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ミズキの異世界物語  作者: すぺぇすふぁんたグレープ
一章 ミズキ、人間を辞めるってよ
14/42

遠征

 今日は街の外に魔物狩りに行く日だ。


 集合場所は街の入り口の門。そこには既に他のチームが揃っていて、ワイワイと話をしている。ガイさんが俺達の姿を見て、周囲の騎士達に声を掛けるとチーム毎に整列し始めた。俺達も並ぶ。


「よし、集まったな。ではコレから街道、並びにその周辺の魔物討伐を開始する!それぞれのリーダーには事前に何処へ向かうかを知らせてあるから、それに従ってくれ。以上。出発!」


 俺たちのリーダーはシリウスさんだ。


「じゃあ行こうか。僕達は北の農村へ向かうよ」


 そう言ってシリウスさんが歩き出したのでその後ろについて行く。


「街の付近はそんなに魔物はいないけど、街から離れると途端に増えるから注意だよ。あと、森には近づかない事。足場も視界も悪くてとてもじゃ無いけど戦えないし、やたらと強い魔物がひしめいてるから」

「急に襲われちゃったりしたら危ないから周りをよく見て進まないとダメだよー」

「はい」「気をつけます」

「足の速い魔物もいるから重々注意してね」


 そうやって話をしながら街道を歩いていき、街が見えなくなって暫くした頃、初めての魔物に遭遇した。その魔物は緑色の肌をしていて耳が尖っており、2メートル強の巨躯で、筋肉もムキムキだ。その手にした棍棒から放たれる一撃が軽く致命傷になりうる事を想像させる。そのモンスターの名は…


「うん、ゴブリンだね」


 ゴブリン?アレが?もっと小さくてヒョロヒョロしてるのを想像してたんだけど。イメージと違う…


「強そう…ですね?」

「いや、ここら辺じゃ弱いほうだよ。丁度いいからカッシュ君とミズキ君で狩ってきなよ」

「え?俺達2人でですか?」

「余裕余裕。見ての通り取り巻きも居ないし武器も棍棒だし。と言うかアレに負けてちゃ話にならないしねー」

「わ、分かりました」

「行くぞ、ミズキ!」


 カッシュさんが先に走っていく。俺もロングソードを抜きながらついていく。

 そして相手の警戒域に入ったのかゴブリンが吠え、コチラに向かって走ってくる。

「ウガァァァァ!」

「はぁっ!」

 ブォン!と振り抜かれる棍棒を掻い潜り振われたカッシュさんの剣の一振りは、ゴブリンの腕に傷を付けるものの硬い筋肉に阻まれて傷は浅い様だ。

「ミズキ!お前は後ろからだ!」

「はいっ!」

 ゴブリンの後ろ側に回り込み、奴の背中に向けて突きを放つ…が、それを察知したのか後ろに敵が居るのを嫌ったのか、横に転がって避けられる。

 再度切り込みに行ったカッシュさんがゴブリンのカウンター気味の蹴りを喰らったが、上手く威力を逃した様でそれ程ダメージは無さそうだ。


「出し惜しみしない方が体力使わないぞー」


 パイナさんの助言により、俺は闘気法を使う。身体が軽く感じられる様になり、知覚速度が上がる。

「っつ!」

 急速に接近した俺はすれ違うようにゴブリンの足の腱を狙って剣を振るうが、それは棍棒で遮られる。その隙にカッシュさんの斬撃がゴブリンの胸を切り裂いた。しかし痛みや噴き出る血飛沫をものともせず、振り向きながら俺に棍棒を振り下ろしてくる。それを横に受け流しながら回避して、一度距離をとった。


 …コレで弱い方…?一体この世界はどんな魔境なんだ。


「ほらほら、カッシュ君が一人で頑張ってるよー?」

「はい!行きます!」


 再度魔力を身に纏い、ゴブリンの後ろを取って…





「2人とも連携をもっと考えなきゃダメ。後ゴブリン一匹に時間かかり過ぎ。ダメダメ」

「はい」「すみません」

「あ、カッシュ君は蹴られた所、帰ったら治癒術師さんに見て貰っておきなよ」

「うぃっす」


 2人掛かりで何とかゴブリンを倒した後、パイナさんにダメ出しを貰い。

 その後も次々と魔物達と遭遇する。先程の筋肉ムキムキのゴブリンや、お相撲さんの様な身体付きをしたオーク、身の丈3メートル近い巨躯でパワフルなオーガ、土系の魔法を放ってくるアースリザード等々、様々な魔物達。先程のゴブリンぐらいの魔物なら俺とカッシュさんが。強い魔物と遭遇したらシリウスさんとパイナさんが戦って俺とカッシュさんは見学のスタイルで村に向かって魔物を殲滅しながら進んでいく。しかしどの魔物も強く、俺の目から見て雑魚と言える様な魔物が居ない。


