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ミズキの異世界物語  作者: すぺぇすふぁんたグレープ
二章 あるいはミズキチという名の犬
32/42

ユイと公園

『ミズキはずるい』

「え?何が?」

『ミズキはお泊まり会をしてるって聞いた』

「あぁ〜」


 今日は訓練は休み。最近余り話してなかったユイを連れてご飯でも食べに行こうと庭園に来た。

 相変わらずアリスさんが側に立っている。ローテーションで入れ変わってるって聞いた事あるけど、アリスさん以外の護衛騎士に会った事が無いのは何故だろう?

 少し暖かくなってきて咲き始めた花を愛でていたユイを捕まえて、庭園に設置されたテーブルでお茶を嗜んでいた時のユイのずるいと言う一言に少したじろぐ俺。


「この間リリスとテトの家に泊まりに行った時の話だな」

『そう。シャガルが言ってた。女の子の匂いをぷんぷんさせてたって』


 シャガルン先輩の口の軽さはヘリウム並みだな。と言うかユイはシャガルン先輩と割と仲が良いのか?


「まぁ、隣り合わせで寝たらそう言う事もあるよ」

『そう言う事って?』

「姫様、いけません。ケダモノがうつります」

「何もして無いですからね?」


 アリスさんが最近毒舌。俺に慣れてきた証拠だな。うんうん。


『羨ましい。私もお泊まり会に参加したい』

「どうなんだろうな?普通の家庭に自国の姫様が来たらすっごい慌てると思うけど」

『…だよね』


 落ち込むユイ。うーん、何とかしてあげたい気持ちも無くはないけど。


「ユイもこの国の貴族の子女に1人や2人友達は居るだろ?その人達と…」

『いない』

「え?」

『友達、いない』


 ちょっと泣きそうな顔になってるユイにあたふたする俺。


『皆、私が姫だからってどこか一歩引いてる。しかもイツと違って、私はこの国の女王になる予定は無い。だから取り入ろうとする人も特にいない。ずっと1人』

「よし、俺が今日から…いや、出会った時から友達だ!一緒に飯食いに行こうぜ!」

『ミズキ…ありがとう。でもミズキは女たらし』

「同感です。姫様」


 何と言われようと俺はユイの友達だ。女たらし上等!





 ユイとアリスさんを連れて城下街の飲食店が並ぶ区域にやって来た。


「何処にする?今回は奢っちゃうぞ?」

『私もご飯食べるくらいのお金は持ってきたから…友達は割り勘か個別に払うのが普通って聞いた』

「成る程な。じゃあそうしよう」

『あ、アレ食べてみたい』

「ん?」

「ラーメン店ですね」


 店名は「2番ラーメン」。多分1番はお客様って事だな。


「ラーメン食べた事ないの?」

『ない事はないけどあんまり。私の食事に殆ど麺類出ないから』

「そうなの?…何でだろうな?」


 首を捻る俺とユイ。


「まぁそれは置いておいて、お店に入りましょう」

「賛成」


 店内に入る俺達。昼時なのもあって中々の客入りだ。テーブル席に座ってメニューを見る。醤油、塩、味噌、豚骨の4種類。種類は少なく感じるが、トッピングは豊富。バター、コーン、チャーシュー等々。

 俺は豚骨系ラーメンが好きなのでそれをチャーシュートッピング&ご飯と餃子で。ユイは醤油、アリスさんは味噌を頼んだ。

 ラーメンが来る迄は雑談タイムだ。


『お泊まり会したい。誰かと一緒に夜遅くまで喋りたい』

「姫様は夜出掛ける事はまず有りませんからね」

「そうだなぁ…」


 テトの家で…はお父さんとお母さんが恐縮しちゃうだろうから、リリスの屋敷でやるのはどうだろうな?テトとラビちゃんも誘って。


「今度リリスとテトに聞いてみるよ。ユイも参加したいって言ってたって」

『良いの?確かリリスって子はミズキの彼女の吸血鬼さん?テトって子は妖精種の女の子?』

「そうそう…いや、彼女では無いけど、何、それもシャガルン先輩から聞いたの?」

『そう。色々教えてくれる』

「彼は偶に庭園に来て姫様と喋ってますね」

「へえ、それって友達って奴なんじゃないの?」

『うーん?そうなのかなぁ?』

「今度シャガルン先輩に友達になって下さいって言ってみたら?多分イチコロ」

『かなぁ?考えるとドキドキする』


 小心者なユイに発破を掛けているとラーメンがやって来た。


 俺は豚骨。いただきますをして早速スープをレンゲで一口。うん、コクがあって、でもムツこくは無い、良い塩梅。麺をズルズルっと。良いね、麺も食べやすい細麺でツルツルしてる。でもこのスープなら太麺でもちぢれ麺でも合いそうだ。塩漬け豚のチャーシューも4枚乗ってて遠慮なく齧り付く。これもジューシーで美味い。餃子を一口、ご飯を食べる。いやぁ、幸せだなぁ。

