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花魄姫 4-2

とりあえず、花魄姫のお話は一旦ここまで

 たくさんの者たちと飯を食う。

 花魄姫にとって初めての経験である。

 そのせいか落ち着かない。

 借りてきた猫のように、俯いてそわそわしている。


「ねぇ、お姫様はちゃんと食べてる?」


 花魄姫の対面に座る広子が不安そうな顔で、お姫様の隣で伝言係を勤める薫に訊ねると、ビクッとお姫様の肩が震えた。

 おかしそうに苦笑した薫は、いいやと首を振ってからお姫様に訊ねる。


「食べたいものは?」

「・・・・それ」


 花魄姫は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、白い小さな指を唐揚げと卵焼きの入った箱を指す。

 よしきた。薫は箱の唐揚げと卵焼きをそれぞれ小皿に取ってやり、渡してやる。


「ほら」

「う、うむ」


 緊張した表情で頷き、受け取る。

 広子や薫、広子の隣でおにぎりを頬張っていた美咲に、その隣で座る、言い出しっぺの癖に食事を取ろうとしない山本五郎左衛門など、周囲の視線が集まる。

 特に、お姫様の姿が見えない広子が、一番熱が入っていた。見えないからこそ気になるのだろう。

 鬱陶しい視線に耐えつつ、花魄姫は卵焼きから先に口へ運んだ。


「んっ・・・・」


 咀嚼し、飲み込む。

 どんな感想を言ったか、どんな反応をしていたか気になる広子は、ねぇどうなのどうなのっと訴えるような視線を薫に送る。

 薫は苦笑しながら、訊ねた。


「味はどうだ?」

「・・・・そこそこ」

「しょっぱかった?」

「・・・・まあまあ」

「美味しくなかった?」

「・・・・ぜんぜん」


 赤い顔を隠すように下を向く。

 クククと声を出して笑い、薫は手を広げて広子に伝えた。


「美味しいってさ」

「本当っ?」


 薫は頷いて、自分も一つ卵焼きを口に入れた。結婚したいなぁと率直に思わせる味だ。


「ちょいちょい」


 山本五郎左衛門が指で呼んでくる。彼は立ち上がると、少し離れたところに移動する。

 怪訝な顔をして薫はついていく。残った二人とお姫様は食事に夢中で気づかなかった。


「何だ?」


 訊ねると、五郎左衛門は答える。


「いやはや、種明かしをば」

「種明かし?」

「左様。いやはやまさか、ここまで上手くいくとは」


 かかかと笑い、花魄姫や幼馴染み二人の方を向く。

 どこか、してやったりな態度に、怒りが積もっていた薫は苛立つ。


「広子がいなかったら殴ってるぞ」

「それは行幸」


 さらりと受け流し、


「実は、主であらさられる花魄姫は最も若い龍神であるゆえに、御友人がおられないので御座いまする。本来は魔縁の娘だけで十分だと多くの家臣が申しておられたが、某の判断で貴女方も連れてきたのでする」


 一気に、自身の思惑を告げてきた。

 突然のことに一瞬呆気に取られて反応が遅れた薫は、言葉に詰まりながらも言い返す。


「・・・・ゆっ、友人なんて下っぱの妖怪で良いんじゃないのか? わざわざ人間じゃなくても」

「某たち家臣は、御友人にはなりえない。身分とはそういうもの、特に我々の世界はそうできていのでする」


 身分という言葉は少し前にも聞いた。それは製花通りの一件での事で、たとえお互いが思い合っていても主従の壁は越えられなかった。

 実感はいまだに湧かないものの、苦々しい思いが拭えない言葉。薫は暗い顔を下に向ける。


「人間なら良いのか?」

「残念ながらそれが一番大変でござまするが、最も我らの掟に背かぬ方法なのです」

「・・・・広子を連れ去って、わざわざ巻物なんかに化けて指示した理由は?」

「最初から貴女と陰陽師の娘を伴えば姫は警戒される。あの方は人見知りで不必要に尊大振る面があらせられる。されどあの魔縁の娘は胆が据わり、縁を持つゆえに我々に好まれやすい。事実配下の天女が運びしときに、かの娘は突然の飛行にも動じず、天女から好意を得ておられる」


 御覧あれと五郎左衛門が三人の方に顔を向けた。

 広子と美咲、それと花魄姫の三人はスマホで自撮りをしている。お姫様の姿は見えないからおにぎりを持ってもらい、多分ここかなというイメージでパシャりと一枚。

 花魄姫は何をしているかわかっていないようで、おにぎりを持ったままキョロキョロしている。

 いきなり板からパシャりと音がして、驚いた彼女の肩が跳ねた。


「ぬぅっ、何だ今の音はっ?」

「ちゃんと撮れたかな?」

「どーかな~」


 スマホを持つ美咲が角度の調節に四苦八苦していると、薫と目が逢う。


「そうだ、薫いたじゃん! ちょっと来てよ、写真撮るからさ!」

「そうだね! 薫ちゃん来て来て!」


 幼馴染みたちに手招きされる。しめしめという妖怪の視線を背中に感じのが癪だ。

 なので少し意地悪く言ってやる。


「相手に迷惑かけまくって、本当に友情なんて結べるのか?」

「はい」


 五郎左衛門は迷いなく頷いた。人間を見下す傾向にある妖怪が、何故これほど核心を持って言えるのか不思議だった。

 薫は嘘があるかもしれないと、慎重に訊ねる。


「その、根拠は?」

「某は、とある事情から武士であった平太郎を三十日にかけて驚かせ続けましたが、平太郎はそんな某に友情を結んでくれたのでする。多少振り回しても人間はへこたれぬ故、花魄姫との友情を結ぶことは出来ると」


 勝手だなと思った。迷惑極まりない、けれど嘘はない。

 何か下心でもあるなら、今すぐにでも美咲に言って祓ってもらうのだが。

 人間の自分が人間ってそんなに良いのか、と思ってしまって、少し悔しさが湧く。


「だから本気で思ってるのか、おめでたいな妖怪って」


 負け惜しみにも似た、薫の憎まれ口に五郎左衛門が笑う。

 それと同時に、おーい早くーっと彼女を急かす声がする。 

 薫はやれやれと苦笑して、三人の元へ。


「薫ちゃんがスマホを持って、妖怪さんと一緒に」

「ぬっ、何じゃ今度はそこの娘か?」


 戸惑うことが多かったようで、少しお疲れ気味のお姫様を見ることが出来る薫は、苦笑してその手を取ると、見えない二人が驚く。


「あ、そこにいたの」

「あんまり無理をさせてやるなよ」

「え、妖怪さん嫌だったのかな?」

「いや広子、照れてるだけさ」

「なっ、なんだと人間っ。無礼であろうっ、このっこのっ」

「あたた、脛を蹴るなお姫様」

「ほらほら、早く撮ってよ薫」

「あーもう、わかったわかった」


 うるさい友人たちの相手に苦労しながら、その彼女等の方に向かってスマホを向けた。

お久し振りの方はお久し振りです。

こういう、長編的なお話はなかなか大変なのですが、今回はわりと上手くいったと思います。三人組ってあんまりないよなー、という安直な思い付きでやってみたら、自分的にかなりよく書けました。


まだ続きますので、応援よろしくお願いします!


感想や批評等ありましたら、是非ともよろしくお願いします!

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