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ミズキの異世界物語  作者: すぺぇすふぁんたグレープ
二章 あるいはミズキチという名の犬
40/42

ユイとプリテス様

 魔族のお姫様を救護室送りにした後、何事も無かったかの様に再開された訓練がつつがなく終わり、お風呂を済ませて食堂で日替わり定食を食べているとテーブルの向こう側に気配を感じた。顔を上げるとそこには定食のお盆をもったユイとプリテス様が立っていた。


『ミズキ、相席いい?』

「あ、うん。どうぞ」

「邪魔をする」


 プリテス様が対面、ユイは俺の左側に座った。2人して定食に手をつけずにこっちを見てくる。なんかご飯食べにくいんだけど。気まずい。

 何の用事だろ?昼間の一戦は納得いかないとかそういうイチャモンをつけに来たとか?仮にもお姫様の頭を掴んで地面に叩きつけたからな。…え、もしかして打ち首?


「…で、2人はどうしたんだ?何か話があるのか?」

『えっとね、プリテス姫がミズキに謝りたいって』

「え?別に謝って貰う事が無いんだけど…むしろ俺が謝る側のような」

「いや、妾は暴れたいの一心でミズキの話を聞かずに無理矢理戦いを仕掛けたからな。まずはそれを謝らせて欲しい。すまなかった」

「いえいえ、それは良いんですけど…それより俺、思いっきり叩きつけましたけど頭は大丈夫ですか?」


 …そんなつもりはないけど、この言い方だとバカにしてるみたいだな。


「あぁ、私の身体は頑丈だから。とは言え、色んな意味で意識が飛ぶ程の衝撃だった。今まであれ程一方的に負けた事は無かった」

「そ、そうですか」

「ユイ姫に聞けばたった半年程度の期間でそこまで強くなったそうじゃ無いか。聞くだけでも興味が尽きない」

「それはどうも?」

「で、だ。試合前にあの様な啖呵を切った手前、妾としてはミズキに婿となって貰いたいのだが…」

「はぁ………はぁ?」


 何、この子、もしかして俺の事口説きに来たの?頭叩きつけられておいてその日のうちに?強く打ちつけて頭がおかしくなったんじゃ無くて?それに負けたら結婚とか、それってそういう魔族の風習か何かなのかな?あー、文化が違うなぁ。

 プリテス様を見る。勝気な赤い瞳で整った顔立ち、左右の巻角が凄く立派で、紺色の髪をポニーテールにしてて雰囲気的には陸上部のスポーツ少女な感じ?可愛いけど発言はとっても脳筋っぽい。

 まぁでもなぁ…


「いやー、俺、試合前にも言いかけましたけど心に決めた人が…」

「確かにそんな事を言っていたな。その者に会わせて貰う事は出来るか?」

「それは…どうするつもりなんですか?」

「どちらがミズキに相応しいか決闘をだな」

「あー、却下で」


 心に決めた人。頭に浮かんだ顔は朧げでハッキリとは思い出せないけれどそれは元の世界の後輩ちゃんの筈で。ちょっとリリスの顔がチラつく気もするけど…

 決闘自体も困るし、そもそもの話後輩ちゃんがどこにいるかも分からないし。


『ミズキには吸血鬼の彼女がいるよ』

「ほう…」

「何度も言うけどリリスは彼女じゃ無いからね?」

『嘘。もう結婚秒読みって聞いた』

「何それ、誰情報?シャガルン先輩?」

『シリウス。お持ち帰りされてたって』

「いやいや、確かにそういう事もあったけども」


 確かにそれは否定できない事実ではある。

 BAR BABARでシリウスさん達と飲んでいて、リリスに次々とお酒を注がれ気付いたらリリスの部屋のベッドの上だった。

 当然と言わんばかりに隣にリリスが寝ていて、いつもの如く足を脚で挟まれ、腕は胸で挟まれ、首には腕が回されていると言う逃げられない状態。しかもその時はリリスが完全に寝入っていて起こすのもどうかと思い暫くそのまま抱き枕としての職務を全うした。リリスが寝返りを打った際に抜け出したけど俺がチワワじゃなくて狼だったなら危なかっただろう。


