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ミズキの異世界物語  作者: すぺぇすふぁんたグレープ
一章 ミズキ、人間を辞めるってよ
25/42

Cランク

 あれから少し経って今日は休みの日。


 俺はシリウスさんとのルナーティアを抜きに行く約束の為に、探索者ランクをCに上げる事にした。Cランク以上じゃ無いと街の門を通して貰えないからだ。


 そんなわけでやってきた探索者協会。ここにくるの久しぶりだ。リリスの屋敷の清掃依頼を受けて以来来てなかったからな。


 カランカラーン…となるドアベルを耳にしながら協会内に入る。今は朝を幾分か過ぎたぐらいの時間帯な為、それほど人は居ないようだ。


 受付カウンターで暇そうにしていたミスティさんが俺に気付き手を振ってくる。それに釣られる様にミスティさんの前に行く。


「ミズキ君久しぶりだねー」

「ご無沙汰してます」

「どう?リリスの屋敷の掃除。中々良いでしょ?」

「はい。休みのお小遣い稼ぎに重宝してます」

「あの子は元気?私最近会ってないんだけど」

「そりゃもう。ピチピチしてますよ」

「そう、良かった。前に見た時元気無かったから…あ、お茶飲む?」

「じゃあ頂きます」


 ミスティさんが淹れてくれたお茶の様な物を飲みながら、最近のリリスについて世間話をする。


「…そうなのよねぇ〜。あの子なんかエロいのよ。っと、話に夢中になり過ぎたわ。で、ミズキ君は今日はどうしたの?依頼探し?この時間だとめぼしい物はあんまり無いと思うけど」


 朝の依頼貼り出しの時に良い依頼や緊急性高めの依頼は早い段階で大体取っていかれるので、この時間帯になるとあまりいい依頼は無いそうだ。


「いえ、Cランク試験を受け直そうと思いまして」

「あら、試験やっちゃうの?ちゃんと強くなってきた?」

「はい、それはもう。あの時の俺とは違いますよ」

「えぇー?何その台詞、ミスティドキドキしちゃう〜」

「今回は負けません」

「ふふ、自信満々ね。じゃあ前と同じく私が試験官するからね。ついてきてー」





 所変わって協会の裏にある訓練場で、見物する野次馬達を下がらせ、私とミズキ君は少し距離を離して対峙した。

 そしてミズキ君が木剣を構える姿を見て直感する。


 ヤバいこの子。私でも危ないかも。


 以前の試験の時も本当ならCランクあげても良いぐらいには強かったけど、今のこの子はあの時とは比べ物にならない。

 私はこれでも協会最高峰のAランク。その実力で強者蔓延るこの街の探索者達を束ねる協会のマスター。

 その私が…その前に立っただけで恐怖を感じる程の力。裏の世界で『鮮血ノ姫』の異名を持つリリスにも引けを取らない、下手をすればそれを上回るプレッシャー。

 この短期間で一体何をしたと言うの…


「じゃあ行きます」

「えぇ、いつでもー」


 なんて事ない顔を装って、内心は戦慄している。来る?来ちゃうの?これは何とか経験の差でカバーしないと…

 とか思ってる内にミズキ君が踏み込んできた。先ずは予想通り、真っ直ぐに木剣を振るってくる。但しとても速い。

 その剣を躱して、そのまま突きを放つ。カウンター気味に打ち込んだその突きはミズキ君の胸に…当たらない。と言うか胴体部分が服ごと霧に変化して突き抜けた。驚いたけどこの能力には覚えがある。


 まさかリリス、この子を吸血鬼にしちゃったの!?


 更に警戒を数段階上げる。吸血鬼はピンキリではあるが、妖鬼族、竜神族、高悪魔貴族、皇位魔族等に並ぶとされる列強と言われる種族。

 この子の場合は元々妖鬼の姫の血を分けられて妖鬼族の力を宿していた。そこに吸血鬼の姫の血が混じった?

