運命の歯車
ここはミズキ達が住むミスティカの街から更に北にある、この世界北端の街エランテ。
主に魔族と呼ばれる種族が住まうこの街の中央に聳え立つ城…魔王城。
その魔王城にミスティカ筆頭魔術師のフィナがやって来ていた。
フィナは謁見の間の中央、玉座に続くレッドカーペットの上で跪き、頭を下げて待ち人が来るのを待っている。
待つ事数分、玉座の前の空間が歪み、1人の魔族が現れる。
「フィナ殿、良く来てくれたな」
玉座にドカッと腰を落とす魔族。
「魔王様におかれましては益々の…」
「ああ、そんなに堅苦しく無くて良い良い。面を上げてくれ」
「では魔王様、お久しゅう」
「フィナ殿も元気そうだな」
天に向かって伸びる1対の巻き角、妖しく煌めく赤い瞳。魔王と呼ばれたこの男が、屈強な魔族達を統べる魔族の王。その名はエルディア。
「シャニ殿は息災か?」
「えぇ、最近は獣王達の侵攻も鳴りを潜めて至って平和な為、机に齧り付いて執務に励んでおられます」
「はっはっ。シャニ殿に執務は似合わんな。我には刀を振り回している姿しか思い浮かばぬわ」
カラカラと笑うエルディア。その顔は朗らかで、とてもその筋で恐れられる人物とは思えない。
「それで魔王様、今回私をお呼び立てされたのはどういったご用件なのでしょうか?」
「それがだな…我はそろそろ隠居しようと思っている」
「!…まだお若くあられますのに。どう言ったご理由かお伺いしても?」
「…実はもう、息子の方が我より強いのだ」
「確か息子殿は100歳に届かなかったと記憶しておりますが…」
魔族は長寿であり、平均寿命は500を超える。その中で100歳未満というのは魔族としてはまだまだ子供と言える歳。
「アレは天才だ。我の秘技をあの歳で全て習得してしまいおった。部下達の求心も既に息子に集まっている」
「それは…では、戴冠式はいつ頃にされるご予定で?」
「来月には執り行う予定だ」
「それはまた早い」
「そこで今回、我の魔王として…いや、父親としての最後の頼みがある」
「何でしょう?」
「我が娘をミスティカへ嫁がせて貰いたいのだ」
「成る程、ご息女様を…まだ年若いとはいえミスティカが誇る勇傑であるイツ様は次代を担うだけの器量を持っています。更に言えば妖鬼族と皇位魔族との間に子が出来ればミスティカとエランテの関係強化に…」
「いや、そうではないのだ」
「は?」
エルディアは眉根を寄せ、言葉を選ぶ仕草をした。訝しむフィナ。暫く考え込み、魔王は言葉を発する。
「ぶっちゃけ誰でも良い」
「…?」
「あの娘が気に入って、あの娘を気に入ってくれる者なら誰でも良い」
「はぁ」
魔王エルディアがフィナに頭を下げた。誰にも下げることは無いと言われる王のその挙動にフィナは驚く。
「あの手に負えぬお転婆娘を…プリテスを貰ってくれる男を見繕ってくれ」
そうしてフィナに魔王からの重大な使命が託された。
☆
『…ミズキ』
妖鬼族の姫、ユイは部屋の窓から見える景色を眺めながら呟く。その胸には以前ミズキが送ったクマのぬいぐるみ、マロンが抱きしめられている。
『なんで…そんなに』
物憂げな表情で窓の外を飛び交う小鳥を目で追う。
『…悲しそうな顔をするの?』
窓から視線を切って、マロンの頭に顎を乗せる。
『ミズキは何故…』
その赤い瞳が、赤く、紅く…色を濃くしていく。
『その人を殺すの?』
その瞳に映るのは。
変貌したミズキが剣を手に、涙を流しながら、
ユイの知らない、黒髪の女の子の心臓を貫く姿。
そこで途切れる映像…そしてどれだけ凝らしてみてもその瞳にその先は映らない。
世界はその瞬間、全ての色を失う。
ユイはマロンをとても大事そうにベッドの枕元に置いて立ち上がった。
『私が止めなきゃ…この未来を』
ー 一章 終 ー




