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ミズキの異世界物語  作者: すぺぇすふぁんたグレープ
二章 あるいはミズキチという名の犬
37/42

ユラ

 鍛冶屋を出た俺はそのままその足で探索者協会へやって来た。何かいい仕事が有れば良いんだけどな。

 昼前の時間帯で、協会内は閑散としてる。カウンターには凄く暇そうに爪の手入れをしているミスティさん。こっちに気づいて手を振って来たので俺も手を振りかえす。


「こんにちは」

「ミズキ君いらっしゃい、今日はどうしたのかな?」

「金欠なんで何か手頃な依頼は無いかなって思いまして」

「前もこんな事あったわねぇ。でも昼前だから良い依頼はみんな取られちゃってると思うけど」


 カウンターから出てきたミスティさんと一緒に依頼掲示板を眺める。確かにどれも1日じゃ終わらないか、達成するのが難しいか、逆に簡単だけど報酬が少ないか…そんな依頼ばかりだ。


「後は協会発行の常設依頼ぐらいかな」


 うーん、ロナンシアから剣を抜くなと言われてるのが胸に引っかかるので街中の依頼が良いんだけど、常設された依頼は殆どが街の外の魔物討伐系だ。国が大元の依頼主で、街周辺の治安維持の一環らしい。Cランク以上の探索者がチームを組んで事に当たる依頼だ。周辺の魔物は強いので危険度も高い。


「良いの無いねぇ」

「無いですねぇ…この前のリリスの依頼みたいなのは手元に無いんです?」

「アレは偶々。リリスは友達だし粗野な人に受けさせたく無いからボードに貼らなかったのよ。あんまりピンと来る人が居なくてね。ミズキ君なら真面目で優しそうだし、良いかなって」

「それはどうも?」

「そういえばリリスの屋敷の掃除すればお金貰えるんじゃないの?」

「それがこの前リリスが屋敷の使用人を雇いまして。なので仕事が無くなったんです」

「あらら、今プー太郎なのね」

「い、一応騎士では有りますから」


 そんな話をしている所にバァン!と、唐突に開けられた協会の扉。驚いた俺とミスティさんが振り向くと、扉を開けたそのままの勢いで入って来た14、5歳ぐらいに見える女の子。

 ボブカットな黒髪で、黒い眼をしている。黒に近い赤のローブを纏って、手には女の子の身長ぐらいある長さの杖を持っている魔術師然とした格好だ。

 その女の子がカウンターの方へ歩いて行き、天板を右手でバン!と叩く。


「たのもう!」


 中々大きな声を張り上げてカウンター内を見回す女の子に俺とミスティさんは顔を見合わせた。


「ちょっと行ってくるわ」

「俺は掲示板眺めてますよ」


 ミスティさんがカウンター内に戻って女の子に対応し始めたのを横目に、引き続き掲示板の依頼を眺める。

 少ししてロクなのが無い依頼探しをやめてどうすっかなぁと思っていた所で、


「ミズキ君〜」


 ミスティさんが呼んでいる。どうしたんだろ?


「何ですか?」

「ちょっとこの子の依頼を受けてあげて欲しいんだけど」

「はぁ」


 俺は女の子を見た。女の子も俺をじーっと見ている。よって目が合う2人。この子、どこか日本人ぽいな?


「ミズキと言うのか。私はユラ。街の外に出て魔物相手に新しい魔術の試し撃ちをしたいのだ。だけど1人だと門兵が通してくれなくてな。なので護衛として付いてきて欲しい!」