『今度その彼女さん達とお泊まり会をするんだよ。プリテス姫も一緒に来たら良い』

「ならその時だな。吸血鬼か…腕が鳴るな」

「いやいやいや…」


 この間リリスとテトにユイがお泊まり会に参加したいと言っていたという話をして、OKを貰ったのが最近の事。場所はリリスの屋敷の少し広い一室でテトが頑張って掃除をしてくれた。布団もリリスが新しいのを購入してあり準備は万端らしい。


『楽しみ。でも会うの初めてだから緊張するかも』

「妾は気分が高揚してきた」

「ほら、人数が増えると問題あるかも知れないしリリス達に聞いてみないとさ…」


 後日リリス達に確認をした所「お姫様が1人も2人も一緒でしょ。どんとこい!」という頼もしい返事を頂いた。布団も多めに買っているから大丈夫だとか。そして決闘についてリリスに説明すると、「ミズキを賭けた決闘?よーし、負けないよ?」と俄然乗り気だった。

 あれ?コレって勝った方と結婚しなきゃいけない流れ?本人の意思を無視して勝手に勝負の報酬にしないで欲しいです。





「この国の武具も中々…このハルバートはコラン鋼で出来てるな。作りもしっかりしている」

「そうなんですか」

「興味無さそうに返事をするが…ミズキも剣ばっかりでは無く、槍や弓も触ってみるべきだ」

「あー、そうするとこの剣が嫉妬するので」

「…剣が嫉妬とはどういう意味だ?」

「俺のこの剣、意思があるんですよ。ロナンシア、挨拶して」

『はーい!プリテス様、初めまして!』

「おぉ…?なんと、剣が喋るのか。面白いな」

『私も初めて見た。凄い』


 今日はプリテス様が街を視察したいと言う事で、あれからなんかプリテス様担当みたいな扱いをされてる俺とまさにプリテス様担当のユイと一緒に城下街へ降りてきた。そして吸い込まれるように武具屋に入っていき武器を手に取るお姫様に付き合って俺達もそれらを眺めている所。


「お、あんちゃんじゃ無いか!」

「あ、店主さん」

「どうだい、前に買ってった剣の調子は…違う剣を腰に刺してるみたいだけど買い替えたのかい?」


 この店は以前ロナンシア…俺の相棒を売ってもらった店だ。その店主さんが俺の腰の剣を見てそう問いかけてくる。


「見た目は変わってますけどコレはあの時のロングソードですよ」

「へぇ?作りを新調したのか。よく見れば鞘も柄もかなり良い素材だ…まぁ大事に使ってるみたいで何よりだよ。で、こっちの魔族の別嬪さんは?あんちゃんの彼女?」

「いえ、彼女では…」

「妾は嫁だ」

「違う違う」

「嫁さんと一緒なのにもう一人貴族の女の子を連れてるなんてあんちゃんどういう事…って、そちらの方はユイ姫様!?」

『お邪魔してます』

「あんちゃん何で姫様と一緒なんだ!?わー、姫様が来られるのが分かってたらもっと店を磨いておいたのに!」


 ユイの正体に気付いた店主さんがあたふたしてる。ユイはこの国ではアイドルみたいな扱いをされててミスティカの民達に大人気だ。


「エランテの住人が妾を見た時の反応と全然違う」

「プリテス様…返答に困ります」

「姫様!是非ウチの武具を買ってって下さい!姫様に買って貰えたら箔が付くってもんです!勉強させていただきますよ!」

『でも私、お金あんまり持ってない』

「幾らぐらいお持ちかお伺いしても?」

『1万くらい?』

「1万かぁ…でもあんちゃん方式なら!」

「え?俺?」


 店の奥に入っていった店主さん。ガチャンガチャンと大きな音が聞こえてくる。少しして剣や槍、斧等が目一杯入ったカゴを持って店主さんが出てきた。そして俺たちの目の前にカゴを下ろして手を広げる。


