服従
2人でシーソーに乗ってゆっくりギッコンバッタンしながら話を続ける。
「他には血を操って武器とか創れるかな。さっき言った服を創るのと同じ要領。こんな感じ」
リリスが手を翳すと、その手から短剣が出現した。紅色の短剣がユラユラと陽炎の様なものを纏って妖しく光る。
「もっと大きなモノも作れるけど、その分血を消費するからそれなりに準備しておかないとしんどい」
「どんな利点が?」
「武器を持ってなくても良いから嵩張らないし刃こぼれとかしない。刺した後に剣の先から棘を出して体内をズタズタにしたりもできるし、やろうと思えば自在に飛ばす事も出来るよ」
「良いですね。どうやれば?」
「変身よりは簡単。体内の血のストックから必要量出して魔力を練り合わせながら形作って固定化するだけ。操作するのは慣れが必要だけど」
やってみよう。身体から血を操作して取り出す。リリスと同じ様な短剣をイメージして魔力と練り合わせてみる。こんな感じ?あれ?結構難しい…
四苦八苦しながら何とか短剣の形を作るものの、気を抜いたらすぐに形が崩れてしまう。こんなんじゃ何の役にも立たなそう。
「んー、ミズキチは創る系はへたっぴだね」
「これ難しいです」
実用に出来るまでには時間が掛かりそう。でもいつか使いこなしてみせよう。
「後は吸血鬼といえば不老不死に近い肉体と吸血による眷属化かな?でもこれはダメ!ミズキチは吸血するの禁止!」
「えぇ…?吸血鬼なのに?」
「どうしても…どぉーーーーしても吸いたくなったら私の所に来なさい。以上!」
「わ、わかりました」
シーソーから降りたリリスが俺の手を引っ張って今度は滑り台へ。
階段を上がって滑り台の上のちょっと広い所でしゃがみ込むリリス。俺も手を引っ張られて隣にしゃがむ。
「ここだけの話だけどね。吸血鬼には弱点もあるんだよ」
「内緒ですか」
「そりゃそうだよ。そうしなきゃ何されるか分かんないじゃない?」
「確かに危ないですね。ここは治安が良いとはいえ」
「私の血族なミズキチだから教えるんだからね?言いふらしちゃダメだよ?」
「はい、誓います」
「実は吸血鬼はね…まず太陽に弱い。別に日常生活は出来るんだけど日に当たってると力があんまり発揮できない」
「え?俺平気ですけど?」
白昼堂々日光に当たる場所で日々訓練してる俺は多分大丈夫だ。
「え?そうなの?やっぱりミズキチはオカシイ…後、神の力が宿った聖水を掛けられたり神聖系の魔術を浴びせられるとめっちゃ痛い。その場合は簡単には治らない」
「そうなんですか?」
「普通の物理攻撃とか属性魔術とかはあんまり効かないしすぐ回復するんだけどね…ミズキチはなんか大丈夫そうだね?羨ましいなぁ〜。私、昼とか眠たくて仕方ないのに」
「だからリリスは昼夜逆転の生活をしてるんですね。後ニンニクとか十字架とかダメだったりします?」
「んにゃ?ニンニクは大好きだよ?十字架も別に…神聖属性を帯びた十字架って事なら触ると火傷するかな。それだと十字架に限らないけど」
「成る程成る程」
…あれ?俺にとってはどれも別に弱点じゃ無さそう?だって今も服の下に下げてる神聖属性であろうミスリル銀の神像触っても特に何も無いし。
「後は定期的に血を吸わないと衰弱してく。つまり私を倒したいなら断食させたり、昼間に日の当たる所に連れてったり、神聖魔術を浴びせれば良いって事」
「回復魔術もダメなんですか?」
「掛けられるとむしろダメージ貰うね。なんだろね、吸血鬼は神様に嫌われてるのかな」
あれ?俺実は吸血鬼じゃ無いんじゃね?でも血は吸いたいんだよな。
「そう言えばリリスは吸血鬼の同じ血族になった今の俺の血はもう美味しそうとは思わないんですか?」
「それもおかしいんだよね。本当なら今のミズキチを見ても吸血衝動は起きない筈なんだけど、やっぱり美味しそうなんだもん」
「もしかして俺、血族?系譜?に組み込まれて無いんじゃ?」
「えー?あんなに頑張って血を送り込んだのにー?」
「送り込んだ?吸ったんじゃ無くて?」
「吸った事は吸ったんだけど、それで減ったミズキチの体内の血に私の血を補填したの。半分ぐらい」
「半分」
「そ、私の血を混ぜて操作してミズキチの身体を作り変えたの。そうしないと大した能力の無い、中途半端で弱っちぃ吸血鬼になっちゃうから。大変だったんだよー?」
「ご苦労おかけしました?」
無許可だけどね!?
