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ミズキの異世界物語  作者: すぺぇすふぁんたグレープ
一章 ミズキ、人間を辞めるってよ
26/42

テトちゃん

 店員さんの名前はテトちゃん。アルバイトが終わるまで待っていて貰えませんか?と言われ、特に用事の無い俺はそれを承諾した。代わりにこの店の支払いはテトちゃんが払うと言ったがそれは悪いと断り、後でオヤツでも奢って欲しいと言っておいた。待つだけで2000ルビ強も払わせられない。


 追加で頼んだ料理を美味しく平らげて満足した所で、さっき考えてたフィギュアに色を付けるのを目標にあーでもこーでも無いと悩み倒した。

 1時間程経った頃、お客さんが減って来てテトちゃんが私服姿で俺の座ってる席に近づいてきた。その頃には色付けが終わって、リアルなユイフィギュアが完成していた。操作すれば大きさ以外はもう本物にしか見えない。なんせ赤い瞳まで自然に動くのだ。今度ユイに見せてやろう。


「凄い、色まで…」


 テトちゃんもこのフィギュアを見て感動している。


「場所を移そうか。どっか屋台で美味しいものを買おう」

「はい、そうしましょう」


 会計を済ませてお店を出てから、近くの屋台でクレープをテトちゃんに買って貰った。俺はチョコクレープ。テトちゃんはイチゴスペシャルとか言う奴だ。それを持って小さな公園のベンチに2人並んで座った。

 先ずはクレープを一口。まぁ普通に甘くて美味しい。テトちゃんもイチゴスペシャルを頬張りながらご満悦の様だ。


 そのままクレープを食べ終わった所で、包み紙を折り畳みながらテトちゃんが話しかけて来た。


「ミズキさん、お時間頂いてありがとうございます」

「いいよ、休みだし用事も特に無いし。で、どうして吸血鬼になりたいと思ったの?」

「はい。私、見ての通りの妖精種なんですが、あまり身体が強くなくて…調子が悪い日はすぐに風邪を引いたり肺炎を患ったり、心臓の痛みが酷かったりするんです。お父さんやお母さんがお金に苦心して高い薬を買ってくれたり、神官さんに見て貰ったりもしたんですが生まれついての病気だから治せないと言われてしまって…実はもうそんなに長く無いって…もって数ヶ月だって…」


 話しているうちに悲しさが溢れたのか涙を流し始めるテトちゃん。それをみてオロオロしてしまう俺。

 涙をハンカチで拭いたテトちゃんが再び話し始める。


「最近はこれも天命と思って、残りの時間を出来るだけ大切にしようと思ってました。いつもは殆どベッドの上で寝込んでいるんです。けれど今日は身体の調子が良かったから親戚のあのお好み焼き屋さんでアルバイトしてたんです。で、そこに丁度ミズキさんがやって来て…私の我儘なのは承知してるんです。でも、出来ることなら長生きしてこんな私を育ててくれたお父さんやお母さんに親孝行がしたい。もっと自由に色んな事をして生きていきたい…」


 更に俺に今までの人生を吐露するように話すテトちゃん。

 話を聞いてるうちに俺の涙腺が緩んでしまった。溢れそうになる涙を拭い、テトちゃんの肩に手を置く。


「俺が何とかしてみせるよ。テトちゃんが親孝行出来る様に」

「ミズキさん…」


 俺は誰に何と言われようと本気を出す事に決めた。













「お父さん、お母さん、娘さんを俺にください!」


 思い立ったが吉日、先ずはテトちゃんのご両親の承諾を得る為に夕方頃にテトちゃん宅にやって来た。その家の客間に案内され、ご両親と対面した俺は土下座して先程の言葉を吐いた。


「顔をお上げくださいミズキ殿!?」

「そうですよミズキさん!何故頭を下げるのですか!?」

「ミズキさん…?」


 顔を上げると俺以外の全員が困惑顔でアタフタしている。その中でいち早く気を取り直したお父さんがコホン、と咳払いして俺に問うてくる。


「どういう話なのか、聞かせて貰えますかミズキ殿?」

「ウチの娘を貰ってくれるなんて…でも…」

「俺はこれから吸血鬼としての全身全霊をかけて娘さんのその身体を治します」

「吸血鬼!?治す事が出来るのですか!」

「もしかしてテトは助かるんですか!?」

「絶対成功するとは確約出来ません。身体の弱い娘さんには俺の治療に耐えられないかも知れません。成功しても吸血鬼として生きて行かなくてはいけなくなると思います。だからせめて、娘さんに出来るだけ悔いの残らない様に、ご両親に承諾を得るためにここに来ました。改めて言います。娘さんを俺にください!」