「この中のどれを選んでも1万ポッキリです!」

「俺の時より安い…」

『え?いいの?でも申し訳ない…』

「良いんです!前にあんちゃんに剣を売ってから、下取りした武器を鋳潰すのを辞めてお金の無い新人の子達に格安で売るようにし始めたんですけど、コレが中々良い感じで。後でお金の貯まった子がわざわざウチの店で武器を買ってくれるんですよ。で、また下取りに出してくれるのでそれをまた次の子に…と、これで結構儲けさせて貰ってます。それにあんちゃんにも言ったけど、俺が買い取った武器をどう扱おうと俺の勝手です!」

『そ、そう…じゃあお願いしようかな』

「因みに姫様は普段どんな武器を使ってるんで?」

『細身の剣かな?』

「なら…コレと、コレですかね」


 店主さんがカゴから抜き出した2本の剣。中古品とは思えないぐらいに綺麗だ。

 まずは…と言って片方の剣を鞘から引き抜き剣身を翳して解説をしてくれる。


「こっちは俗に言うレイピアタイプで片手で取り扱うのに適した重さ、細さです。突く事に重点を置いた作りで、しかしコレは比較的幅広い剣身なので斬撃にも適していると言えます。中古ではありますが曲がりも錆も無く、中々上質な鋼で作られているので丈夫です」


 レイピアを鞘に戻しカウンターに立て掛けて、もう一本を鞘から抜いた店主さんが続けて解説してくれる。


「コレはエストックタイプです。細く、長く、故に突きに特化しています。両手で持って突きを放てば一般的な鎧の鉄板程度なら突き破るほどの威力が出せます。この剣も良い鋼が使われているので丈夫さは保証します。どうでしょう?」


 エストックを鞘に戻してコレもカウンターに立てかけ、ユイを伺う店主さん。

 2本とも絶対に1万どころか10万出しても買えないってぐらい良品だ。そんな2本の剣を見つめて悩む顔をするユイ。


「ユイ姫にはおそらくレイピアの方が向いているだろうな。しかし妖鬼と言うと刀を主武器にする事が多いイメージだが」

『刀…それなら母様に言った方が良いかも。でも刀よりは軽い剣の方が私的にしっくりくるかな』

「そうか、まぁそこは個人の自由だな」

「どちらになさいますか?」

『じゃあ…レイピアにする』

「毎度!」


 ユイが店主さんにお金を払って剣を受け取っているのを見ていると、ロナンシアが小声で話しかけてきた。


『主様主様』

「どした?」

『カゴに刺さってる1本の剣が気になります』

「うん?どれ?」

『あの奥の右側のヒルト(柄)がカッコいいやつです』


 アレか。ちょっと聞いてみるか。


「店主さん、その奥の右の剣を見せてもらえないですか?」

「ん?コレか?コレはなぁ…」


 カゴから抜き出した鞘に入った剣は全体像を見ると少し短めの細身の直剣…

 その剣を鞘から抜いて剣身を俺達に翳す。


「この間下取りで買い取った剣なんだが、正直コレは中古としても売り物にならないから鋳潰そうと思ってる奴なんだ。よく見てみると少し曲がってる」


 店主さんが剣を渡してきたので受け取って眺める。刃が欠けてボロボロで、言われた通り少しだけだが曲がってしまっている。


「確かにこれは…」

『…泣いてる』

「ん?」

『この剣が泣いてます。私と同じで心が有るんです』

「そうなの?」

『もう、誰かに使ってもらう事はできないって』

「…」


 俺に伝えてくるロナンシアの声は小さく、悲しそうで。同じ意思のある剣としてこの剣に絆されているんだろう。俺も何とかしてやりたいとは思うけど…


「こう言うのって、鍛冶屋に持っていって直して貰ったり出来ないんですかね?」

「いやぁ、極々微細なレベルの歪みなら修正も出来るだろうけど、一度このレベルで曲がってしまったら形だけ直しても強度は格段に落ちるから無理だろうなぁ」

「そうですか…」


 鍛冶じゃダメか。後思いつくのは前にロナンシアが言ってたみたいにシン様の力でこの剣に力を纏わせて悪魔を倒せば神鋼になってどうにかなる可能性も無きにしも非ずかも?一回試すか?

