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ミズキの異世界物語  作者: すぺぇすふぁんたグレープ
一章 ミズキ、人間を辞めるってよ
17/42

吸血鬼

 騎士になって2回目の給料が出た。手持ちがあったかくなったので、今日は鍛治屋に行ってこの前買ったロングソードの研ぎ直しと調整をして貰おうと思う。


 城を出て、街行く人に道を教えてもらいながら、この街でも腕の良いと評判の鍛治師がいる店に到着した。早速店内にお邪魔する。


「すみませーん。剣を整備して貰いたいんですがー!」


 声を掛けると、店の奥から店の主人らしいおじさんが出てきた。


「あいよー。いらっしゃい兄ちゃん。どれだい?その腰の剣かい?」

「そうです」


 腰帯から剣を外して店主さんに渡す。店主さんが剣を抜いて眺め始めた。


「んー。コレ、自分で研いだのかい?」

「そうです。その時お金なくて…」

「そうか。ちょっと刃がガタガタだが他は問題無さそうだな。そーだな、料金は8千ルビだな!持ってるか?」

「大丈夫です。お願いします」


 店主さんに代金を渡す。


「よし、いっちょやるか!見てくかい?」

「いいんですか?」

「研ぎ方も勉強した方がいいだろ?綺麗に研げるようになれば剣は長持ちするし、こうやって整備する時も料金が安くなるからな!」


 そう言って店主さんは俺を鍛冶場に案内してくれた。


「先ずは表面の汚れや錆を磨いて落とすだろ?」

「で、荒い砥石で剣の形を整えて…」

「…次に中目の砥石で刃を作って…」

「…細目の砥石で刃先を軽く…」


 成る程、荒い砥石から目の細い砥石へと順番に研ぐんだな。砥石は武具屋さんに貰った1個しか持ってないけど。あれは何砥石なんだろう?


「コレに油を薄く塗って完成だ。因みに油はこまめに拭き取って塗り替える事。特に刃先が錆びると大きく刃が欠けたりして寿命が縮むから。後、自分で研ぐのが難しいならここに持ってくると良いぞ。それほど刃がちびて無けりゃもっと安く出来るからな」

「はい」

「ついでに鞘も綺麗にしておいてやる」


 と、鞘を分解して中の部分を綺麗にしてくれた。


「ほら、出来上がりだ。持ってみろ」

「ピカピカですね!」

「そーだろう。剣が綺麗だと気持ちもシャキッとなるもんだ!」


 確かに気分は高揚してる。このロングソードは生まれ変わったのだ。

 剣を眺めた後、鞘に戻して腰帯に装着する。


「そういえば店主さん、鍛治屋って他には何をしてるんですか?」

「んぉ?まー、例えば武具屋に卸す武器とか防具を作ったり、今日やったみたいに武具の調整をしたり、客の要望で新しい鉄製品を作ったり。鍋とかの調理器具だって作れるぞ」

「じゃあ武具屋に並んでたミスリルのルーンソードとか、刀なんかもここで頼めば作って貰えるのですか?」

「ミスリル製品に関してはミスリルの在庫が有ればだな。刀は俺は作れない。何本か打ってみた事はあるが、あんなに綺麗な刀身にならなくてな。教えてくれる人が居りゃ出来るかもだが」

「そうなんですね」


 刀は作れないのか。でもまぁ俺にはこのロングソードがあるか。今更刀手に入れてもあれは振り方が違うだろうし。


「まぁ武具に関してなんかあったら顔だしな。話聞いてやるから」

「分かりました。ありがとうございました」


 そうお礼を言って店を後にした。さて、まだ昼前だけど今から何しようか。服は前回の給料で充分揃えたし、特に欲しい物も思いつかない。

 リリスさんの屋敷に行って清掃でもしようかな。んで、その後また居酒屋かどっかで飯食って帰って風呂入って寝る。そう言う休日もありでしょ。


 という事でやってきたリリスさんの屋敷。ギィィと音を立てる門を開けて、この間雑草を抜いて綺麗になった玄関までの道を歩き、ドアのノッカーを叩く。


「リリスさーん!居ませんかー?」


 暫く待ってみる。すると玄関がゆっくりと開いて、寝巻き姿で寝ぼけ眼のリリスさんが出てきた。


「あー、ミズキチかー」

「掃除の手伝いに来ました」

「んー、ちょっと入って待ってて」


 と、言い残しリリスさんが自分の部屋へ戻っていく。その間屋敷内を見渡していたが、掃除がされた形跡は無い。俺の他には誰も依頼を受けて無いのかな?