 もう一度頭を下げる俺。人の命が掛かってる場面で自分の頭を下げるのを躊躇う程俺はダメ男じゃない。

 絶対にこの家族を幸せにしてみせる!


「凄い漢気だ…詳しく説明して貰えますか?ミズキ殿」

「私は馴れ初めが聞きたいわ」


 お父さんが説明を求めてくる。お母さんはテトちゃんと俺の出会いを聞いてくる。

 これからするであろう処置を事細かに説明する。


「ほう…そんな事が出来るのですか…」

「え?今日会ったばかりなの?それでこの熱意?」

「お母さん、そうなの。でも私とってもドキドキしてる」


 一通り説明を終えて、俺はご両親を見つめる。


「俺がテトの人生を貰っていきます。構わないでしょうか?」

「あぁ、これほど誠意の有る男はそうは居ない。ミズキ殿に預けるのなら私に後悔は無い。もし失敗してテトが死んでしまったとしても私は恨みはしないよ。こちらこそお願いします。どうかテトを宜しくお願いします」

「私からも…テトを頼みます」

「ありがとうございます。テト、これから行く所があるから一緒について来て貰えないかな?」

「はい、どこまでもついて行きます」


 何か潤んだ瞳をしたテトを連れて、向かう先は…





「成る程…?それでミズキチは私の所にその子を連れて来た訳だ」

「リリス、頼むよ」


 やって来たのはリリスの屋敷。まだ出勤前のリリスを起こし、屋敷に入れてもらって事情説明をした所だ。

 そしてホールのソファーにスケスケネグリジェ姿で脚を組んで座ってるリリスの前で土下座している。


「駄目だよミズキチ、誰でもホイホイ捕まえてきちゃ?」

「だけどこのままだとテトは…」

「分かってるの?私じゃその子を吸血鬼には出来ない。女の子なのもあるし、妖精種は人間族から大分離れてるから主に人間系種族がメインな吸血鬼の私とはそんなに相性が良くない。あと、その子とは互いの同意が得られない。もしミズキチにやった様に強制的に吸血鬼にしようとしても適合出来なくてほぼ100%失敗して死んじゃう。今この街に他の吸血鬼は居ない。だからその子はミズキチがやんなきゃいけない。わかる?」

「分かる。だから俺が…」


 俺の言葉を遮る様にリリスが話を続ける。


「でも、まだ吸血鬼になって浅い、技術の拙いミズキチが吸ったら、身体の弱いその子はきっとその暴れる力に耐えられない。それにもっと言えば心が壊れちゃう。ミズキチの吸血の圧倒的快楽に何もかもが押し流されて元の人格なんてきっと残らない」

「それでも…」

「それにどうするの?ミズキチは大して感じないのかも知れないけど、吸血鬼になったら弱点だって出来る。マトモに人生を送れるのかも分からない。そんな状況を、不老不死とも言える肉体で延々と生きていく事になるんだよ?私がミズキチを吸血鬼にしたのは、自分勝手な我儘な部分、優しさに甘えた部分もあるけど、ミズキチと共に永劫の時を過ごしていく覚悟、支える気持ちを込めてやった」


 そのままリリスの話を聞き続ける。


「ミズキチはその子の人生、背負えるの?親族親兄弟、友人知人知り合い顔見知り、全ての人に置いて行かれて、心は掠れて行く。疲れてその生を終わろうとしても、簡単には死ねない。死ぬためには激しく辛い拷問を受ける様な思いをしなければいけない。そんな吸血鬼になったその子を支えて、生きていく覚悟はある?」

「″ある”」


 その一言に力を込める。何かが俺の中でカチリとハマり、言葉に一瞬世界を捻じ曲げる強制力が持たされる。それにリリスが驚きたじろぐ。


「…いつの間に真言まで使える様に?私それまだ教えてないのに」


 真言?さっきの世界が歪んだ様に感じた力?


