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Action.07 敵性存在〈ヴォイド〉

『次回!! Ride on!マスカレイダートライ!!――――』


「ふんふふん♪ ふんふふーんっ♪」


 テレビの画面にはアップテンポなOPテーマのインストに合わせて次回の見どころが映像とテロップで次々と流れていく。

 いやぁ今週も満足度高かったなー。


 マスカレイダーといえば日本を代表するヒーローといっても過言ではない特撮シリーズの一つ。私が生まれた時からずっと日曜朝の顔を努めている大御所で、シリーズ毎に世界観は違っているけど仮面(マスク)を被ったヒーローというビジュアルは統一されている。

 なので当然『トライ』ってタイトルも三作目って意味ではなく、今回のマスカレイダーは主人公と呼べるレイダーが三人居る事、また作品のテーマが『挑戦』である事がタイトルの由来だ。



 ――――今作のキャッチコピーは『挑戦(トライ)し続ける限りは無敵!!』――――



 シリーズ一番の特徴はやっぱりマシンかな。基本的にはバイクが多いけど、シリーズごとにみんな専用のマシンを所持している事がほとんどで、仮面のヒーローがマシンに(またが)った姿が番組の顔として親しまれている。


「――って感じなんだけどさ、流石に終盤になってくると同時変身も様になるよねー。序盤の方はさぁ、一緒に変身ポーズ決める所もやっぱりなんだかズレがあったのにさっ、今じゃもう三人共息ぴったりだもん!」

《――――そうなのですか》


 机の上に置いたベルに熱く語りかけるもその反応は薄い。

 う〜ん、しょうがないか。もう三十話も超えてるし、ここから興味を持ってもらうのは難しいよね。


 ――――今度一話から視聴会でも提案してみようかなぁ、この先の戦いでも役に立つと思うし……多分。


《ではそろそろ始めてもよろしいでしょうか》

「あ、うん。ごめんね? 付き合わせちゃって。でもちょっと待って! メモ取ってくる!」


 そう、これからの戦いについて。

 今私と世界が置かれている状況は分からない事だらけ、ギアの扱いみたく、すっと頭に入ってくれればありがたいんだけど……接続(リンク)でまとめて脳に情報を入れちゃうのも、あんまりよろしくないらしくて、最低限にしておいた方がいいみたい。

 今週のヒーロータイムも観終わってスッキリした事だし、本題に入ろう。


  メモに知りたい事を大まかに書いて、昨日聞いたベルの事を少しだけあらかじめ書き記した。


《ではまず、沙月の言う怪物、そしてこの世界に起きている異常についてお話します》

「うん、オッケー。お願いします」


 ベルの方から話し始める。あ、その疑問は私が昨日したやつだ。


《『世界』とはこの地球のみならず、広がる宇宙全てを含めた空間を表したものであると考えて下さい》

「……うん」


 いきなり想像を超えたスケール。

 正直まだ信じがたいけど、昨日の事を思えばあり得ないとは言えない。

 ひとまずベルの言う事は全部事実として受け取って聞こうと思う。


《世界とは、今沙月が居るもの一つではありません。その規模は千差万別ですが、世界とは無数に存在するのです》


 昨日出てきた『異界』っていうのはその、他の世界の事……かな。


《世界同士が接触する事はなく、完全に独立した状態であり影響を与えあう事は基本的にはありません》


 ここまで聞けば、少しは察しが付く事もある。


「あの黒い怪物は私達とは別の……異界から来てるんだよね?」

《その通りです。()の者どもは世界の外より来たるもの。虚ろなる闇そのもの》



《ヴォイド、それが侵略者の総称となります。空虚、虚無を意味します》



  ヴォイド。



 それがあの怪物――――私の敵の名前。


「襲われた人はどうなっちゃうの」

《ヴォイドは知的生命体――つまりは人の抱く絶望を起点として、その精神を喰らいます。被害者は気力を失っていき、最終的には生命活動をも維持出来なくなります》

「え、と……死んじゃうって事?」

《はい。人が当然に持ち合わせている生きようとする無意識。それを奪われた肉体は徐々に衰弱してゆき、その身は死に至ります》

「そんな……」


 じゃああの時、もしベルが起きてくれなかったら……私達みんな生きる気力を奪われて、廃人みたいになったまま死んでいったって事?



