回復魔術
盛大に暴れ倒したイツ様は、駆けつけたシャニ様に諭された。そもそも近親で子供を作ったりするのはこの世界でもタブーとされていて。故に結婚も認められていないらしい。その事を説明されたイツ様は「じゃあ余は姉上とは結婚出来ないのですね…」と、しょんぼりしていたと言う。
『ミズキよ、知らなかったとは言え、私の息子が迷惑を掛けた。イツ、謝れ』
『ごめんなさい』
と、素直に謝って貰ったので子供のした事として謝罪を受け入れた。
翌日からは何事も無かったかの様に授業と訓練を繰り返す日々がやって来た。
「おーい!ミズキ君ー!」
訓練が終わった後に他の騎士達と喋っていると、訓練場の入り口から筆頭魔術師のフィナ様の呼んでいる声がした。
騎士達との話を切り上げてフィナ様の所へ行くと、もう1人フィナ様の側に立っている。確か治癒術師長のクリフさんだ。
「どうだいミズキ君、調子は」
「良いですよ。今日はどうしたんですか?」
「今日はだな、クリフに回復魔術をミズキに仕込んで貰おうと思ってな」
「回復魔術…ですか?」
「やはり勇者と言えば接近戦は勿論の事、攻撃魔術や回復魔術を自在に操れるべしだろう」
「…フィナ様って勇者に拘りますよね」
「子供の頃から絵本や書籍で勇者の物語を読んだ影響で憧れててね。それに回復魔術を使えて損は無いからさ」
「まぁ有難いですけど」
クリフさんの方を見る。クリフさんは天然パーマで少し長い髪型、耳が少し尖ってて、肌が少し青い男性だ。
「じゃあ始めるか。回復魔術には先ず資質が無いと話にならない。そこに用意してある絨毯の魔術陣の中心に立ってくれ」
言われて、絨毯の真ん中に立つ。
「次にこの神像」
クリフさんの手元には5センチぐらいの大きさの、金属らしき物で出来た神像が乗せられている。
「この像は祈りの力を高めるミスリル銀の触媒。回復魔術を使うにはなくてはならない物だ。この神像を掌に乗せた状態で神の存在を感じる為に祈りを捧げる」
「祈りを捧げる…ですか?」
「あぁ。資質が無いと神への祈りが届かず、回復魔術は使えない。まぁやってみたまえ」
「分かりました」
神像を受け取り、何となく目を瞑って…
「すみませんクリフさん。なんて祈れば良いのですか?」
「人によって祈る内容は違う物だから自分なりに考えてみろ。あと、特に目を瞑る必要はない。やり易いならそれでも良いが」
「はい…」
日本に居る時には神様なんて特に信じちゃ居なかったけど、この世界では神に祈れば回復魔術が使える、と言う事は人の祈りに答える神様が居ると言う事だ。ここは真剣に祈ろうと思う。
神様、俺に回復魔術を使わせてください。
神様、俺に回復魔術の資質を下さい。
神様、俺に元の世界に戻れる力を下さい。
神様…
「ミズキ、目を開けてみろ」
クリフさんにそう言われて目を開けると手の上にある神像が薄らと光っている。足元の絨毯の魔術陣からも光が立ち昇っている。
「資質はある。魔力もある。後は日々の祈りで神との繋がりを太くするだけだ」
「分かりました…回復魔術の詠唱文は…?」
「文言は決まっていない。人によって神へのイメージは違う物だからだ。自分で色々と試して見ると良い」
「はい」
「その神像はミズキにやろう。じゃあ後は頑張れ」
「ありがとうございました!」
クリフさんが絨毯を巻き取り、立ち去っていく。後に残された俺たち。フィナ様が唐突にナイフで自分の手のひらを切った。青い血が地面に滴る。
「な、何してるんですか!?」
「早速この傷を治して見てくれ」
「えぇ!?」
「あー、大怪我を負ってしまった。ミズキが治してくれないとフィナ、死んじゃう〜」
よよよ…と下手くそな泣き真似で俺に手のひらを向けてくる。仕方ない、やってみよう。
フィナ様の手のひらに手を当てて。
「ヒール!」
…何も起こらない。
「あれ?」
「神に祈ってないんじゃないか?」
「あ、そうか」
気を取り直して。神よ、俺に傷を癒す力を分け与え下さい。
そう祈った瞬間、俺の手にある神像が薄く光った。
「ヒール!」
フィナ様の手のひらの傷が、ゆっくり塞がっていく。数十秒程で完全に塞がりきった。傷跡もない。
「おぉ〜」
「コレでミズキ君も万能タイプの騎士になれたな!接近戦も魔術も回復も使える奴は中々居ないぞ」
「ですかね?」
「後は全部のレベルを上げていくだけだな!魔王を倒しに行く時は是非声を掛けてくれ!」
「いや、そんな張り切られても…」
「はは、こう平和だと暇でね。獣王もこの間城をぶっ飛ばしたせいでビビってるのかちょっかい出してこないし」
「いい事じゃないですか」
「まぁそうなんだけどな。じゃあこの辺で今日は終わりにしよう。ゆっくり風呂入ってご飯食べて寝ようか」
「今日は先に女湯でしたっけ」
「そうだね。一緒に入る?」
「い、いや。遠慮しておきます。他の女の人もいるし」
「2人っきりなら良いと。姫様に報告だな」
「なん…やめて下さいよ!?」
「はっはっは。ではまたね、ミズキ君」
「はい。ありがとうございました!」
颯爽と去っていくフィナ様。さぁ、先に飯食べるか。




