花魄姫 2-1
三人が目を覚ますと、森の中に立っていた。
「あれ?」
「ここは?」
「どこ?」
辺りを見渡して、顔を合わせて首を傾げる。
山本五郎左衛の姿がない。
代わりに、三人の足元に赤い装丁の巻物が置いてあった。
「もしかして、これ」
美咲が拾うと、薫が訊ねる。
「知ってるのか?」
「多分、妖怪の道具だと思う」
「妖怪の道具?」
頷いて、恐る恐る巻物を開いた。
そこにはこう書かれていた。
「そのまま真っ直ぐお進みください」
と。
「真っ直ぐ?」
広子が前を向いた。
肌に苔が生えた木々、その間をぼんやりと漂っている霧。蛍のような光を放つ虫があちこちに飛んでいる。
「あ、虫除けやんないと」
広子がリュックから虫除けスプレーを取り出して、二人から先に吹き掛ける。
「サンキュ広子~」
「えへへ、今度は私に吹き掛けて」
「オッケー」
能天気にスプレーを吹き掛け合う。
その間に、美咲から受け取った巻物を凝視している。
開いた巻物を閉じて、また開く。
すると、中に書かれている文字が変化した。
「困ったことがあれば、この巻物を再度開けば文字が新しく書かれます。何度もご使用くださいませ」
なるほどと、薫は頷いた。
スプレーを終えた美咲が言う。
「それね、妖怪の伝言板なのよ。それがあれば私や広子にも見えるし、道にも迷わないと思う」
「ああ、けど山本五郎左衛門の姿がないのが気になる」
周囲を警戒しつつ、再度開くと巻物には、
「申し訳ありませぬ。手違いが起こりまして、このような場所にお連れしました」
と書かれているが、肝心なことが書かれていない。
何かあったのだろう。
「はぐれなければ、大丈夫だと信じたい」
「そだね。私とあんたがいれば、広子も・・・・って!」
さっきまで隣にいたはずの、広子の姿がない。そういえば声が聞こえなかった。
二人は血相を変えて周囲を見渡したが、
「どこだ広子!」
「広子ーー! どこ行ったのーー!」
大声を出しても反応がない。早くも後悔の念が頭をよぎる。
「くそっ、広子はどこに行った!」
薫が巻物を開くと、
「ここより東の方に向かわれました」
「ちっ」
「行こうよ薫!」
「ああ!」
二人は東に向かって駆け出した。