 ――――病院の一室にずらりと並べられたベッドの上。

 焦点の合わない、虚ろな目をした人が力無く()せっている。弱りきった大勢の人達、その中には私や文香の姿もあって――――。



 ぶんぶんと頭を横に振って嫌な妄想を振り払う。

 そうだ、実際にはベルが起動して私は戦う力を手に入れた。今浮かんだ最悪の予想の通りにはならなかった、そしてこれからは――――。


「そんな事、私が絶対させないんだから!」


 自分を奮い立たせるように宣言する。

 昨日だってなんとか勝てたんだし、次はもっと上手く出来るはず!


「ヴォイドはまた襲って来るんだよね?」

 《ほぼ、間違い無いとみてよろしいかと。しかし今回の侵略には不可解な点がありました》

「不可解?」


 一拍、間を空けてからベルは答える。


《『深きものども(ディープワンズ)』が単体で現れた点です。ヴォイドの尖兵(せんぺい)である彼等の総数は不明、されど無数である事は確実です》


 無数…… あの怪物が?


 背筋にゾクリと寒気が走る。

 あれはほんの氷山の一角……ううん、そんな言葉じゃ足りないくらいの敵の大きさに、気付けば冷や汗が(ひたい)の端を流れていた。


《――故に不可解。ですが戦闘中に収集した情報(データ)から、私は一つの仮説を立てました》


 戦闘中――そういえば、私が装甲(ギア)を装着してから、ベルはしばらく何も言ってくれなくなったっけ。

 あの時に色々調べてくれてた……みたいな事も、確か聞いた気がする。  


《本来、ヴォイドは侵略の際『深淵の牙』と呼ばれる(ゲート)を構築します》

「牙? ……噛みつかれちゃったら最後、みたいな?」

《由来としてはその通り、お見事です》

「えへへっ……」


 急に褒められるとちょっと照れてしまう。でもおかげで少しだけ、気分を持ち直す事が出来た。


《――その門を維持する為に必須とされるのが魔力(マナ)、例外無く全ての世界に存在する超自然エネルギー》


「マナだったら私も聞いた事あるよ。魔術とか使う時に要るやつでしょ」


 ――――正確に理解してた訳じゃないけど、大体この単語が出てくるヒーロー物は魔法使いか魔術師がセットで出てくるのがお決まりって印象だ。


《流石です、沙月。概ね解釈としては間違っていません。魔力の活用法は多岐(たき)に渡りますが、最も基本的な使用法はやはり魔術の行使になるでしょう》


 なんかすっごい褒めてくれる! ……もしかしたらさっきちょっと沈んでた事、見抜かれちゃってたのかな。

 それにしても魔力って言うと、なんだかすごく便利でキラキラしたものに感じるけど……。


《魔力はまさしく空気の様に、世界に満ちています。そしてヴォイドが牙を突き立てる世界の肉体とも言うべきもの。彼等は侵略した世界の魔力に干渉する事で、盤石な門を形成するのです》


 侵略者にとってもまた便利なものって事になるんだ。


《前置きが長くなってしまいましたが、深き者どもが単体で現れた理由――――それはこの世界の魔力(マナ)が、他の世界に比べて非常に稀薄(きはく)である為だと思われます。門を固定出来ない程に》