 剣の柄を握って、服の下にある神像を取り出して祈る。シン様、この剣に力を。

 …だけどロナンシアの時みたいにはいかず、うんともすんとも光らない。


『主様、もうこの子には神気を受け止める力が無いんです』

「そうか…どうすっかな」

「なぁあんちゃん、さっきから何してるんだい?」


 ロナンシアが小声で話してるのでまるで俺が1人でブツブツ言ってるように見えたようだ。


「いやぁ、どうにかこの剣を直して使えないかなって」

「直す?うーん、溶かして打ち直すんじゃ駄目なのかい?ってもそれだと新しい剣を買った方が安上がりだろうけど」

「ですよね」


 それに溶かしてしまうとこの剣の意識も纏めて溶けてしまいそうだな。やってみなきゃわからないけど、やってダメだったらなぁ。


『ティア様に見て貰ってはどうでしょうか?』

「あ、成程?」


 あの神様の一部なティアさんなら何とかしてくれるかも?今度休み取って一回行ってみてもいいな。よし。


「店主さん、この剣、俺に売って貰えませんか?」

「欲しいのかい?良いけど。というかその剣はもう売るに売れないしタダで良いよ。持ってって」

「いいんですか?有難う御座います」

『ミズキ、その剣どうするの?』

「欠月山にいるティアさんに見せようと思って」

『ティアさん?新しい彼女?』

「いや違う違う」


 ユイは誰とでも俺をくっつけたがるなぁ。


「ユイ姫、欠月山のティアというのは月涙の剣ルナーティアの事だと思うぞ?」

『あ、何か聞いた事あるかも。月の女神の涙がなんとか』

「それそれ」

「あんちゃん欠月山の頂上に登った事があるのか?」

「この間シリウスさんって人と一緒に。山は登ってないんですけど、ティアさんには会いましたよ」

「ティアさんって言い方をすると言う事は剣じゃなくて人型なのか?」

「本当は剣らしいんですけど、その時は人の姿で」

『へぇ…今度行くの?』


 そう俺に問いかけると同時にユイの瞳が俺を見つめ、色彩が赤く、紅く色付きゆらめく。何かを見透かされてるような…何を見てるんだろう?

 少ししてユイの瞳の色が元の赤に戻った。納得と共に何か決心したような顔をしている。


『それ、私も連れてって欲しい』

「姫様、街の外は危ないですよ!?」

「ユイ、店主さんの言う通りだよ。それになんでついて来たいの?」

『説明するのはちょっと難しい。でも…』

「まぁまぁ、こうしよう。欠月山に行く時には護衛として妾がユイ姫に付くと言うのでどうだ?」

「うーん…」


 プリテス様の強さは疑う余地無しだ。それに護衛の騎士…多分アリスさんもついてくるんじゃ無いだろうか?だけど欠月山の麓の森で俺たちは恐らく分断されて試練を受けさせられる。俺とプリテス様、アリスさんはまだしもユイには厳しい筈。それに今回は森にティアさんが降りてきてくれるとは限らないから、それ程標高が高い訳では無いものの山登りをしないと行けないかも知れない。更には第2第3の試練があるかも知れない。

 ここは断って1人で行くべき…


『大丈夫、行くとしても数日間の休みを取らないとだからまだ1ヶ月ぐらいはある筈。その間に特訓して強くなるから』

「あー、まぁ…」


 ユイは儚い雰囲気をした女の子だけど妖鬼族だ。少し訓練に参加したと言う程度ですぐに新人騎士達を上回るほどの戦闘への適正がある。1ヶ月、しっかり訓練すれば確かにかなり強くなりそう。


『プリテス姫、私の特訓に付き合って貰っていい?』

「願っても無い事。妾の訓練は厳しいぞ?しかし、この街に来た時はどうしようかと思っていたが案外暇しなくて済みそうだ。あと、妾の事は呼び捨てで良い」

『じゃあ…プリテス、私も呼び捨てで』

「あぁ。ユイ、城に帰ったら早速始めよう」

『うん』


 ユイとプリテス様が微笑みあう。少し距離が縮まったようでなによりだね。

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