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ミズキの異世界物語  作者: すぺぇすふぁんたグレープ
一章 ミズキ、人間を辞めるってよ
21/42

違和感

 ここ数日、何かがおかしい。


 日に日に違和感が大きくなっていく。


 身体が何かを欲している。そんな感じがする。


 足りない、足りないとナニカが語りかけてくる。


 その声のせいで焦燥感に駆られる。


 俺は…











 人を見て、「美味しそう」と思うのだ。










 ここは城の風呂場。訓練が終わってひとっ風呂浴びにきた所。

 青と赤の蛇口を捻って適温にして桶にお湯を溜めて頭からザバーッてする。

 石鹸を泡立ててタオルで隅々まで擦り、全身アワアワになった所でザバーッてする。

 目の前の鏡に向かって顔を近づけて口をイーッてする。

 するととんがっている犬歯が見える。犬歯って言うか…これはもう牙?歯が伸びる歳じゃないんだけど。


 明らかにおかしい。どう見ても異常。それと胸の辺りに目を向ける。

 そこにあった筈の、毒を封じる為の大きな入れ墨の様な魔術紋様が見るたびどんどん小さくなっている。もう数日すれば消えてしまいそうだ。


「毒が弱くなってきてる?」


 …いや、むしろ俺が肉体的に強くなってるのか?


 訓練時にも違和感がある。身体が思っている以上に動くし力も増えた。激しく動いても疲れないし、怪我をしてもまるで逆再生するかの様に治る。魔力の操作も感覚が違う。明らかに今までよりスムーズに操れる。お陰でここの所模擬戦では負け無しだ。今日に至ってはベテランの騎士の人にも勝利を収めた。


 そして、猛烈な違和感。頭を駆け巡る衝動。


 それは言葉に表せば、「血を吸いたい」。


 人を見ると、更に言えば若い女性をみると沸々と沸く欲求。


 まぁ…正直分かってるんだ、原因は。鏡に映る俺の首筋に未だ残ってる噛み跡。


 明日は元々会う予定だから話を聞きに行こう。


 何してくれたんだリリスぅ!!


 その前にリクトルさんにも相談だな。この後行ってみよう。





「成る程…」

「何か分かります?」


 錬金術師代表のリクトルさんに最近の俺の身体の事と最近の話を伝えると、リクトルさんは顎に手を当てて唸った。


「まぁまず間違いなく君は吸血鬼化しかけている」

「やっぱりですか」

「ちょっとサンプルに血液を貰っても良いか?」

「どぞどぞ」


 ナイフを渡されたので指先をスッと切る。傷口から血が…滲まない。どころかそのまま傷口が塞がってしまった。


「ほう。正に吸血鬼の肉体だ」

「この場合どうすれば…」

「うーん、出ないとなると諦めるしか無いな」

「すみません」

「まぁ謝る事じゃ無いが。で、吸血衝動は抑えられそうか?」

「何とか今の所は…でも結構キツイです。何とかならないでしょうか?」

「そうだなぁ、私も別に吸血鬼の専門家って訳じゃないから何とも言えないんだが…採取して保存してある血液があるけどそれ飲んでみるのはどうだ?」

「あー、お願いします」


 リクトルさんが部屋の奥の冷蔵庫みたいな箱から試験管に入った血を持って来た。いっぱいある血の色はそれぞれ赤、青、緑、黒…と様々な種族の住まうこの街ならではだ。


「色々あるけど、どれにする?」

「何か違いがあるんですか?」

「赤は君が人間だった頃の血、青は筆頭魔術師で竜神族のフィナや妖鬼族のシャニ様の血やら他色々、緑は悪魔系の血が主かな?黒は魔族の血だ」

「うーん…」

「匂いでも嗅いでみるか?」


 試しにそれぞれ嗅いでみる。フィナ様の血はメッチャ唆る。シャニ様の血は美味しそうではあるけどそこまで惹かれない。悪魔系の血や魔族の血は悪く無いけどバラツキがある。自分の血は論外感。…ソムリエになった気分だ。