「え、マナが少ないって事?……それってこの世界は大丈夫なの?」


 どうりでこの世界には魔法使いなんて居ない訳だと納得する部分もあるけど、同時に一つの不安が頭に浮かぶ。


 ベルも超自然エネルギーって呼んでたけど、私が知る限りの作品では魔力の枯渇や減少っていうと、それ自体が世界崩壊の危機! なんてイメージがある。


《少ない、とは正確ではありません。この世界は()()、が正しいかと。この世界の広大さは他に類を見ません、加えて未だに広がりを続けています》


 そういえば、宇宙は今でも膨張してるってテレビか何かで聴いたっけ。


《結果として世界に満ちる魔力(マナ)も拡散してゆき、この状況が出来たのだと推測します。であるならばこの環境は世界自体が選んだ在り方、問題は無いでしょう》

「なるほどねー」


 ちょっと安心。


《ですが安心は出来ません、完全にヴォイドの侵入を防ぐ事は出来なかったのですから》


 ……まるで釘を刺す様なタイミング。


《だからこそ世界は一つの防衛反応を示しました。不完全ながらも開いた門、その地の次元を僅かに歪め、人の存在しない空間を作り出したのです》


 うぅん?……いよいよ付いて行けなくなって来たかも……。

 世界の中に次元があって、それをずらすとほんの少し、私の立っているものとは違う、誰も居ない次元になる……?


《侵攻地点から一時的に人間を避難させた。そのようなものだと思って頂ければ結構です》


 ……そんなものなんだね。とにかく、世界は自身と私達を守ろうとしてくれていたんだ。



 それがあの人と音の無い空間の正体。


 不気味とか怖いとか思っちゃった事、ちょっと申し訳なかったかも。


 ……そして一時的にって事は、逃げていれば解決するって話は無い。むしろ早く倒さなきゃ、ヴォイドはその時こそ今の次元に現れる――ベルはそう言ってるんだ。



「――でも、じゃあ私達は? バスに乗っていた人達とマサル君はなんであの空間に残ったの?」


 今の話を聞いて思い出した事を口に出す。


《ヴォイドによる侵略はこの世界にとっても想定外(イレギュラー)であった事は確実です。全てが上手くはいかなかった――申し訳ありません。今の情報では、それ以上の事は何も》

「そっか……でも、別に謝まる事じゃないから気にしないで」


(ただ)し、スヴェルギアの力を持つ沙月なら、次に次元の歪みが発生した時にも確実にその次元行く事が出来るでしょう》

「そっか」


 だったら充分! 原理はわからないけど、ベルを信じるならそれは大した問題じゃない。


 そもそも頼る事が出来るのはベルだけなんだから、謝まられちゃうとこっちが困る。戦えすらしなかったし、魔力や世界がどうだかなんて想像もしなかった。

 ――いや、今でも正直……実感が湧かない所ではあるんだけど。

 それは経験していくしかないよね。


 敵について、今の世界について。

 気になる所は概ね聞けたかな? 後は……。


「ベルはさ、どこから来たの?」


 説明の節々に感じた違和感。説明の妨げになるかもって、突っ込みはしなかったけど。


 ――世界とは、一つではありません……――

 ――ヴォイド、それが侵略者の総称……――

 ――侵略の際、深淵の牙と呼ばれる……――


 ベルの使う言い回しは、まるで別の世界がどんなものか、ヴォイドと呼んだ()()を知っているような、そんな風に聞こえる。

 そんな言い方をするベルは、多分……。


《起動時の記録(ストレージ)によれば、私はこの世界とは別の世界で造られました》


 やっぱり、これだけ色々知ってるんだもん。むしろそれは腑に落ちる。


《魔導科学を極め、遂には世界の外側を観測するに至った先進世界。外より来たりて人の心を喰らう、侵略者の存在すらも把握したその世界は私、対ヴォイド用の『魔装鎧形成装置』を開発しました》


 まそうがい……昨日、寝る前のお話しにも出てきた単語。


 スヴェルギアの形状的に多分、魔装鎧。

 魔力で作られた鎧を生み出す装置……だと思う。


 聞いた事無い言葉だけど、近しいタイトルの付けられ方をした特撮作品を知っていたお陰でピンときた。


 それよりもっ――――!


「それって、もしかしてベルの世界が私達の世界に送ってくれたって事!?」


 思わず大きな声が出てしまう。

 私達の世界の危機を察知して支援してくれている人達が居るとすれば、それはすごく心強い!

 ベルの話だと基本的に世界同士は干渉しないって事だったから、間接的な援護だけかもしれない。それでも――――!