 普通なら妖鬼族に吸血鬼の血の支配は弾かれる。だけどこの子は人間族がベースだからそう言う事になってもおかしくない。

 ミズキ君の存在がブレる。気づけば横に周り込んでいて、木剣を叩き込んできた。鋭い一閃に避ける事叶わず木剣でガードする。響く打撃音。痺れる手。更に息もつかせない連撃で木剣を弾かれそうになる。


 ダメだ、本気出さないと本当に負ける。


 ミズキ君の木剣を大きく弾き、後ろに飛んで一旦距離を取った。


「強くなったねミズキ君。だけどまだ負けてあげられないんだよね」


 普段は抑えている力を全開放する。こうなった私は短時間の間ならドラゴンとだって単騎でそれなりに渡り合える。まだ今のこの子なら…


 私の解放した魔力を感じたのか、ミズキ君の顔付きが変わった。その表情から伺えるそれは歓喜、高揚、そして…吸血衝動。


 ゾクッとする。吸われたらもう戻れない。そう思わせる絶対的強者の笑み。


 怖い。


 見つめられただけで屈してしまいそうになる心を抑え、強く踏み込んでミズキ君に斬り掛かる。全魔力を闘気法で身体全体に練り込んだ今の私の戦闘力で一気に捻じ伏せる!


 ガガッ!ガン!と激しく打ち合う。


 なんとか先手を取れ始めた。技術的にはまだ発展途上なミズキ君の身体を私の木剣が掠め始める。霧に変化する時間なんか与えない。このまま身体を打ち据えると見せかけて…剣を弾く!

 カァン!と高い音を立ててミズキ君の手から弾かれ吹っ飛んで行く木剣。と、同時に私のお腹にミズキ君の拳が添えられた。このまま撃ち抜いていれば私は崩れ落ちていただろう事が想像に難くない、強くて鋭い動きだった。


 やられた。拙い動きはフェイクだったのか。それに試験は別に木剣で戦わなくてはいけないなんて決まりはない。つまり…完全に負けた。


「参りました」

「どうですか?合格貰えます?」

「もう文句の付け所が無いわー。だから今日からミズキ君はCランク」

「よし!」


 あーあ。私、シャニ様に怒られちゃうのかなぁ。怖いのよねあの人。


「ねぇミズキ君?ミズキ君はさっきので全力だった?」

「いえ、技をいくつかと変身を残してます」

「変身?どうなるの?」

「全体的にパワーアップする感じです。パワーとかスピードとか」

「それって見せてもらう事出来る?」

「やると後で猛烈に疲れるのでちょっと気軽には…」


 まだ強くなるのね…リリスってばなんて事を。


 そんなミズキ君を伴って協会内へ戻って、探索者カードを発行し直した。ついでにBランク昇格に必要な実力証明書も渡した。


「ミズキ君の実力ならもうCどころかBでもAでも良いんだけどね。だけど規則で1つの協会の権限で発行出来るランクはCまでなの。気が向いたら他の街の協会で後2枚証書を集めてみてねー」


 Cランクと書かれたカードと証書を見つめてニヤニヤと嬉しそうだ。

 お礼を言って協会を後にする彼を見送り、ため息を吐く。


「姐さん、見てたぜ?姐さんが負けるの初めて見たよ」

「強かったなあの子。まだ若いのに」

「私はなんか怖かったよ。本当に人間?」


 野次馬してた探索者達がやいのやいのと騒ぐのを聞きながらもう一度、大きなため息を吐いた。





 よし、OK、問題無くCランクになれた。カードを見るとニヤニヤが止まらない。これでシリウスさんと欠月山に向かう事が出来る。

 歩きながらニヤニヤしてたせいか通り過ぎる人達に変な顔をされる。顔を引き締める。


 しかしミスティさんは強かった。協会の受付嬢さんは強く無いとやっていけないのかな?まぁ荒くれ者な探索者達の相手をするんだからそういうもんか?

 後、ミスティさんの血は美味しそうだった。思わず噛みついちゃいそうな衝動に駆られた。もしかして俺は強い女性の血に惹かれる体質なのかな?うーん?


