婚約破棄された令嬢は野獣辺境伯へ嫁ぐ!『連載版も始めました』
立て続けに婚約破棄物です。
頭を緩くして読んでいただけたら幸いです。
皆様、婚約破棄ってご存知?
ふふ。私は身をもって今、まさに、体験しております。
十歳の時に王太子殿下と婚約し、この八年間の間ずっと妃教育に励んできた私です。
最初の頃は何で好きでもない相手の為にこんなにも苦労しなければならないのかと思っていましたが、両親の国の為という言葉に胸打たれてこれまで頑張ってまいりました。
ですが、そんな私に殿下はおっしゃったのです。
「ヴィオレッタ嬢。今日をもって貴方との婚約を破棄する! お前のような女とは、結婚などしたくないわ! 貴様はこのニーナに、様々な嫌がらせをしてきたようだな。昨日は昼食後に池にニーナを突き飛ばしただろう!」
その言葉を聞いた瞬間、私は全身の血が沸騰する勢いで怒りを感じました。
婚約破棄自体が嫌だったわけではありません。相手に恋情など抱いたことはありませんし、妃という立場に執着があるわけではありませんでしたから。
では、何に怒っているかって?
私のこれまでの八年間、血と、汗と、涙で作られた八年間の苦労を今、一瞬で、この殿下は砕きやがったのです。
なんでも、横にへばり付いている麗しの乙女ニーナ様に私が嫌がらせをしたとかなんとか。
ほうほう。
私にそんな事に費やす時間があったと思っているのか。
朝から晩まで血反吐吐いてきた私をお前ら知ってんのか?
なので、思いきり言い返して差し上げました。
「はて、昼食後? その時間私はダンスレッスンをしておりましたが。」
すると、許可も得ていないニーナ嬢がおびえた様子で口を開きます。
「いや、帰りだったかも。」
「帰りはすぐに家の馬車に乗って王城へ向かい、妃教育でございますが。」
「あ、次の日の朝だったかな?」
「アンナ。私の一日のスケジュールを朗読して頂戴。」
「かしこまりました。」
濡れ衣を着せられては腹立たしいので、メイドのアンナに命じて朗読してもらいます。
「四時に起床、準備を済まされ、朝の勉強、マナー講習、その後朝食をすませ、登園、授業を済ませられましてから、王城にて妃教育、ダンスレッスン、外交についての勉強、その後夜九時に帰宅、食事、湯あみを済ませ、十二時までの間で授業の復習と、今日学んだことの復讐、次の日の予習、就寝でございます。」
「日によっては、ピアノのレッスンや、他の国のマナー講習などもありますが、おおよそはそのようなところです。」
「ええい!黙れ!お前が嫌がらせをしていたことは明らか!故に私はお前との婚約は破棄し、そして、お前には慈悲として新しい婚約者を選定してやる。」
「ほう?」
一体誰を選んだのか。
そもそもで言えば殿下にそれを決める権利はないのだが、これだけの場で口にしてしまえば、王家もうやむやには出来ないだろう。
両親には申し訳ないが、私はもうこの殿下を見限った。
国の為と思ってきたが、国の為に自分を犠牲にした八年をこの男は砕きやがったのだ。っは! もうお前など知らぬわ! こっちから婚約など願いさげじゃ!と内心で毒づく。
ニーナとかいう女の顔がこちらにだけわかるように、にやーっと歪んでいく。
あぁ、腹黒いこんな女に負けただなんて腹立たしい。
今だけだぞニーナとやら。今は笑って居られるだろうが、恐らくお前に未来はない。
「あぁ、ちょうど辺境伯が結婚相手を探していたな。」
あたかも今思いついたかのように言った殿下の言葉に、会場にいた皆が息を飲んだ事に気が付く。
「貴様には、辺境伯に嫁ぐことを命じる。」
え、何ですって。
辺境伯って、あの、辺境伯?