「護衛ですか…うーん」

「なんだ?その腰に下げた剣は飾りか?」

「飾りなんです」

「飾りなのか」


 バレはしないと思うけど、約束は約束だ。よっぽどの事が無い限り抜きたくはない。


「じゃあミズキは魔術師という事か?」

「一応魔術は使えますけど」

「お!どんなのが使えるのだ!?」


 なんか目を輝かせて食いついてくるユラちゃん。見た目からして魔術好きそうだもんね。


「えと、ファイアボールと、ブラストボム」

「ファイアボールは兎も角、ブラストボムを使えるのか!中々やるじゃないか!他には?」

「秘密です。とっておきの技なので」

「ほぅほぅ。気になる気になる〜!ミズキの魔術見たいし今から行こう!すぐ行こう!」


 まだ依頼受けてないのに既に一緒に行くつもりのユラちゃん。俺の服をグイグイ引っ張ってくる。


「いや、あの、報酬はいくら貰えるので?」

「あ、そうだった。2、3時間程度のつもりだから…5000ルビでどうだ?」

「それなら良いですよ」


 中々な高時給。まぁいざとなれば血で剣を創って何とかしよう。そうなると本当にこの剣飾りだな。持ってない方が身軽まである。


「ミズキ君、周辺の魔物を倒すのなら討伐証明になる部位を取ってきてね。そしたら常設依頼の報酬も渡せるからね」

「おぉ、一石二鳥」

「じゃあ2人とも気をつけてねー」

「はい、行ってきます」

「行くぞ、ミズキ!」


 意気揚々と歩くこの子に服を引っ張られながら協会から連れ出される。

 昼前で人通りがそれ程多くない街中を歩きながら俺は気になってる事をユラちゃんに聞く。


「ユラちゃんって、日本人?」

「呼び捨てで良いぞ?祖母が日本人だ」

「へぇ。おばあちゃんの名前は?」

「アミだ。ミズキも黒髪黒目だな。日本人混じりか?」

「半年ぐらい前にこの世界に迷い込んだんだ」

「ほー。彷徨い人本人か。彷徨い人は魔力が高い傾向にあると聞くが総魔力量はどれぐらいあるんだ?」

「総魔力量?分かんないけど」

「測った事ないのか?」

「この世界に来た時に魔術紋様の描かれた布で測った事があるかな?」

「なんだ、知ってるんじゃないか。で、いくつだったのだ?」

「0でした」

「…?魔力が0なのにどうやって魔術を使うのだ」

「色々あって。今はそれなりに魔力はあると思う」

「何それ、気になる気になる。丁度近くに魔術師協会があるからついでに寄って測ろう!」

「えぇ?まぁ良いけど」


 本当に近くにあった魔術師協会に立ち寄る俺達。入口の扉を潜ると小綺麗に整えられたロビー。その中央にあるカウンターでユラはバァン!と手で天板を叩く。手痛くないのかな?しかし元気なのは良い事だけど少し傍迷惑な子だ。


「おーい!ターニャー!」

「はいはい〜。あ、ユラさんお帰りなさ〜い」


 ターニャと呼ばれた女性とユラが話をし始めた。その間ロビーの中を見物する。如何にも魔術師な格好をした人達が紙の束を持ってあっちへ行ったりこっちへ行ったり、棚の整理をしてる人がいたり、何人かテーブルに集まって議論していたり…なんかそれっぽい。


 少しするとユラに呼ばれた。ターニャさんによってカウンターの近くにあるテーブルに広げられた布が見える。魔術布という魔力を流すと魔力量が測れる布だ。

 以前この世界に来たばかりの頃に測ろうとした時はそもそも魔力が無くて0判定だったけど、今の俺なら結構な魔力があると思う。ちょっとワクワクするな。


「ミズキ、布の中心に指を当てて魔力を流すんだ」

「はいはい」


 言われた通りにする。俺から流れ出る魔力が布を中心から外側へ徐々に光らせていく。


「10…30……90………270………約700ぐらい…凄く凄い魔力量です!」

「私の3倍はあるぞ!?700も有れば魔術撃ち放題だな!」


 魔術布から指を離すとゆっくりと布の光が消えていく。


「700という魔力量は全世界でも50本の指には入りますね」


 真面目な顔してターニャさんがそう言う。どこの指で数えれば良いのか。


「それって、1番の人って誰なんです?」

「恐らくこの国の女王様だと言われてます。と言うのも、この魔術布、1000以上の魔力は測れないんです。この魔術布という魔術具が出来て20年程でしょうか。今まで1000を超えて計測不能だった人は全協会の記録上13人です。魔術師協会で測った事のある方に限りますが」


 計測不能者リストというのを持って来てくれたのでそれによると…


 妖鬼の女王シャニ

 妖鬼の姫ユイ

 妖鬼の王子イツ

 竜神の末裔フィナ

 鮮血ノ姫リリス

 高悪魔貴族ルシエル

 天空の王女ミシェリア

 魔王エルディア

 魔王の息子エンペラム

 魔王の娘プリテス

 悠久の魔女アビラタ

 大賢人クァラ

 タカヒロと言う青年


 ユイやリリスが名を連ねてるのに少し驚く。そして肩書きからして錚々たる面子が並ぶ中で1人だけ異端なタカヒロさん。名前からしてきっと日本人だな。


「あくまで魔術師協会で魔力を測った事のある方に限りますのでもう少し多いとは思いますが…ですが一般的に700は凄い数値です。人間族なら20ぐらいが平均と言われてます」