「どうだ?」

「フィナ様の血が一番美味しそうです」

「飲んでみるか?」

「良いんですかね?」

「研究用に貰った物だから研究に使って何が悪いのかって話だけど聞く?」

「いえ、今それ聞きましたんで結構です」

「じゃあグビッと行きなよ」


 渡されたフィナ様の血が入った試験管を特に躊躇わず飲む。


 喉を過ぎる血が俺の渇きを潤す。


 …だけど何か違うと俺の中の俺が言ってる。


「満足したか?」

「衝動は少し収まりました…けど、何か思ってたのと違う感じです」

「もしかしたら鮮度の問題かな?直接吸わなきゃいけないのかもしれないな?俺の血吸ってみる?」

「いや、あんまり…」

「ははっ、おっさんじゃダメか。別に好んで吸われたい訳じゃ無いから良いけど。ま、やっぱり餅は餅屋、その吸血鬼の子に聞くのが一番じゃないかな?」

「まぁ、そうですよね」

「それはそれとしておじさん、君の身体には興味津々だよ」

「言い方」


 禿げ散らかしたおっさんに言われて嬉しく無いワードできっと一二を争うよ。


「今後も定期的に経過を報告してくれると嬉しい」

「分かりました」

「じゃあまた今度」

「はい、ありがとうございました」



 リクトルさんの研究室を出て、さぁどうしようかと通路を歩いていると、前方から歩いてくる人影…あれはイツ様だな。白い肌と髪は目立つし横に護衛の騎士を連れてるのはユイとイツ様しか居ない。


『お、ミズキでは無いか』

「イツ様ご機嫌よう」

『うむうむ、苦しゅうない。お主も元気そうで何よりだ』


 先日あったイザコザでシャニ様に叱られた後は人が変わったかの様に俺にも朗らかに接してくれる。偶にすれ違う時にはこうして話しかけて来たりもする。


『そう言えばお主、最近は中々強くなったそうだな』

「えぇ、なんだか調子が良いんです」

『良い事だ。今度余と手合わせせんか?』

「イツ様とですか?俺には荷が勝ちすぎるかなと…」


 イツ様は7歳。だけどその実力は流石列強種族である妖鬼族。はっきり言ってアホみたいに強い。ユイの様な温室育ちの箱入り娘と違う、幼少期から訓練に訓練を重ねたモノホンの実力者だ。


『クク、そんな事を言って、実は鋭利な爪を隠してるのでは無いのかお主』


 最近は牙を隠してます。口を開けたら中々目立つんだよねこの牙。下手に笑ったりしたら見えるから口を開けずに微笑んでいたら同僚になんか気持ち悪いなって言われたり。へこむわ〜。


『そのうち訓練の時に顔を出すようにするからその時だな』

「あ、もう手合わせするのは決定事項なんですね」

『当然だ。余を楽しませてくれよ?』

「お手柔らかに?」

『何、胸を貸してやるぞ。ハッハッハ』


 つまり一緒に遊ぼう的な話なんだろう。娯楽が少ないからねこの世界。

 豪気に笑いながら護衛を連れて横を通り過ぎていくイツ様。7歳にして貫禄があるわ。前に立ってたら緊張するもん。


 さて、明日は休み。リリスの所には昼頃向かえば丁度だし、ちょっと飲みに出掛けよう。誰かに声掛けるかな?と思ってたら前から誰か歩いてくる…お、シリウスさんだ。一緒に遠征に行った記憶が新しい、頼れるお兄さん。丁度良い。


「シリウスさん、こんばんは」

「あぁ、こんばんは」

「シリウスさんこれから帰る所ですか?」

「そうだよ」

「これから飲みに行こうと思ってたんですけど、一緒にどうです?」

「ん、良いね。丁度ミズキと話をしたいと思ってた所だ」

「話ですか?」

「折角だし飲みながら話そう。一度家に帰って嫁に飲みに行く事伝えてくるから城門前で待っててくれるかい?」

「はい、待ってますね」


 そんなこんなで城門前で待つ事数分。割と直ぐにシリウスさんは戻って来た。


「お待たせ」

「いえいえ」

「何処に行くか決めてる?」

「珍宝亭にしようかと」

「あそこか。オッケー。じゃあ行こう」


 珍宝亭は街の大通りから少し小道に入った所にある高級志向の居酒屋だ。昔この店の店主が旅をしていた時に手に入れた珍しいお宝が飾ってあって、それがお店の名前の由来だそうだ。丸は付けないで読むのが正解との事。


