした方を振り向くと、以前BAR BABARで会ったノノちゃんが居た。
「ハク、ちょっと止まって…ノノちゃん久しぶりだね」
「覚えててくれたんですね、有難う御座います!」
ペコリと頭を下げるノノちゃん。
「どう?アレから仕事は慣れた?」
「いえ、まだまだ全然です」
「そうなの?でも何だか顔が前より明るくなったね。うん、その方が可愛いと思う」
「え?や、その、あ、ありがとうございます」
『ミズキ、話をするのなら一緒に乗せてはどうだ?』
「わ、お馬さん喋るんですね!」
「そう、ペガサスなんだよ」
「え!?ペガサス!ミズキチさんにピッタリですね!」
「そうかなぁ〜。あ、一緒に乗る?時間があるならこのハクに乗って散歩でもどうかな?」
「え、リリス様に悪い様な…良いんですか?」
「全然大丈夫」
じゃぁお言葉に甘えて…と、ノノちゃんを引っ張り上げて俺の前に座らせた。周囲を見回すノノちゃん。
「視線がグッと高いです!あと…周りの視線がちょっと恥ずかしいです…」
「だよねー」
前に座ってキョロキョロソワソワしてて可愛らしい。
「今日はどこかお出掛け?」
「あ、その、近くの市場へ買い物に行く所で…」
「じゃあこのまま市場へ送ってくよ」
「え、悪いですよ!何か用事があるんじゃ…」
「ううん、単なる散歩だから。街の外には出るつもりだけど」
今日は前もってアストルさんに外出許可証を貰ってあるので一人(と、一頭)でも外出可能だ。
「街の外ですか…危なくないですか?」
「大丈夫、俺こう見えてそこそこ強いから」
「そうなんですか…でも気を付けてくださいね?」
「うん、心配してくれて有難う」
「いえ、そんな…」
カッポカッポ…市場までの道を歩いていく。
「そう言えばノノちゃんっていくつなの?」
「あ、15です」
「若いね、どうして夜のお仕事に?」
「ウチのお母さんがママさんと一緒に働いてた事が有るらしくてそのツテで」
「お母さん公認なんだ」
BAR BABARは健全なお店だからそんなに心配も無いか。何かあってもリリスが居るしね。
「大変じゃない?」
「そうですね、入って暫くはドキドキしっぱなしで大変でしたけど最近少し慣れてきて、お客さんにも顔を覚えてもらえ始めたので楽しいです」
「そっか」
「…あの、ミズキチさん」
「うん?」
「もし良かったら今度また遊びにきて下さいませんか?」
「あぁ、うん。じゃあまた近いうちにお邪魔するよ」
「本当ですか?嬉しいですっ」
ノノちゃん頑張ってるな。初めはあんなにオドオドしてたのにしっかり呼び込みまでしてるし。
そうこうしてるうちに市場に到着。ノノちゃんを降ろしてあげる。
「じゃあミズキチさん、お気をつけて!」
「うん、ノノちゃんまたね」
市場の前に降ろしたノノちゃんが見えなくなるまで手を振ってくれるので振り返しながら、街門へ向けてハクに歩いて貰う。
少しして街門が見えてきた。この街の街門は基本それ程出入りが多くは無いので道は空いてる。
ゆっくりハクを歩かせて街門に辿り着くと門番をしている兵士さんに止められた。
「1人か?」
「そうです。アストル総長から許可証を貰ってます」
兵士さんに許可証を渡す。
「…確かに。外は危険だから十分に注意しろよ?」
「はい、気をつけます」
「では通ってよし」
兵士さんに通して貰い、街門を潜った俺たち。早速ハクに空を飛んで貰う。
かなり高く空に昇った所で振り向いてみると、視界一杯にミスティカの街並みが見える。これはかなりの絶景。みんなにも見せてあげたいね。
『ところで何処に向かう?』
「うーん、そうだなぁ…」
この街の東には海があって、漁港が有る街が有るらしいからそっち行ってみようかな?もしかしたら新鮮なお魚が食べられるかも?