「え?そんなもんなの?」

「そんなもんなんです」

「ミズキは凄いと言う事だ!この後が楽しみだ!さあ行こう!すぐ行こう!」


 グイグイ服を引っ張ってくるユラに引っ張られながらターニャさんに別れの挨拶。ターニャさんも手を振って見送ってくれる。


「お気をつけて〜」





「世界を震わせる天を轟き啼く声は、刹那にて汝を灼き尽くす。神の息吹は一の極雷、突き抜けろ、ゴッドブレス!」


 ズドォォォン!ユラが空を指差しながら詠唱を始めると共に急に暗雲立ち込めた空から落ちた一条の凄まじく太い雷が少し遠くにいるオーガに直撃した。

 近くに行ってみるとプスプスと煙をあげ、爆発したかの様に色々飛び散って炭になったオーガだったもの。


「凄い魔術ですね」

「いや、微妙な出来だ。発動に時間が掛かりすぎるし威力も微調整が効かないし魔力の消費も多い」

「そ、そうですか」


 充分な速さだと思う…確かに俺なら雷に撃たれる前に邪魔出来そうだけど、そもそもユラは魔術師だから前衛に守って貰えば…その前衛が纏めて黒焦げになりそうだな。成る程、使い勝手が良くないと言う事か?


「もっと魔力を練って収束…しかし魔力の消費が…それに速く撃つには…言霊を少し変えるか?」


 顎に手を当ててブツブツ言ってるユラをほっといて、倒したオーガを見る。討伐証明部位は頭の角なんだけど、完全に炭化していて触ったら崩れた。あーあ。


「よし、もう2、3発撃って手応えを確かめたら次はミズキの取っておきの披露をして貰おう!」

「えー?出来れば使いたくないなぁと…」

「どうしてだ?魔術は使ってなんぼだろう?」

「使うと相手が灰も残らないので討伐証明部位が取れなくて無駄撃ちになると言うか」

「いいじゃないか、魔物なんてわんさかいるんだから」

「俺、これ使うと倒れるかもしれないんですけど、その時は街まで運んで貰えます?」

「何それ、700もある全部の魔力を消費するの?それにミズキを背負うのはキツいかなぁ。私、身体は全然鍛えてないから」

「じゃあやめときましょう?」

「えー、気になる気になる〜」


 少し駄々っ子な動きをしながらも諦めてくれた。メギドフレイム、多分吸血鬼になった今でも使ったら倒れそうなんだよな。


「じゃあ他には?」

「他ですか。回復魔術なら使えますよ。あと神聖魔術とか」

「へぇ、それは凄いけど、攻撃魔術は?」

「3つだけです」

「折角大量の魔力が有るのに勿体無い…そうだ、そんなミズキに一つ私の魔術を教えてあげよう!」

「それはありがたいですけど、良いんですか?」

「よいよい。この魔術、ミズキに使いこなせるかな?」


 そう言って近くに立っている木に杖を向けて構えを取るユラ。


「私は雷系の魔術を専門にしてるんだ。なので教えるのは勿論…風よ、水よ、内に眠りし魔力を喰らいて、我が敵を貫く雷光と化せ!ライトニング!」


 タァン!ユラの杖から一筋の閃光と共にその筋を這うような電撃が放たれて、木の表面を焦がす。


「これが私の十八番、ライトニング。使い勝手がとても良い」

「さっきのゴッドブレスを見た後だとしょぼいですね」

「いやいや、この魔術の良さは後で説明するから早速やってみるのだ」

「じゃあ…風よ、水よ、内に眠りし魔力を喰らいて、我が敵を貫く雷光と化せ、ライトニング!」


 手から放たれた閃光を伴う電撃が先程の木にぶつかり更に黒く焦げる。先程のユラの放った雷光とほぼ同等な出来。


「1発で成功させるとはやるな!雷系の魔術を初めて使う奴は自分に雷撃が直撃したり思った方向に飛ばなかったりするから覚えるのが難しいんだが雷のイメージがしっかり出来ている!で、この魔術の何が良いかと言うとだな…発動してから着弾までが速すぎてまず避けられないんだ。それに狙い違わず真っ直ぐ行くから命中率も高い。魔力の消費も中級魔術より少ない、威力はそこまでじゃないけど、感電して相手の動きが鈍るからチームで戦う時なんか凄く重宝する。さらに詠唱を圧縮して…〜〜〜、ライトニング!」


 タァン!木が更に焦げ焦げになる。


「な?速いだろう?」

「へぇ」


 そう聞くと確かに良さげ。良い魔術を教えて貰ったな。


「よしよし、上手く活用する様に。じゃあ後少し付き合って貰うよ〜」

「うぃっす」


 その後3匹の魔物を炭にしたユラを連れて街に戻った。結局討伐証明部位はゲット出来ず。折角街の外に出たのになんか勿体無い。

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