 そうこうしてると普段着に着替えたリリスさんが部屋から出てきた。


「おはようミズキチ」

「おはようございます」

「ミズキチは礼儀正しいね。で、今日は何処を掃除してもらおうかな」

「庭の雑草がまだ生えてますけど?」

「んにゃ、庭はあれで充分歩けるし、今日は他の場所を掃除して欲しいかな。んー…」

「屋敷の中の掃き掃除でもしましょうか?」

「そうだね、そうして貰おう。掃除道具はあそこの箱の中にあるよ。今日も夕方迄やってくれるの?」

「そのつもりです」

「じゃあ大体後6時間ぐらいだから6000ルビかな?それが終わったら一緒に晩御飯食べに行こうよ。奢るよ?」

「良いんですか?給料貰って、その上ご飯奢って貰っても?」

「良いんです。こう見えておねぇさん結構稼いでるんです」


 晩御飯を奢ってくれる事になった。やったね!頑張ろう。

 それにしても何の仕事してるんだろう?

 

「お掃除お願いね。あと、お昼ご飯まだなら途中で食べに行っても良いからね。私はもう一口寝てくるから」

「はい、頑張ります」


 そう言ってリリスさんは部屋に戻って行った。さぁ、早速やるかぁ。


 掃除用具入れの大きな箱を開けてみると、箒に塵取り、バケツに雑巾、はたきにモップや脚立など一通り揃っていた。

 先ずは高い所の埃をはたきで落として、箒で掃いて…と、2時間程掛けて埃を片付け、次はモップで床面を綺麗に水拭きする。


 手際よく、黙々と掃除をする。小休憩を挟みながら、玄関から見える範囲の床を綺麗にしていく。


「良し、終わったな」


 床掃除が終わった。何処を見渡しても埃が落ちてない。素晴らしいね!暇が出来たついでに綺麗な布巾で窓拭きをする。汚れて曇っていた窓がピカピカになっていく。その窓から外をみると丁度夕方の時間帯。そろそろ片付けよう。

 掃除用具を片付けていると、丁度リリスさんが外行きっぽい格好で部屋から出てきた。


「ぅわぉ、綺麗になったね〜」

「見える範囲は何とか」

「でもミズキチが埃かぶってる」

「そうですか?ちょっと外で叩いてきます」


 玄関から外に出て頭やら服やらを叩いて埃を落としてるとリリスさんも背中とかを叩いてくれた。


「うん、こんなもんかな?じゃあコレね、今日のお給金は6000ルビ」

「ありがとうございます」

「お昼ご飯は何食べた?」

「いえ、食べてませんね」

「あれ?そうなの?食べに行っても良いって言っといたのにー」

「掃除に夢中でした」

「よし、晩御飯は奮発しちゃおう!何が良い?何でも連れてってあげるよ。食べたい物はある?」

「何でも…焼肉とか?」

「良いね、焼肉!街の中心街に美味しいお店あるからそこにしようか」

「…姉さん、ご馳走になります!」


 焼肉を奢って貰えるとか、もうリリスさんについてくしか無いな。


「姉さんて、多分ミズキチとそんなに年変わらないよ?いくつ?」

「俺ですか?あー、えーっと…」


 …思い出せない。高校生だったはずで、後輩が居たんだから2年か3年?