「こんな所かなー?よし、飲みに行こ?」
そう言い残しリリスは滑り台を滑っていく。今夜は帰るのが遅くなりそうだなと思いながら俺も身を乗り出した。
★
公園を後にした俺達は中心街の一角、いわゆる歓楽街的な所に来ていた。
「ウチで飲んでかない?飲みホ2時間3500ルビ!」
「ねぇねぇお嬢さん、君ならNO.1になれるよ!ここのお店で働いてみない?」
「私、そこの店でマッサージ店をやっているのですが…」
「お兄さん、どう?1万ポッキリ」
「あ、そこのお二人さん!カップルにお似合いのペアアクセサリーはどう?」
「お兄さんにピッタリな…」
「お姉さん可愛いね…」
「一万ポッキリ」
「おね…」
「お…」
道を歩けばキャッチ、勧誘、怪しいお店…ガンガン声を掛けられてこういう所に不慣れな俺はちょっと気後れする。そんな中を堂々とした足取りで歩くリリス。
「メッチャ声掛けられますね」
「ここはいつもそうだよ。でも安心してね、今から行く所はちゃんとしたお店だから」
歓楽街のメインストリートから小道に入り着いたお店。看板に描かれた店名は「蒼髭」と、なんかカッコいい名前なのに字体は凄くポップで可愛い感じ。
リリスが俺の手を引いて店の中に連れていく。入口のドアを抜けると左にカウンター席、右にテーブル席、正面にショーが出来そうな小さなステージがある。お客さんがいっぱいいる。
そのステージで今歌って踊っているのはアイドルチックな衣装をきた可愛らしい子。やんややんやと観客が腕を振ったりおひねり投げたりしている。
…ん?何か違和感が頭を掠めたがそれを気にするより速くリリスにテーブル席に座らされる。すぐさまやって来たホステスさんがおしぼりとお冷を持って来てくれる。
「リリスちゃん!ご無沙汰じゃない!」
「アイちゃん久しぶり!」
「今日は彼氏と一緒なのね?」
「ふふー、可愛いでしょ?」
「優しい顔つきが堪らないわ!良いわねぇ、私も彼氏欲しい」
「そんな事言って。いつも違う子連れて店くるくせに」
アイちゃんさん。リリスと和気藹々と喋ってるその声は野太い。パッと見は人間族で、肩や腕は筋肉質でガッチリしてる。
「紹介するね?この子はミズキチだよ」
「ミズキチきゅんね!私はアイちゃん、この店のママやってるわ!」
「これはどうも…?あ、俺の名前はミズキです。後、彼氏じゃ無いんです」
「そうなの?」
アイちゃんさんの顎辺りの色が青いのが気になりながら、ちょっと訂正を入れる。
「あら、私の事見つめちゃって。リリスちゃんが嫉妬しちゃうわ」
「私の心は海よりも広いからダイジョーブ。アイちゃんミズキチにメニュー持って来て貰えるかな?」
「りょ☆待っててねぇ〜」
メニューを取りに一旦離れるアイちゃんさん。その間に気になる事を聞いてみる。
「ねぇねぇリリスケちゃん」
「なんだいミズキチきゅん」
「さっきのアイちゃんさんって、オカマさん?」
「そうだよー?キュートだよね!」
「へぇー。とするとここはオカマバーってやつ?」
「そうそう。なんて言うか明るくって楽しいんだよ」
「こういう店初めてだからなんか緊張するなぁ」
「心配無用。身を委ねるのだー」
「ミズキチきゅんお待たせ〜!これがウチのメニュー表ね」
渡されたメニューを見てみる。特に高くもなく、安いというほどでも無い料金。お酒の種類は豊富で、ウイスキーから日本酒(この世界にも日本酒とかあるんだ?)まで、幅広く取り揃えているみたい。
「俺、スクリュードライバーにします」
「スクリュードライバーね!」
「私はやっぱり蒼髭スペシャル〜」
「リリスちゃんそれ好きねぇ、じゃあ作ってくるわね」
再びカウンターの向こう側に戻っていくアイちゃんさん。
「リリスはこの店良く来るんですか?」
「そうだね。ここは気分が落ちてる時とかに良く来るよ。アイちゃんや他の皆も凄く元気で明るくて、んでカッコ可愛いの」
「なるほど」
「ミズキチも悩みとかあるならココに来て愚痴とか聞いて貰うと良いよ」
なんかとても良い店らしい。そんなリリスの話を聞きながらカウンターの向こう側のアイちゃんさんを見ると、カッコよくシェイカーでカシャカシャしてる。あれちょっと憧れるなぁ。バーのマスターになってグラスを磨く人生…アリだな。
「ミズキチ、コレ飲んで」
「ん?」
そう言って渡されたのは三角に折り畳まれた白い紙。アレだ、薬包?