 丁度昼頃なので近くのお好み焼き屋に入って、メニューを見る。ミックスにしようかな?ん?モーモー焼き?厳選されたモーモー肉が贅沢に入ってるのか、良いね。こっちはトマトとチーズが入ったイタリアン焼き?これ絶対美味いやつ。これにしよう!店員さんに注文する。


 この店は焼いて持ってきてくれるタイプの店らしい。出来る迄の間、手元で自分の血で出来た小さなナイフを創ったり変形させたりしながら時間を潰す。途中から夢中になって、お好み焼きが出来上がる頃には紫色のユイの見た目をした血製10分の1フィギュアが出来上がっていた。俺の血で出来てるので自在に動かす事も出来る。変身の時に肌や髪の色だって変わるんだから頑張れば色も付けれそうだな。よーし、特訓しよ!

 俺の今の技術の粋を集めて創られたユイのフィギュアは横に立てて置く。と、良いタイミングで店員さんが鉄板に乗ったイタリアン焼きとやらを持ってきてくれた。

 テーブルに乗ったフィギュアに有難うの気持ちを込めてお辞儀をさせたら店員さんが驚いて凝視していたが、特に何を言う事もなく戻って行った。俺の前に置かれたお好み焼きを2枚の小ヘラで切り分けて小皿に移して…いただきます。

 んー!アツッ!まだ焼きたてで凄く熱い!ハフハフしながらゆっくりと噛み締めると、トマトの酸味と伸びるチーズのコク、そしてこのふっくらした生地が良い感じにコラボしてて絶妙!今まで食べてきたお好み焼きの中で一番美味いかも?

 あまりの美味さにテンション上がって、コチラを見つめていたさっきの店員さんにグッジョブ!とハンドサインを送ると、店員さんもハンドサインを返してくれた。ノリ良いな。

 そのまま次々と口に運んで、気付けばお好み焼きは無くなってしまった。あー、ちょっと物足りないな。もう一度メニューを見る。


「すみませーん」

「今伺いまーす!」


 少ししてさっきの店員さんが来てくれたので、追加で塩むすびと鉄板焼きそばを頼んだ。うーん、炭水化物だらけだな…と思ってサラダもついでに頼んだ。最近腹がメッチャ減るんだよなぁ。

 注文が終わって、フィギュアにメニューを持たせて片付けさせていると、その姿を目で追う店員さん。気に入ったのかな?


「あの…」

「はい?」


 店員さんが話しかけてくる。因みに妖精系の可愛い女の子。髪は緑で頭から2本の触覚がピョコンとしてて背中にトンボ羽が生えてる。背丈は中学生くらいの見た目?羽の為に背中の開いた割烹着の様な服を着てて看板娘感が凄い。


 …この子の血、美味しそう。


 そう思った瞬間俺の目を見ていた店員さんがビクッとする。怖い顔になってたかな?笑顔笑顔。

 微笑みを浮かべて「何ですか?」と聞き直すと、意を決した表情で俺に問いかけて来た。

 

「その人形、どうして動いてるんですか?」

「これは俺の能力で動かしてるんだ。別に勝手に動いてる訳じゃ無いよ?」


 …自律行動出来るフィギュアとか夢があるなぁ。…待てよ?血から細胞を取り出して、クローンを作るみたいに脳や身体を創ったりできないかな?…なんだかいけそうな気がする?


「能力ですか。魔術や魔法では無いんですね。じゃあ私には無理かなぁ…」

「気になる?」

「はい、可愛いです」


 あ、注文を伝えて来ますね。と、厨房へ向かう店員さん。そのまま他のお客さんの配膳に向かう様子を見てると昼時とあって忙しそうだ。

 暫くして手が空いたようで、また俺の所にやって来た。


「失礼かも知れませんが、お客さんはどんな種族なんですか?」

「えっと、妖鬼族の血が混じった吸血鬼?」

「吸血鬼!もしかしてこの人形は血を操って動かしてるんですか?」

「そうそう。不快なんだったら戻すけど」

「いえ、それは大丈夫ですが…」


 そこで一旦言葉を切って、俯く店員さん。ちょっとして顔を上げた彼女の顔は何かの決意が見て取れる。


「すみません、お願いが有るのですが」

「うん?何かな?」


 彼女は何を考え思い至ったのか、力強く言った。


「私を吸血鬼にして貰えませんか?」

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