 ユイやアリスさんもレンゲに麺を乗せて冷ましながら少しずつラーメンを食べていってる。


『美味しいね』「はい」


 完食。いやぁ満足だ。今度また来よう。ユイ達も食べ終わって、お勘定を済ませて店を出る。


「お腹もいっぱいになったし、ちょっとブラブラ散歩でもするか?」

『うん』


 のんびりポテポテと歩きながら、街の中心部の公園までやってきた。前にリリスと来た事ある公園だ。

 今は昼過ぎの時間帯。遊具のある辺りは子供達がワイワイしてるので、もう大人な俺達が混ざるのはちょっと恥ずかしい。

 と、言う事で公園内をぐるっと歩ける遊歩道をのんびりと進む。ユイが所々で立ち止まっては道の両脇の花壇に咲いている花を眺めている。やっぱユイは花が好きなんだなぁ。

 そうして暫く歩いたり止まったりしていると途中ベンチがあったのでそこに3人で座って一休み。


「ちょっと喉が渇いたな」

「確か園内にドリンクを販売してる所がありますよ。買ってきましょうか?」

「護衛なのに離れて良いんです?俺が行きますよ?」

「そんなに遠くありませんし平和な街中ですから少しぐらい大丈夫ですよ。それに何かあってもミズキ殿ならちゃんと姫様を守ってくれるでしょう?」

「まぁ、はい」

「何にします?確かメジャーな飲み物なら一通り揃ってますが」

「じゃあ俺はメロンソーダかな」

『私はオレンジジュースで』

「分かりました」


 と、ゆっくりとした足取りで道の先へ歩いていくアリスさんを見送る。なんだろう?2人の時間を作ってくれたって感じなのかな?

 ユイの方を見ると、ユイも俺を見ていて目が合う。以前にも覚えのある、透き通るような吸い込まれるような瞳で俺を見つめている。不思議な瞳。どんどん目が赤く、紅く色付いていく…


「どうしたんだユイ?」

『ミズキ、私………ううん、何でもない』

「え?気になるなぁ。何でも無い事なら言ってみ?」

『……ミズキは長い黒髪の女の子に見覚えはある?』

「えーと、俺の元々住んでた日本じゃ基本的に皆黒髪だからな…」

『身長が低めで…大きくて猫みたいな目をしてて可愛い顔をした子』

「んー?あぁ、それなら心当たりがあるかな?」

『そう。知り合いなんだね』


 確か後輩ちゃんがそんな感じだったはず?うろ覚えだけど。それがどうしたんだろう…何でユイは後輩ちゃんの事を知っているんだ?


「ユイはその子の事知ってるのか?」

『今何処でどうしてるのかは知らない。会ったこともない』

「じゃあ何で顔を知ってるんだ?」

『それは…』


 ユイが答えようとして、俺を凝視したまま固まる。その顔に浮かぶ感情は驚愕と困惑と…恐怖?