?を頭に浮かべながら包みを開くと白い粉が入っていた。…これ、イケナイ薬じゃ無いよね?
「これ、何の粉です?」
「吸血鬼の抵抗力、耐性を落とす秘薬だよ」
「…?何でコレを飲むんです?」
「吸血鬼は毒とかそういうの効かないせいでそのままお酒飲んでも酔わないの。だからこの薬で耐性を崩さないと酔いもしないお酒を延々飲み続けることになっちゃうんだ」
「あー。決してアブナイ感じの薬では無いんですね?」
「実際危ない薬だけどね?普通の人が飲んだら死なないまでも、三途の川の浅瀬で溺れるぐらいは強力な毒」
「絶妙な危なさですね」
そう言いながらリリスも同じ包みの薬を飲んだ。俺も同じように飲む。少しすると身体がフワフワし始めたぞ?これ本当に大丈夫か?
「2人ともお待たせっ!」
アイちゃんさんのテンションとは裏腹に丁寧に置かれたお酒達。アイちゃんさんも俺達の席に座って、自前のグラスを前に掲げた。
「じゃあミズキチきゅんの初来店を祝って、カンパーイ!」
「乾杯!」「かんぱ〜い!」
スクリュードライバーはオレンジ色をしてる。飲んでみると…見た目通りオレンジ味に近い。ジュースみたいで飲みやすい。
「美味しいでしょ?でも飲みすぎちゃダメよ?結構度数が高いからすぐ潰れちゃう」
「わかりました」
「折角来たんだから楽しんでいかないとね!」
「やっぱり飲むなら楽しいお酒だよー」
「それは同感です」
「私の蒼髭スペシャルも飲んでみなよ、美味しいよ?」
「じゃあ一口いただきますね」
蒼髭スペシャルはグラスの縁に青い塩らしき物が付いてるソルティードッグ的な飲み物だ。一口飲んでみると、グレープフルーツ系かな?爽やかな風味。
「美味しいですね」
「でしょ?この周りの塩がお酒の甘みを引き立ててくれるからスイスイ飲めちゃう」
「ミズキチきゅん、何でリリスちゃんに敬語使ってるの?そんなに歳も変わらないように見えるのに」
「えーと、雇い主だから…ですかね」
確かにリリスに対しては自然と敬語がでるな。初めの時からだから癖づいちゃってる。
「そうなのアイちゃん、ミズキチ固いの。私はタメ口でも全然良いのに。むしろもっと砕けて接して欲しいんだけどなー。あー、壁を感じるわー。アタックしても逃げるし。もしかして私の事なんてどうでもいいのかなー?」
「そ、そんな事は無いですよ?」
「じゃあ好き?嫌い?」
「う…好き、です」
「どれぐらい好き?」
「ど、どれぐらいですか?えーと…」
なんか返答に困る質問だな!スクリュードライバーを一口飲んで。
「…ドキドキするぐらい好きです」
「えー?じゃあチューしちゃう?」
「それはまだ知り合って日が浅いというか何というか」
「うーん、ミズキチはもっと段階を踏まないと攻略出来ないシステムか」
「先ずはミズキチきゅんの敬語をタメ口に変えてみよ?それだけでもグッと距離が近づくと思うの」
「むしろ既に近すぎて困ってるというか…」
そんな話をしてると女の子がテーブルに近づいて来た。さっきステージで踊ってた子だな。
「ママ〜!ステージ交替だよー?」
「あら?じゃあキッカちゃんここお願いね?リリスちゃん、ミズキチきゅんまた後でね〜!」
颯爽とステージへ向け歩いていくアイちゃんさんに代わり、一見本当の可愛い女の子にしか見えないこの子、キッカちゃんさんが俺達の席に座った。
「リリン久しぶり〜!」
「キッカちゃんも!」
声は野太くは無いものの男性な声。所謂男の娘って奴?色々な人がいるなココ。
その後店のオカマさん達が入れ替わり俺達の席に来て、和気藹々と談笑したりしながら中々楽しい一時を過ごした。
★
結構な時間「蒼髭」でお酒を飲んだ後、俺達2人は帰り道をちょっとフラフラしながら歩いている。
「いっぱい飲んだねぇ」
「楽しいお酒だったな」
「ねー!おっとと」
「よっ」
ちょっと足がもつれてよろけたリリスを支えると、そのまま俺の左腕を人質に取られた。ギュッと抱きしめてくる。
「久々にこんなに酔っ払っちゃった」
「屋敷まで送ってくよ」
「おぉー、遂にミズキチが送り狼に」
「入口までな?」
「えー?」
ぶーぶー言いながら身体全体でイヤイヤするリリスを引っ張って行く。
「ねぇねぇミズキチ」
「なにかなリリスケ」
「ちょっとこっち向いて?」
「うん?」
「かぷっ」
「うわっ!?」
向いたと同時に急に俺の首を噛んでくる。牙が刺さり、そこから俺の血が吸われていく。訪れる快感に身をよじる。
されるがままに吸われて、更に何かが送られてくる。これはリリスの血?