「なーんで、私があれだけアタックしても震えるチワワなのに、その娘にはケルベロスみたいに噛み付くのかな?弱々しい守ってあげたい系の子が好きなの?どうなの?」

「いや、そう言うんじゃなくて…」

「両親にまで挨拶に行って、そう言う事でしょ?あーあ、私泣いちゃいそう」

「えぇ…?」


 顔を上げると…本当に瞳に涙を溜めていた。今にも涙が流れそう。…困ったな。どう答えりゃ良いんだ。

 そんな涙を溜めたまま、リリスはテトの方を向いて問う。


「テトちゃん、だっけ?今私が説明した通りなんだけど、吸血鬼になる覚悟、更に高い可能性で廃人、もしくは死んでしまう覚悟は出来てる?」

「はい。ミズキさんに私の全てを任せ、捧げようと思います」

「はー、なんでテトちゃんはそんなにコロっと行っちゃったのかなぁ?」

「あれだけ熱烈に口説かれたらもう…こんな男の人、残りの短い人生で現れないでしょうし、私も何があったとしても悔いは残らないです」

「そう…」


 涙を指で拭って、リリスが俺を真剣な瞳で見つめてきた。


「ミズキチ、やるからには全力だよ。手を抜く事、最後まで諦める事はこの私が許さない!」

「分かってる」

「テトちゃんはソファーで待ってて。ミズキチにちょっと伝える事があるから」

「はい、お待ちしてます」


 テトちゃんを残してリリスの部屋へ2人で入ると、リリスが棚から2つの瓶を取り出した。


「なにそれ?」

「私の血のストック。これからする事を考えたら血がそれなりに必要だから」


 と言いながら1本を俺に渡して来た。


「ミズキチ、私も出来る限りサポートするけど、重要なのはミズキチの操血のレベル。前の公園の時みたいなレベルだとテトちゃんはまず助からない。やめた方がいい」

「あれからかなり練習してこんな感じ」


 体内から血を取り出して、10分の1色付きユイフィギュアに変化させる。それを動かしてリリスにお辞儀させる。更に踊らせてみる。振り付けはオカマバーでキッカちゃんさんが踊ってた奴だ。


「ナニコレ。凄い細かい…」

「レベルは足りてる?」

「これは想像以上だよ。私でもすぐにはこんな精密な操作は出来ない。これなら思ってたより成功率は高そう。じゃあ次はさっき渡した血を飲んで」

「うん」


 リリスの血の入った瓶を呷る。鮮度が良いのか味はリリスから直接吸ったのとそこまで変わらない。直接吸った方が満たされるのは確かだけど。


「これでミズキチの体内の血の総量が増えたから多めに血を操っても大丈夫。今回は本来のゆっくり変化して行く眷属化と違って、次いつ元気になるか分からないテトちゃんの体力がある今のうちに出来るだけ全身の、全ての内臓から脳に至るまで一気に吸血鬼に変化させるんだよ?でないと変化に伴う体力の消耗に、まだ変化してない部分がついて来れなくなって壊死しちゃうから」

「…分かった」

「勝負は一瞬。だけど結果は未来永劫残る。その覚悟は出来てる?」

「出来てる」


 眼を瞑り沈黙するリリス。これからする治療に思いを馳せているのか、その顔は険しい。

 やがて眼を開けて、扉の先を向いた。


「行くよ、ミズキチ」

「あぁ」





 俺とテトを連れて、リリスが案内したのは地下の一室。


 その部屋はそこそこ広く、明かりがない為真っ暗だ。俺とリリスは夜目と言うか真っ暗でも見えるから問題ないが、テトには何も見えない筈。そんな部屋の中央に、黒塗りの棺が置いてある。


「ここは吸血鬼が眠る場所。私は吸血鬼としてはそこそこ日光に強いから上で寝てるし外も一応歩けるけど、普通の吸血鬼にそれはキツイ。だからもしもの事を考えてここで治療するよ…テトちゃん、その棺の上に寝て貰える?」