「多分17ぐらいです」

「多分?何で年が曖昧なの?」

「えーっと…俺、元々この世界の人間じゃなくて、日本って言う国から来た………」


 この世界に来た経緯をリリスさんに説明した。


「おおぅ、何か大変なんだね。私は16だよ」

「確かにそんなに変わりませんね」

「それよりも中心街に向かおう。お腹空いたよ」

「ですね」





 リリスさんと一緒に中心街へやってきた。空は大分暗くなって、中心街には魔石灯の明かりが灯され始めている。


「ここだよ」


 案内されたお店は牛や豚、鳥等の動物の絵の看板が松明に照らされていて、店内から美味しそうな焼肉の匂いを漂わせている。


「ここ、美味しいんだよ!」


 と、リリスさんは店の中に入っていくのでついて行く。


「しゃーせー!」

「「「しゃーせー!」」」


 入ると同時に店員さんの声に出迎えられ、俺とリリスさんは席に案内される。リリスさんと対面に座る。


「ご注文は如何しますか?」

「私はとりあえず生中、あと豚トロ一人前、カルビとロースを…」


 リリスさんがメニューも見ずにどんどん注文していく。俺はその間に注文するものをメニューを見ながら決める。


「私は以上かな?ミズキチは?」

「俺はビールと、タン塩、ハラミ、こってりホルモンのタレを一人前と、ライス大で」

「それだけで良いのミズキチ?遠慮しないで良いからね?」

「あー、また欲しくなったら注文できるんですよね?」

「はい、出来ます」

「なら一先ずコレで」

「かしこまりました〜。復唱します、生中2、カルビ…………以上でお間違い無いでしょうか?」

「はい、それで」

「それでは少々お待ちください。火をつけさせて頂きますね〜」


 席の真ん中の魔石コンロに火をつけて立ち去る店員さん。その店員さんが持ってきていたおしぼりで手を拭く。


「そういえばリリスさん」

「んー?なにかな?」

「リリスさんって何の仕事をしてるんですか?」

「ん?バーのおねーさんだよ。お客さんのお酒を注いだりお話聞いたりそんな感じ」

「あ、そうなんですね」


 実はてっきり風俗系の仕事かと思ってた。


「あー、ミズキチ、さては私のこといやらしい目で見てたんだなぁ?」

「そ、そんなことは」


 あるんだけど…だって可愛いし、妙に色気があるし。


「まぁミズキチが私の事を、色んな想像をして楽しむのは止められないけど」

「すみません…」

「素直で宜しい」


 そんな雑談をしてると、肉を持った店員さんがやってきて、注文した物を順番に並べて行く。


「ではごゆっくりどうぞ〜」


 早速2人でお肉を焼いていく。ジュー!と美味しそうな良い音に食欲がそそられる。


「ミズキチさぁ」

「はい、なんですか?」

「私の事、さん付けじゃん?リリスさんって」

「え?まぁ、雇い主ですし」

「じゃあ雇い主からの命令!私の事は呼び捨てる事!」

「えぇ?…リリス…違和感がありますけど」

「その内慣れるよ。んで、敬語も使わない!」

「いきなりは中々変えられないですって」

「えー?」


 肉をひっくり返す。牛肉ってそんなに焼かなくても良いって言うけど、そもそもこの肉は何の肉なんだろう…?やっぱりしっかり焼いておこう。


「あ、そのお肉は充分焼けてるよ」

「え?そうですか?」

「ここで扱ってるモーモー肉はそんなに焼かなくても大丈夫。厳しい検査をくぐり抜けた強者の肉だから」

「強者。」


 リリスが焼けたという肉をタレにつけて食べる。んー、ジューシーで滴る肉汁。ジュワっと広がる脂の旨味。素晴らしい。


 次にタン塩やホルモンを焼く。リリスもカルビやロースの肉を網の上に置いて焼いていく。


「所でミズキチって、何族なの?見た感じ人間族だけど」

「俺はこの世界で言う人間族で間違いないですよ」

「だよね。でも唯の人間族にしては美味しそうな魔力してるんだよなぁ」

「美味しそうな…?妖鬼族の血が混じってるせいでしょうか?」

「え!?ミズキチ王族なの?」

「違いますよ。故あって死なない様に血を分けて貰ったんです」

「そうなんだ…ねぇ、私に血を吸わせてよ」

「…と言いますと?」

「私、実は吸血鬼なんだよ」


 と、言ってリリスは口をイーッてして尖った八重歯を見せてきた。


「へぇ、吸血鬼…って事は血を吸われたら俺も吸血鬼になっちゃうんじゃ?」

「互いが意識して血を吸わなければ吸血鬼にはならないから大丈夫。血を吸われるの、結構気持ちいいらしいよ?」

「ま、また今度ということで一つ」

「えー、連れないなぁ」


 ちょっとドキドキ。女の子に血を吸われるって、何かエロい。どうしよう、顔が火照ってきた。


 黙々と肉を焼き、ひっくり返す。焼けたこってりホルモンを食す。

 おぉ!このこってりホルモン、メッチャ美味い!モーモー肉侮りがたし。


 焼肉屋でお腹いっぱいになるまで食べて飲んだ。かなり幸せな一時だった。

 店を出て夜風に当たる。お腹がいっぱいのせいか眠たい。掃除で汗もかいたし、風呂入って寝たい欲が凄い。


「ミズキチ、コレからどうする?」

「え?帰るのでは?」

「えー?帰っちゃうの?」

「既に結構眠たいんですけど…」

「そっか、ミズキチ朝から起きてるんだもんね。仕方ないか。ミズキチは何処に住んでるの?」

「お城です」

「王族じゃなくて騎士なのに城に?じゃあ付き添わなくても迷う事無いね」

「はい、大丈夫です」

「あ、そうだミズキチ…」


 おもむろにリリスが近づいてきて、俺の首元に軽く噛みついた。

 何かを吸われる。それは血なのか魔力なのか精神なのか。意識が飛びそうな快楽が身体を駆け巡る。


 ぷはっ…と、リリスが離れた。う、もう終わり?


「ふふ、吸っちゃった。ちょっと毒混じりだけど、やっぱりミズキチは美味しいね」

「え、毒大丈夫なんですか?」

「吸血鬼だから血のコントロールはお手の物なんだよ。だから大丈夫。じゃあ今日はコレで解散!また掃除しに来てね!」

「は、はい、リリスも気をつけて」


 大きく手を振って立ち去って行くリリス。

 血を吸われるのがこんなに気持ちいいなんて…癖になってしまいそうで怖い。


 そんな快楽の余韻に浸りながらふわふわとした気分で城に向かって歩いて帰る。

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