そこそこ長い時間そうして、ぷはっ、と口を離したリリスは満足げなとてもいい顔で、
「これでどうだ!″今夜は帰らせないよ″!」
と宣った。
「いやいや、帰るよ?明日も訓練あるし」
「あれぇー?何で効かないの?」
「ん?今の、もしかして相手を従わせる系の吸血鬼の技か何かだったの?」
「そうだけど…ちょっとおねーさん吸血鬼としての自信無くすな〜」
そんなのあるんだ?…コヤツまた俺に好き勝手しようとしたな?
「じゃあ俺もお返しね」
「ふぇっ?」
腕を取って抱きしめられないようにして、リリスの首筋に噛み付く。滴る血を舐めるとビクンと跳ねる身体。やっぱ美味しいな。
「ミズキチ!まって、吸っちゃダメ!」
そのセリフを聞き流し、そのまま牙跡から吸う。
「あっ!?ん〜〜〜!!??」
吸いながらリリスにされた様に俺の血を操作してリリスの体内に送り込もうとする。こんな感じかな?んー?
「ひぃ!?それだけは本当にダメ!!!あ、負ける、負けちゃう!!?」
送り込むのにかなりの抵抗を感じたけど、無視して俺の血をリリスに少しだけ注ぎ込む。すると一際大きくリリスの身体が跳ねると同時にリリスが足から崩れ落ちた。咄嗟に支える。
「おっと、大丈夫かリリス?」
カヒュ、カヒュと、過呼吸みたいに喘いでいるリリスの顔は涙や涎でぐちゃぐちゃになってる。ハンカチを出して拭いてあげて近くにあったベンチに座らせた。
俺も隣に座って、暫くそうして佇んでいると、ようやくリリスの呼吸が整い始めた。
「フーッ、フーッ…」
「ごめん、やり過ぎた?」
「っく、ダ、ダメって言ったのに」
「ごめんってば。でも血はとても美味でございました」
「フー…ねぇねぇ、ミズキチ様?」
「なんだい、リリスケよ」
「私をこれからどうするの?」
「うん?」
「負けちゃったの私。もうミズキチ様の命令に逆らえない心と身体にされちゃった」
「え?何それ?」
え?何それ?それ、なんてエロゲ?
「ミズキチ様は私の血をねじ伏せて、吸血鬼として上位に立ったの。だからミズキチ様が私のご主人様」
「えぇ!?これ、そんな感じの技だったの?」
「そーなんです。吸血鬼同士の序列を決めたりそうじゃ無い人に言う事聞かせたりする技。なので私はミズキチ様の忠実なる僕。何を命令されたとしても大丈夫。さあご命じください、なじりながら頭を踏めと」
「何で俺が踏まれる側なんだ」
「踏まれ顔をしてるから」
「どんな顔!?」
顔に手を当てて俺の踏まれ顔を確認する。よかった、普通の顔だ。
「こほん。前置きは後ろに置いといて。何なりと命令してくださいミズキチ様」
「うーん、じゃあ元のリリスケに戻って欲しいな?」
「…あれ?それで良いの?従わせる為に血を送り込んだんじゃないの?」
「うん、やったの俺だけど、なんか違うな〜って」
「ふーん?だったらミズキチ様、私の中を今も蹂躙し続けてるミズキチ様の血を取り出して欲しいな。でないとなんでも言う事聞いちゃうから」
「分かった」
もう一度リリスの首の牙跡から血を吸う。リリスの身体がビクンと跳ねるのを抑えながら今度は俺の血だけ分別して抜き取った。
「リリス、どう?」
「フゥ、フゥ…うん、なんとか大丈夫。まぁこういう事になるからミズキチは吸血禁止!ダメ!!」
「頑張ります」
「補足すると、血を直接送り込まなくても弱い子なら少しの唾液程度で簡単に服従しちゃうからね?ミズキチの吸血に至っては私でも危ないんだから」
「勉強になるよ。成る程なぁ〜」
「言うの2回目だけど、どうしても吸いたくなった時は私の所に来なさい。以上!」
「はぁい」
その後、吸血鬼のアレコレを話しながら歩き、リリスを屋敷に送り届けた。
誰かさんがあんな事したから凄くすごーく疲れたし今日はもう寝る、と言いながら素直に屋敷に入って行ったのを見送って、城への帰路につく。帰り着く頃には空が少し明るみ始めていた。やべぇ、ばっちゃんに怒られる。