《いいえ》



 昂ぶる私の考えを、(さえぎ)ったのは否定の言葉。

 ……気のせい? それは、いつにも増して無機質な()だと感じた。


《――――何故、この世界に行き着いたのかは不明です。確かな事は、私が造られた目的はあくまで創造主の世界を守ること。そしてそれは果たされなかったということです》

「――――え?」


《ヴォイドの侵攻が始まって十日目、楯の乙女(シールドメイデン)と呼ばれた私の前担い手(ホルダー)の胸部を貫く黒い腕と、赤く染まって飛び散る装甲、それが起動時に残されていた最後の記録(ストレージ)

「それ、じゃあ……ベルの元居た世界は……」


《私は対ヴォイド用の兵器、それが十日で破壊されました。開発されたギアは私だけではありませんが――――あの戦況を、覆せた可能性は極めて低いと推定(すいてい)します》


 その語り口は平坦で、なんの感情も篭っていないように聞こえる。

 ……そんな訳無い。まだたったの一日だけど、私から見たベルは、心の無いただの機能だとは全く思えなかった。

 だからこそ、なにも言えなくなってしまった。


 世界を守る為に造られて、戦って、守りきれなくて……そんなベルに私が掛けられる言葉って、一体なにがあるの?


 それに――――あぁ、本当に自分の弱さが嫌になる。

 だけど今の話を聞いた時、一つの考えがどうしようもなく浮かび上がる。


 ――――――負けたんだ。スヴェルギアを身に纏っていた人も、世界の外まで観る事が出来る力を持つ程に発達した人達も。


 たったの十日で、滅びを予想出来るくらい圧倒的に。


 私達の居る世界は、ヴォイドにとって攻め込み難いらしい。

 そんな僅かな希望など塗り潰すように……その事実はあまりにも、絶望的な結末だった。


「そ、それ……」


 自分が何を言うつもりなのか、私自身理解しないままに口が動く。その言葉が意味を持つ一言になる前に――――。


《沙月――――来ました》


 再びベルに遮られた。


「え?」



 瞬間。

 ――――――――――ドクンッ、と。



 まるで()()()()()()()()()息苦しさと圧迫感を覚えて――――。


《次元の歪みを確認、ヴォイドによる侵攻です》


 深淵の牙が、この世界を喰らい始めた事を理解した。


「――――っ!」


 そんな――こんなに早いなんてっ!


 心臓が浅く早く鳴り始めて――――。


《沙月――貴方は私を》

「――――ごめん、ベル」


 深く息を吸って自分の気持ちを整理する。

  昨日の出来事、それを全て思い返す。


 今さっき言いかけた事、やっと分かった気がする。


「私、今のベルになんて言ったらいいかわからない……()()()()、今は私と一緒に戦って欲しい」


 自分勝手な言い分かもしれない。ベルの境遇を知った今、この世界の為に戦う事を彼女が望んでいるのか……。


 それでももう、私が言いたい事だけ伝えよう。

 自分にヒーロー適性がない事なんてもう知ってる、昨日散々くよくよ悩んだから。


 ただ逃げないとも決めたんだ。

 ――挑戦を続ける限り、私は無敵と信じていたい。

 その気持ちを貫く為にも。


「私は、私の信じたものを守りたい。だから、あなたの力を貸して欲しい」


《――――無論です。沙月は私の担い手(ホルダー)ですから》


「――うんっ!」



 そうと決まれば早くっ……あっ!!


「場所はっ!?」


 この特撮脳(わたし)はヴォイドが全く違う所から攻めてくる可能性をすっかり忘れていた。

 だって大体、戦いの舞台って決まってるものだし……!


《昨日とほぼ同じ、門を作るには様々な条件があります。一つの世界に一つしか存在しません》

「はぁ〜、良かったぁ」


 聞きたい事は概ね全部聞けたかな? なんてひと段落ついていた自分を叩きたい!

 まだまだ全然足りてないじゃん!

 途中からメモ取ってないし……。


 よくよく見るとまだスカスカな書き取りメモを一目見て、私はベルを手に持ち部屋を飛び出した。



「――装甲展開(アームドリリース)! スヴェルギア、起動(アクション)ッ‼︎」

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