 程なく辿り着いた珍宝亭。中に入ってカウンター席に隣り合って座る。

 それぞれ頼んだお酒を手に、静かに乾杯をする。今回頼んだのはちょっと強めのチューハイ。シリウスさんはウイスキーをストレートで舐める様に飲んでいる。


「ここで取り扱ってるウイスキーは美味しいんだ」

「俺、ウイスキーなんて飲んだらすぐダウンしそうです」

「こういうのはじっくりと時間を掛けて味わう物なんだよ」


 少しの間、特に言葉もなくグラスを傾ける。シリウスさんがウイスキー飲んでる姿、絵になるなぁ。

 シリウスさんは種族は知らないけど見た目は殆ど人間族。整った顔立ちにスラッとした体躯、人を安心させる落ち着いた雰囲気、そして凄く強い。

 騎士達の憧れを一身に浴びるイケメンさんだ。


「所でミズキ、話なんだけど」

「何でしょうか?」

「今度一緒に欠月山に行かないか?」

「欠月山?」


 確か…この街から北西に向かった所にある標高数百メートル程度の低い山だ。魔力濃度が濃く、割と厳しい自然環境で、多数の強力な魔物や妖魔が生息しているとか地理の授業で習った。

 そして、その欠月山で有名なのが…


「もしかして『ルナーティア』?」

「そうそう、話が早いね」


 月涙の剣『ルナーティア』。欠月山の天辺に伝説の剣が如く台座に刺さっている。

 実際にこの世界の神話にも登場する由緒正しき神剣で、太陽神との別れに悲しみに暮れた月の女神が、天より落とした涙から出来たと言われている。その剣は膨大な月の魔力が宿っていて、意思を持ち、持ち手を選ぶと言われている。

 一番近い歴史で数百年前、獣人族の英雄が引き抜いた際にはその力を持って、今で言う獣王国を立ち上げるに至ったんだとか。

 じゃあ獣王国にあるのでは?と、思うが、話によると選ばれた持ち主が亡くなった際に自動的に山に戻ったらしい。ファンタジーな剣だ。

 そんな神剣を求める者には過酷な試練が待っている。と言うのが歴史の授業で聞いた話である。


「子供の頃からいつか行ってみたいとは思っていたんだ」

「そうなんですね。でも何で俺に声を?」

「ミズキは回復魔術が使えるだろう?それがあれば道中助かるだろうと思ってね。それに最近のミズキは驚くほど強くなってるから背中を預けるパートナーに丁度良い」

「ありがとうございます?でも、俺たち2人で行くつもりなんですか?」

「他にも何人かに声を掛けたんだけど振られてしまってね。流石に1人で向かうには厳しいだろうから、ミズキがついて来てくれると嬉しい」

「そうなんですか。まぁ構わないんですが…」

「面白い話をしてるじゃ無いか!」


 急にカウンターの向こうから話しかけてくる人…この店の店主さんだ。


「ルナーティアか。懐かしいな!」

「店主さんは剣を抜きに行った事があるんですか?」

「おうよ!俺が丁度全盛期でイケイケだった時に仲間を連れてな!まぁ俺達には辿り着く事さえ出来なかったんだ」

「魔物が強くて?」

「まぁそれも一因だが、あそこの山は木が生い茂っててな、そのせいか知らねぇけど雨が降ってなくとも霧が出てて視界が悪いんだ。方位磁針も濃厚な魔力のせいか狂うしな。お陰で迷いに迷いちぎって命からがら逃げて来た」

「そんな所なんですか…シリウスさん大丈夫です?」

「それでも僕は行ってみたいよ。せめて一度は挑戦しないとずっとこの胸のモヤモヤを抱えた事になるし」

「俺ももう少し若ければお前達と一緒に挑戦したい所なんだかな!まぁ2人とも頑張れよ?手に入れられてもダメだったとしても是非話をしに来てくれ。その時はとっておきの酒を振る舞ってやるよ!」

「終わったら必ず来ます。店主さんのお名前は?」

「俺か?ルパだ」

「僕はシリウス、彼はミズキ」

「おぅ!覚えとくよ!ちゃんと生きて帰れよ?」


 カラカラと笑いながら店の奥に引っ込んでいったルパさんを見送り、俺たち2人は酒を飲みながら今後の予定なんかを話し合った。

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