 どうも俺は強くなったと自惚れていたようだ。先日門番に止めて貰って良かった…


 そして日が傾きかけた頃、ようやく村に辿り着いた。


「皆様、良くお越し下さいました。歩き詰めで疲れたでしょう。ゆっくりしていってください」


 と、村長さんに言われ、村の集会所に案内される。今日はここで一泊するらしい。この後食事を持って来てくれるそうだ。

 俺達は集会所の絨毯の上に座って休みを取る。


「今回は割とマシだったねー」

「そうだな、極端に強い魔物は出てこなかったな」

「最後の方はミズキも慣れてきて上手く戦えてたし。いい実戦経験になったんじゃ無いかな?」

「そうですね。でも想像してたのと違ってどの魔物も強かったです」

「この地域は他の地域と比べて比較的強い魔物が多いせいであんまり弱い魔物は居ないね。居てもすぐ食べられちゃうからね」

「成る程。しかしこんなに強い魔物ばかりなのに農村の人達は大丈夫なんですか?」


 道中見てきた感じ、畑に囲いがあるわけでも無かったし、作物とか食べられちゃう気がするんだけど。


「城のその周りやこういった農村には大規模な結界が張られてるんだよ。魔物を寄せ付けにくくする感じの」

「へぇ、そうなんですね。しかし何でこんなに街から離れてるんですか?」

「作物が育ちやすい土地とかそんな理由じゃ無いかな?そこは僕も詳しく知らないね」

「そうですか」


 シリウスさんやパイナさんと話をしてる間にも、カッシュさんは黙々と剣の手入れをしている。俺も手入れしておこう。


 やがて日も暮れて、皆が寝静まる頃。俺は集会所を出て空を見上げた。見渡す限りの満点の星。うろ覚えとはいえ、こんなに綺麗な星空は日本にいた時見た事がない…はずだ。

 空に太陽や恒星と思われる輝く星があり季節があり昼夜がある、という事はこの世界は宇宙にある一つの恒星の周りを回る惑星という事なのかな。

 魔力なんて物が存在する事を考えると絶対にそうとは言い切れないか。恐らくだけど地球のあった宇宙…世界とは違う所なのだろうし。


「どうやって帰れば良いのか…そもそも帰れるのか?」


 魔王という存在が気になる。魔王を討伐するのが物語の王道と言える。強くなったら話を聞きに会いに行ってみるのも良いかも知れない。シャニ様に強いと言わしめる実力者だ、何か知っているかも…知っていなくても得られる物があるんじゃないかと。

 それにしても強いと聞いていたこの街の外の魔物は想像以上に強い。しかも今日会ったのは雑魚の部類っていうんだから…俺はどれだけ強くなれば旅に出られる様になるのだろう。

 そもそも一人で出ようとするのが間違ってるんだろうな。仲間を集める事も考えておこう。


 …後輩は無事かな?それ程の高さの階段じゃかったとはいえ、後ろからバランスを崩して倒れたんだから頭を打ったりしてないだろうか?

 それとも俺と一緒にこの世界に来てしまっているとか。だとしたら会えると良いんだけど。しかし名前思い出せないな…顔も朧げにしか思い出せない。


 そのまま色々と考えながらボーッとしてると、後ろから足跡が聞こえてきた。


「ミズキ、どうしたんだ?」


 シリウスさんが隣に立って俺の顔を覗き込んでくる。


「あ、いえ、ちょっと考え事を」

「なんだ、泣いてるかと思ったよ」

「気分的には涙出そうですけどね」

「そうなのか?何考えてたんだ?」

「元いた世界の事を考えてました」

「あぁ、そういえば日本から来たんだっけ。どんな所?」

「んー、文明がもっと機械寄りに進んでて。魔力とか無かったりします」

「魔力無しにどうやって強い魔物を倒すんだい?」

「そもそも魔物と呼べる生き物がいないんです。それに居たとしても銃火器やミサイルといった兵器があるので大概の魔物はそれで倒せると思います」

「凄い所なんだな、日本」

「その世界の国は日本だけじゃ無いんですけどね。」

「へぇ…」


 何だろう、心配して見に来てくれたのかな?