「東へ行こう。あの街道沿いに飛んで貰えるかな?」
『わかった』
ハクが空を駆けるように旋回、俺達は東へ向けて飛んでいく。
「空に上がったけど、声はなんとか聞こえるね」
『今日は風がそれ程強く無い。それに丁度風に乗っているのもある』
「そうなのか」
『怖くは無いか?』
「いざとなったら自分で飛べるから大丈夫」
そのまま景色を眺めながら飛び続けること10分程…街道で魔物に道を塞がれてる馬車を発見した。あれはオークの群れかな。護衛らしき人も居るけど魔物の数が少し多いか?多分何とかなるんだろうけど…いや、なんか妙にデカいオークも居るな。危ないかも知れないし手助けしようか。
「ハク、あそこに降りてくれる?」
『あいわかった』
風を切るように馬車を飛び越え、オーク達の向こう側に降り立った。ハクの背中から飛び降りる。
「ハクは守らなくても大丈夫?」
『問題ない』
と、言うことで相棒を抜き放って近くのオークに向けて走り出す。そのまま素早く一匹のオークの脳天に相棒を大上段から振り下ろした。
「ラッ!」「プギャッッ!」
切れ味というか相棒の丈夫さに任せて叩きつける。ゴキャン!と言う大きな音がして頭が粉砕されて倒れるオーク。近くに居るオーク達がコチラを注視した。
ひぃふぅみぃ…残り7匹か。後3匹ぐらい相手すれば馬車の護衛の人達も余裕が出来るかな?
「ロナンシア、頼んだぞ」
『さー!いえっさー!』
良い返事な相棒を握りしめて一番近くにいたオークに向かって猛ダッシュ。槍を持ったオークが俺に向かって槍を突き出してくるけど遅い。スッとギリギリを回転する様に横に避けてそのまま勢いで一匹の首を刎ねる。次!
ブォォォォ!!雄叫びをあげてオークが急接近してきて手にした棍棒を振り下ろしてきたそれを横から相棒の腹で叩いて逸らしながら、もう片方の手に相棒を象ったロングソードを血で作り出してオークの額に突き刺した。崩れ落ちるオーク。次!
次のオークは上から見ても大きかったオーク。普通の奴より明らかに大きくガタイが良くて、グレードソードってぐらいの大きな剣と小さな杖を持っている。多分上位個体ってヤツなんだろう、この群れのリーダーなのかもしれないな。そのオークがこっちに杖を向けてファイアボール的な魔法を連続で3発放ってきた。
「シン様、聖壁を」
胸の神像が輝くと俺の周りに光の壁が出現、その壁がファイアボールを遮って爆発させる。爆炎が広がり熱波が俺の身体を舐めるけどこの程度は問題無い。対抗して俺も魔術を準備する。
「風よ、水よ、内に眠りし魔力を喰らいて、我が敵を貫く雷光と化せ、ライトニング!」
タァン!閃光を伴う電撃が聖壁をすり抜けて上位個体のオークにぶち当たった。片膝をついてグレードソードを突き立てて倒れない様に必死のオークにダッシュで接近、その頭に向けてロナンシアを振り下ろした。けれど杖を持った左腕を犠牲にして頭を守ったオーク。腕の半分ぐらいまでは食い込んだけど断ち切れず、グレードソードを振り回すオークに回避行動を取らされ大きく距離が離れる。
ブォオォォオ!とオークが叫ぶと、左腕が急激に再生した…!?
オークは確かに普通の人に比べて遥かに再生能力が高いけど、こんな吸血鬼じみた再生力があるとは聞いた事がない。オークの上位個体というのはこういうものなのか?それともこのオークが特別なのか…?