「はい」


 テトを連れてって棺の上で寝そべらせる。来ていた服は脱いでもらって、下着のみの姿になって貰っている。


「テトちゃん、初めから昏睡状態で治療を受けるか、それとも起きて一部始終を感じながら治療を受けるか。昏睡状態なら意識が遮断されてるから激しい痛みとかそう言うのは感じないと思うけど、、知らない間にその生が終わっちゃうかもしれない。起きてるなら多分テトちゃんにとって拷問の様な肉体的、精神的負担が掛かると思うけど…どうする?」

「起きてます。ミズキさんが頑張ってくれる所を私は見たい、感じたい」

「分かったよテトちゃん。ミズキチ、始めるよ?まずテトちゃんの全身をミズキチの血に入れ替えながら満たす。送り込むときはこれはテトちゃんの血液だと、その身体に誤認させないと拒絶反応が起きるからちゃんと偽装してね。そしてテトちゃんの中を全部把握する。内臓器官が人間種と違う可能性があるから作り替える時に間違えない様に。出来る?」

「出来る。やってみせるよ」


 俺は立ったまま寝ているテトの肩に触れ、その首筋に噛み付いた。「いっ!」とテトが呻く。その柔肌から血が滴るのを舐めとりながら、血を吸い、そして送る。


「ふぁ!あぁっ!あーーーっ!あーーーー!!」


 悶絶するテトの身体をリリスと2人で抑えつけて、可能な限り素早く血を入れ替え全身に巡らせる。偽装させた俺の血液でテトの身体を満たす。

 リリスが俺の血を更に微調整してくれている。

 数分程で必要十分まで入れ替え、俺は牙を離した。それと同時にずっと叫んでたテトがぐったりする。


「フッ、フッ、ハッ…」


 痙攣しながら浅い呼吸で繰り返し空気を取り入れようとするテトが大丈夫そうか確認しながら、リリスと眼を合わせて頷きあう。


「いくよミズキチ。サポートは任せて」

「あぁ、頼むよリリス」


 テトの中にある俺の血を一気に操作して、全身余す事なく細胞を作り替えるイメージで変化させる。


「あっ」


 力が抜ける様な声と共にテトの意識が飛んだ。心配だけど、途中で辞めるとマズいのでこのまま操血を続ける。


 塗り替えられるテトの全て。つま先から頭の天辺…腎臓、肝臓、膵臓、子宮、腸、胃、肺、魔石?、血管、骨、心臓、そして脳。


 変質が終わる。いや、魔石だけは俺の血液操作を受け付けなかった。このままで良いのか?取り除いた方が良いのか?


「リリス、テトの鳩尾辺りに魔石がある。そこだけ力が弾かれた」

「妖精種に?私も聞いた事ない」

「普通なら?」

「無いはず。魔族や悪魔、妖魔系なら分かるけど」

「…取り除こう」


 リリスがそう言うなら身体にとって重要な器官では無いはず。俺は指先に血を集め、変質させてメスの様な物を創る。


 鳩尾辺りに切れ込みを入れ、血を操って魔石を取り出し、更にテトの血を操って切れ込みの傷跡を残さず塞ぐ。


 テトの処置はこれで終わりだ。後はうまく身体が馴染むのを祈るしかない。


 痛むと言っていた心臓は…一定のリズムでちゃんと動いてる。脳にも血液が滞りなく循環してる。悪そうだった肺も、俺の操血とリリスのアシストで殆ど1から作り替えている。癌とかが有ったりしないか疑ったけど、体内全部調べてもそれらしい物は見当たらなかった。…きっと大丈夫。


 テトの体内を確認し終わった俺は、手の中にある魔石に眼を向ける。魔石は黒く、翳すと脈動している。見た事ない…魔石じゃ無い?


「それは…!!ミズキチ、それ渡して!」

「あ、あぁ」


 リリスに渡そうと手を伸ばしたその瞬間、魔石が一気に膨張し始めた!俺の右腕を巻き込んで捻り取り、空中に浮かんだまま人の形を象っていく。

 やがて変化が終わった時には一柱の大きな巻き角の悪魔がテトの上に佇んでいた。その悪魔が言葉を発する。


『邪魔をしてくれたな、雑種』

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