「それにしても、ミズキは中々強くなったよね。初めて見た時は凄いへっぽこだったけど、今じゃ新人の中で一二を争ってるじゃないか」

「ユイと騎士の皆さんのお陰ですよ。丁寧に教えて貰ってますし、ユイには俺を助ける為に血を分けて貰いましたし…貰ってばかりです、俺」

「良いじゃ無いか。ミズキの人徳だよ」

「ですかね」

「もっと強くなったら是非僕とも試合をしてくれよ」

「…追いつける様頑張ります」


 この村に来るまでにシリウスさんが何度か戦うところを見てたけど、一言でいうなら化け物だ。とても今の俺じゃ太刀打ち出来ない。これは相当頑張らないといけないな。


「さぁ、夜も遅いし、明日は朝早くから街に戻る。そろそろ寝よう」

「はい」


 シリウスさんに促され、集会所に入る。既にパイナさんとカッシュさんは寝ている様なので、起こさない様に静かに自分の布団に潜り込んだ。


 昼間の魔物との戦いで疲れていたのもあってか、自然と瞼が落ちてくる。

 そのままなすがままに意識を手放した。





 翌日の朝は快晴だった。


 遠征の為の準備運動として朝から少し走り込み、素振りなどをして身体を目覚めさせる。


「おはよう、皆調子はどうだ?」

「問題ないよ」「大丈夫っす」

「良いと思います」


 村長さんと話していたシリウスさんが戻ってきて皆に調子を聞いた後、集会所の前にあるテラス的な所で村の人が用意してくれた朝ご飯を頂く。


「昨日の調子ならオーガぐらいまでならカッシュとミズキに任せても大丈夫そうだな」

「でしょうか。パワー負けしそうですが…」

「コツを掴めばゴブリンと変わらないさ。ちょっと大きくて狡猾なだけだ」

「今日の目標は1人でゴブリン、2人でオークとオーガ討伐だね」

「頑張ります」「うぃっす」


 ご飯も食べ終わり、村の人達の見送りに手を振りながら街を目指して街道を歩いていく。


 魔物を狩りながら街道を進んでいると、遠くの方でニャオォーーーーン!という猫の様な、高らかな鳴き声が響いた。


「お、ケットシーだね」

「珍しいな。ミズキ、あの鳴き声はケットシーといって、この付近でも強い方に分類される猫の化け物が巨大化する時の声だ。何かと戦っているんだろうな。ちょっと見に行ってみるか?」

「大丈夫なんですか?」

「一応僕やパイナなら戦っても負けはしないだろう。それにケットシーは無駄な狩りはしないんだ。見学するぐらいなら大丈夫」

「ならちょっと見てみたいですかね」

「決まり」


 俺達は街道から少し外れて鳴き声がした方へ進んでいく。すると体高3メートル程のデッカくて白い猫の化け物とケルベロスというコチラも体高3メートル程の三ツ首の犬が争っているのが見えた。

 見ている限り凄まじい攻防で、どちらが勝つかは一見して分からない。


「相手はケルベロスか。どっちが勝つだろうな?」

「まだあのケットシーは成長しきって無いしケルベロスじゃない?」


 ケットシーがフーッ!と猫が怒ってる時の声を出しながら、鋭い爪でケルベロスを何度も引っ掻き、ケルベロスがグルルルと言いながら2つの首でケットシーに噛み付く。


 ケルベロスの噛み付きに参加していない真ん中の首が、

『貴様にこの縄張りは渡さん!』

 と、喋った。え?魔物も日本語喋るのこの世界。


『縄張りは求めていない。我が欲しいのは貴様の肉だ!』


 と、ケットシーも喋り出す。わー、カルチャーショックだわ。


『貴様に我輩を倒す事なぞ出来ぬわ!首が1つしか無い猫如きが!くらえ!ファイアブレス!』

『ふん、果たしてそれはどうか。我の方が魔力は上だ。ブリザード!』


 ケルベロスから3つの炎の塊が不規則な軌道でケットシーに襲いかかるが、ケットシーが放った氷雪の嵐がそれを飲み込み、ケルベロスの全身を覆い包んでいき、やがて全身が凍りつく。

 勝敗が決まったと思いきや、ワォォォーーン!という咆哮と共にケルベロスの全身を囲った氷を打ち破った。


『ぐ、が、く、くそう!今回は見逃してやる。次に会う時まで誰にも負けるなよ!貴様を倒すのはこの我輩だ!』


 と、なんか捨て台詞を吐いてケルベロスが凄いスピードで離脱していく。


「あのケットシー、魔力が凄いな。それに魔法を使う個体は珍しい」

「戦うと案外危ないかもね、さっきのブリザードを防ぐ手段ないし」

「えぇ?逃げなくて良いんですか?なんかこっち見てますけど」


 遠くからケットシーが2本の尻尾をユラユラとさせながらコチラを見つめている。


「襲ってくる様なら危ない魔物として倒さなきゃならないさ。だけどケットシーは割と温厚な妖魔だ。大丈夫だと思うよ」

「そうなんですね」

『そこの人間よ』

「わ、声かけて来ましたよ!?」


 一歩一歩とコチラに向かって近づいてくる。


「何か御用かな?」

『食べる物を分けては貰えないか?先程見ていた通り、肉を取り逃してしまってな』

「あー、僕は持ってないな。パイナやカッシュは持ってるか?」

「持ってないよ」

「すみません」

「あ、俺の携帯食をあげますよ…っても、これっぽっちじゃあ…」


 俺は鞄から携帯食…干し肉的な物を差し出した。ケットシーの尻尾がピーンとなる。何か可愛いな。


『我は小さくなれるが故、それで大丈夫だ。有難う、これで数日は飢えずに済む』

「どういたしまして」

『もしまた会う事が有れば何か力になる事を約束しよう』


 と、言い残し、ケットシーは干し肉を咥えて森のある方へ歩き去って行った。


「気に入られたなミズキ」

「ですかね?干し肉あげただけですけど」

「さて、このままボケッとしてると日が暮れてしまうし帰るか」

「だね」


 その後、街道上に現れる魔物達を屠りながら、夕方ごろに街に辿り着いた。

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