ブォッ!と強い鼻息を漏らすオークが両手でグレードソードを握って俺に突撃してくる。3メートル近い巨体が凄い速度で向かってくるのはまるでトラックが正面からぶつかってくるかの様なプレッシャー。受ける為に左手に血で作られた盾を構える。リリス師匠から伝授された血塗られた盾だ。
オークが突進の勢いを乗せ、全力で振り下ろすグレードソードを、可能な限り強度を高めた盾と、全開の闘気法による踏ん張りで真っ向から受ける…ガキィィン!!と割れる様な衝突音、ブーツが地面にめり込むけど、その分踏ん張りを効かせて、
「”飛刃”っ!」
チカラが込められた”真言”と共に踏み込んで相棒を振り抜くと、不可視の刃が飛んでいき、剣の届かない距離のオークの首を飛ばす。頭を失った巨体がドウッと地面に倒れ伏した。
魔術や魔法の様に、言霊と魔力によって世界を捻じ曲げて自身の求める現象を起こす技術、真言。とっておき、奥義、必殺技とも言える一撃を可能にする。高い集中力、魔力、特に高いイメージ力と精神力が必要だ。
この真言、教えてくれたリリス曰く「出来る様になるの早すぎ」と褒められた。俺に流れる紫の血と、日本でのサブカル的知識がうまいこと噛み合ってるのだと思う。
「ふぅ…しかしこいつは強かったな…」
俺が通り掛からなかったら結構大事になってた気がする。
リーダーを失ってか、散り散りに逃げていく残りのオーク達。もう大丈夫かな?と、相棒についてる血を払って布でしっかり拭き取って鞘に仕舞う。
少しして馬車から小学の高学年ぐらいに見える女の子が従者と一緒に降りてきて、コチラに小走りで近づいてきた。
「助けて頂いて有難うございます!私、ラミリアと言います!是非お名前を…!」
「俺はミズキって言います」
「ミズキ様ですね…!是非お礼をしたいのですが今手持ちが無くて…」
「いえいえ、お構いなく」
「そうはいきません!ただ施しを受けたとあっては父に合わせる顔がありません!そこでなのですが、この先の街に私の実家がありますので、そこでおもてなしをさせて頂くと言うのはどうでしょう?」
「この先の街と言うと、漁港があるっていう?」
「そうです!是非ご一緒に」
目的地だし良いかな?ちょっと寄って、刺身とかが食べられそうなお店でも紹介してもらおう。
「じゃあまぁ、はい」
「良かった!それではついて来て貰っても良いですか?あと10分ほど走れば着きますので」
「わかりました」
と、言うことで再びハクに跨ってラミリアちゃんの乗る馬車について行きながら景色を楽しむ。と、馬車の周囲にいた護衛の1人がコチラにやってきた。俺よりは年上に見える青い肌の鬼族の青年。
「お前強いな。ミスティカの人か?」
「どうも、そうですね」
「その馬はペガサスか」
「ですね。この間仲良くなりまして」
「良いなぁペガサス。俺も乗って見たいぜ…で、こんな所で何をしてたんだ?」
「新鮮な刺身を求めて東の港町まで行ってる所なんです」
「あー、なるほどな。丁度通りかかってくれてマジで助かったわ」
「皆さんは探索者の護衛依頼任務の途中で?」
「そうそう」
とまぁその男性…カラムさんと雑談をしながらカッポカッポとハクを歩かせていると、やがて港町が見えてきた。
街の入り口は馬車から出てきた従者さんが何やら資料的なものを門の兵士に見せて護衛の人共々通して貰っていた。
俺は別なので兵士に探索者カードを見せると「何をしに来た?」と聞かれたので、「刺身が食べたくてきました」と正直に答えた。あ〜…って顔をされた後、「悪さするなよ」と、道を開けてくれたので街の中に入ることが出来た。
入り口のすぐそこで待っていてくれたラミリアちゃんを乗せた馬車が再出発するのに合わせて俺もその後ろについていく。
港町クーリエ。海岸に沿って白い建物が立ち並ぶ、海の青さとのコントラストが見るものを楽しませてくれる、何とも港町然とした景色が広がっている。
クーリエのメインストリートを歩いていると、道にいる人々が俺、と言うかハクを指さして目を輝かせている。まぁハクはカッコいいからな。注目を集めるのも頷ける。
お店もチラホラと見かけるけど、雑貨は並んでてもお魚を並べてる店は見当たらない。鮮魚店みたいな店は?って思ったけど…もっと別の場所にあるのかな?
メインストリートを抜けて、高級住宅街的な所に差し掛かった。確かにラミリアちゃんはお嬢様って感じだったから納得だ。そして更に進んで一番奥の豪邸に辿り着いた。あ、もしかしてこの街の偉い人の子だったのかな?
豪邸の門の前で馬車からラミリアちゃんと従者の人が降りてくる。俺もハクから降りる。
「探索者の皆さんお疲れ様です。依頼完了証をお渡ししますので協会で報酬を受け取ってください。この度は有難うございました」
「確かに。また宜しくお願いしまさぁ」
「えぇ、またその時は」
護衛パーティの代表のカラムさんが証書を受け取った後軽く挨拶をして、仲間を引き連れて歩き去っていった。
「それではミズキ様、こちらへ。お馬さんは…」
従者さんにハクを任せて、ラミリアちゃんに促されて正面の門から中へと入っていく。