 バッ、とユイが周囲を見回し始めた。そして再び俺を見る。その瞳は普段の赤さに戻っている。


『………ごめん、秘密』

「…?気になるなぁ」


 何故ここまで来て秘密?と思ったけど、ユイが見たこと無いぐらい挙動不審になっているので問いただす気にはならなかった。


「大丈夫か?何かあったのか?」

『ううん、何も無い。何もなかった。大丈夫』


 そう答えるユイ。でも目がキョロキョロしてる。何かに怯えている様な、精神が不安定な感じだ。


『ねぇミズキ』

「どうした?」

『例えばミズキは竜神族のフィナの血は吸いたいって思う?』

「どうした急に。…そうだな。フィナ様の血は絶対美味しい事は分かってるから、禁止されて無ければ吸いたいと思う」

『じゃあ、皇位魔族とか、獣王の血は?』

「会った事無いから分かんないな。獣王って女の人なの?」

『確か男だったと思うけど…』

「なら対象外。異性じゃ無いとそもそも吸いたいと思わないんだ」

『母様の血は?』

「ユイと同じで美味しそうだとは思うけど吸いたいとはそんなに思わない変な感じ…そもそも吸わせて貰う前に殺されそう」

『確かに』


 少し微笑むユイ。そしてまた瞳が赤く、紅く変色していく。


『ねぇミズキ』

「うん?」

『私の血を吸ってみて』

「いやいや、さっき言った通りユイの血にはあんまり惹かれない…それにリリスに禁止されてるから」

『大丈夫、悪い事にはならない…筈。それに妖鬼族の私に吸血鬼の支配とかは効かないから』

「そうなの?へぇー…いやでも仮にもお姫様の首筋に噛みついた騎士とか打ち首じゃない?」

『ミズキならくっ付けとけば治る。それよりアリスが帰って来る前に、はやく』

「なんか後が怖いんだけど…ええぃ!」


 ユイが差し出した首筋に急かされる様にカプリと噛み付く…





 2人分のジュースを購入して、私は真っ直ぐ戻らず、少し回り込む様にして、木陰からミズキ殿と姫様の様子を見ている。

 姫様は泰然としていて、でもシャイと言うか奥手というか、何事にもどこか一歩引いた様な感じの方だけど、姫様も15歳、恋だの愛だのに興味のある年頃の筈。

 なんだかんだと、姫様の話題に出てくる事の多いミズキ殿の事は悪しからず想っていると思うし、いつも付けているミズキ殿が贈った指輪を大事にしている事も知っている。

 だから少しぐらい護衛の居ない、気になる異性との時間を作ってあげようと思ったのだけど。


 ミズキ殿が姫様の肩に手を置いて、徐々に互いの顔が近づいて行く。遂にミズキ殿が姫様とキスを………?いや違う。アレは、血を吸っている?

 護衛騎士として止めるべきなんだろうか?でもユイ様は自分から吸われに行ったように見える。難しい所だ。

 私達護衛騎士はシャニ様に、「危険から守れ」とは言われているけれど、別に普段の姫様の行動を監視、制限せよとは言われていない。だから危ない事では無い限り止めはしないし見守ってきた。

 だがあの吸血行為は危ないのか?危なく無いのか?凄く判断に困る。どうしよう?


 結局ミズキ殿が吸い終わるまで見守ってしまった。そのまま様子を伺うと、特に何事もない様だ。姫様も特に変な様子は無いし2人はそのまま話をしている…どのタイミングで出ていこう?

 この手にしたジュースが手の温もりで温くなる前に出ていかなければ。





 ユイの首筋からそっと口を離す。リリスやテトの時と違って、ユイは吸血してもそれ程反応しなかった。精々首筋に牙を刺した時に痛かったのかビクッとしたぐらいだ。妖鬼族だからなのか?

 血は格別と言って良い程に美味しい。だけど満たされる感覚は少ししかしなかった。

 キョトンとした顔で俺を見つめるユイ。


『もう終わり?吸われても別に何とも無いね』

「ユイは確かに反応が薄かったな。吸血鬼に吸われるって気持ちいいって話聞いたんだけど」

『ちょっとだけフワッとしたかな?それくらい』

「そうか。で、何で血を吸わせたの?」

『それはね…』

「今戻りました」


 そこでアリスさんが両手にジュースを持って戻ってきた。


『おかえりアリス』

「おかえりなさい。遅かったですね」

「えぇ、少しお店が混んでまして」


 手渡されるジュース。さっきの吸血で喉は割と潤ったけど、ありがたく頂戴する。

 しかし頼んでおいてなんだけど異世界にメロンソーダってあるんだなと、そこはかとない疑問が浮かぶ。これも日本人が普及させたんだろうか?だとしたら凄えな日本の民。

 ユイも何事もなかったかの様にアリスさんからオレンジジュースを受け取って飲んでいる。話聞きそびれたな。まぁどっかで聞く機会も有るだろうし一旦忘れる事にしよう。


「飲んだカップを返すと少しお金を返して貰えるので、飲み終わったら持っていきますね」

「流石に何度も往復させるのは…一緒に行きましょう」

「そうですか?」


 アリスさんはそれ以上話を引っ張る事なく、ユイの首筋に目線を持っていってる。勿論噛んだ後なので噛み跡が残っているし、なんなら少し青い血が滴っている。うわー、聞かれたら何て説明すれば…打ち首怖い。


「姫様、どうも季節外れの蚊に2発、首を刺されている様ですね。ハンカチをどうぞ」

『そう?ありがとうアリス』


 受け取ったハンカチを首筋に当てるユイ。きっとアリスさんは経緯を見てたんだな。蚊扱いされてちょっと複雑な気分だ。


 ジュースを飲み終わって、そろそろ散歩を続けようかと立ち上がって歩き出した俺達は、カップをお店に返して公園を暫くブラついてから城に戻った。

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