ひそひそとした声が会場に響き渡る。
「辺境伯と言えばあの醜い顔の?」
「野獣のような人だとか。」
「なんと、ヴィオレッタ様、おいたわしや。」
嘆く声が会場に響く。
ですが、その反応とは裏腹に私のテンションは上がって行きます。
まぁまぁまぁまぁまぁ! 殿下! ぐっじょーぶ! 何という事でしょうか。あの辺境伯!
辺境伯と言えば、南の国境を守り抜く鬼神のごとき男である。
その外見は、熊や鬼に例えられることが多く、顔には戦いで負った傷が刻まれている。
一度だけその姿を拝見したことのあるヴィオレッタは、その姿を一目見て胸がきゅんとしたのを覚えている。
一睨みで人を射殺しそうな程の眼光の鋭さ、強靭な肉体。
はぅっ。
殿下のようにひょろひょろではなく、その体は美しき筋肉によって形成されている。
おっと危ない。よだれが出てくるところであった。
今は平常心だ。
今、私が喜んでいるとばれてしまえば結婚の話が流れてしまうかもしれない。
アンナと視線を合わせ、頷きあうと、殿下のこの茶番に乗ってあげることに決めた。
本当は、嘘八百を論破することは可能であるが、それよりも辺境伯の嫁という地位を得たい。
私が黙っている事を良い事に、殿下は私のありもしない罪をペラペラしゃべり、そして今までの鬱憤を晴らすように私の嫌いなところをつらつらとおっしゃった。
まぁ、嫌われているとは思っていたが、こんなに嫌われていたのかと少しばかり驚いたが、恐らくあのニーナとかいう女に何か色々と吹き込まれたのだろう。
哀れだが、もう私には関係ない。
殿下が婚約破棄に浮かれて高笑いしていた時であった。
恐らく国王陛下や王妃様にこの事態が報告されたのであろう。本日はお見えになる予定ではなかったお二方が青ざめた顔で現れ、そしてその場はその名をもってお開きとなった。
緘口令が敷かれたが、その程度で収まる事態ではないだろう。
私はにやりと笑った。
その後、国王陛下と王妃様からは謝罪され、殿下は反省の為一時幽閉されている。ニーナとかいう令嬢の所在は聞かないでおいた。まぁ、幸せになれないことは確かだ。
私はにっこりとした笑顔でその謝罪を受け入れ、そして言った。
「皆の前で発表されてしまいましたから、仕方ありませんわ。私は辺境伯へ嫁ぎます。」
この国には、殿下しか今の所王位を継承できる者がいない。だからこそ、廃嫡するわけにはいかず、殿下の再教育という事で事態を収める手筈となった。
私の両親は内心は恐ろしいほどに怒りで震えていたが、国王陛下や王妃様には忠誠を誓っている身。殿下の再教育には力を入れると恐ろしい顔で言っていた。
まぁ、辺境伯は確かにお嫁様を探していたし、南の国境へは国とのつながりの深い娘、つまり国王陛下の妹君を母に持つ私のような公爵令嬢が嫁げば国としては万々歳なのである。
そして私の両親は、私の好みを知っている。
なので、おそらくだが、娘の為を思えば殿下の婚約者に戻るよりは辺境伯の所へと嫁いだ方が幸せになれると判断したのだろう。それについては何も言わなかった。
まぁ、辺境伯に嫁ぐことも、国の為になるしね。
そんなこんなで、私は、晴れて、婚約破棄されて辺境伯の所へと嫁ぐこととなった。
私がルンルン気分で辺境伯の元へと向かったなど、恐らく、私の両親くらいにしか気づかれていないだろう。
南の砦に知らせが走り、辺境伯であるバッセン・ガローリエは呻き声を上げた。
「妖精姫とも名高いヴィオレッタ嬢が、俺の嫁に来るだと?!」
辺境伯の執事やメイドらは歓喜の声を上げたが、バッセンは自らが受け入れてもらえるわけがないと頭を抱えるのであった。
最近短編を上げるのにはまっています。
よろしければ他の短編も読んでいただけると嬉しいです。
評価やブクマ、感想を頂けるとモチベーションがあがりますので、よろしくお願いします。