舞台裏2
こんの腐れ神が!
「おや、ずいぶんな言い種」
はん!
「何も言っておりません。それより、キャンサー家が傾くのは予知していらしたでしょう?何故そのような所に翔太を?」
「クックッ。確かに言ってはいないね。予知、というよりラプラスの魔に近いねえ」
さっさと答えろ。
「何故、翔太を?」
まじで邪魔だったんだけど。
「何故って、その方が空も1号君も自由に動けるじゃないか。だけど、貴族の方が幼い頃は安全だろう?いやあ。ちょうど良いタイミングだった。空も居たし」
神様の思う通りだったと。世界生誕3千年経ったし転生という新しい試み、とかも言って居たか。
「神様は今回空と1号君を送った以外に介入はしてないよ。公爵家が滅んだのも、その家に空が仕えていたのも偶然。転生を思い付いたのも最近だし、実行したのはちょうど3千年を少し過ぎた時だっただけの話」
神様は幸運だからな。神様にとっては偶然は必然だ。神様がそう思った時点で流れは決まる。どうしようも無さすぎてもう考える事も面倒だ。諦めるしかない。
「それで、自分はもう翔太を見なくても良いでしょうか?」
「つれないねえ。そもそも、没落した後もお嬢様が死ぬまで面倒はみる積もりだったんだろう?それと同じ。どうせ空にとっても300年はそう長くない。ちゃんとみるように。ああ。今の姿じゃなくても良い」
「……分かりました」
「それで、答えだけど、子はそれで助かる。母は諦めろ」
「……はい」
「……まあ、沢山の人の願いを聞いてきたからね。八つ当たり位は聞くさ」
元々反乱が起こるのは察知していた。
それが第四都市で、キャンサー家の全員が揃った時に起こるのも。でも、ちょうど良いかなとも思ったのは事実。
反乱はキャンサー家が失敗した事への強い反感や不満から。
キャンサー家もそれは知っていた。だけど、失敗はやり直せると思っていた。良くも悪くも貴族として、平民は書類上の数字にしか過ぎなかった。減っても次から増やして行こう、と。
自分も正直侮っていた。反乱なんてそう起きないはずだと。
けれどこの世界ではLv、スキルにより簡単に武力が手に入いる。簡単に力に訴えられる。
当然、貴族、統治者の必要性は誰もが知っている。その上で、自分達の上に立つからには優秀じゃなければ認めないと、傲慢にも排除する。
多分自分も、貴族が無能ならすげ替えるのには賛成だが。
ルーレシア様に置いて行かれた時は愕然とした。ヤウは進化している。戦闘向きでなくても戦力として数えて良いはずなのに。何故。これではルーレシア様、……と翔太様を逃がせない。慌てて旦那様を強請って連れて行かせる。
そして、謹慎。謹慎と言いつつ入れられたのは窓すらない頑丈な部屋。どうあっても巻き込まない積もりらしい。それともルーレシア様と一応翔太様だけを連れ去るつもりなのがバレているのか。ここに来てどこに連れて行かれるか分からないから。
ルーレシア様は貴族として弱かった。強くさせなかったのは自分。なら、貴族から逃がそうって思った。自分もこれ以上貴族をする必要もないし。一緒に逃げようと。
襲撃は素早かった。でも今日領都についた自分と違い、ルーレシア様達は多分知っていた。賊が家を包囲し始める頃には翔太様以外のキャンサー家の皆様は一つの部屋に集まっていた。
「ルーレシア様!」
「まあ。ヤウ」
最近の化粧や香水が濃いのは自信が無い事への現れ。でも今夜のルーレシア様はやつれては居るが、綺麗だった。もう社交は必要ないからだろうか、化粧はしていない。悟ったように静かな面持ち。凪いだ海を思わせる。その海に底は有るのかは分からなかった。
「大丈夫です。行きましょう」
「ふふふ。ヤウ。そうね、大丈夫。だからショータの事、お願いね。行ってらっしゃい」
「ルーレシア様も!」
貴族を止めるんでしょう?だからヤウが言う事を聞く必要ない。
「ねえ。ヤウ。私は最期まで貴族を止めないわ。結局の所、ヤウが側に居てくれる為には貴族を続けるしかないの」
「そんな事……!」
「ねえ。ヤウ。私はヤウに嫉妬した事は何度だって有るわ。だって、ヤウは私なんかよりも優秀で私が居なくたって何だって出来るでしょう?そんなヤウを私の側に留めておく為には唯一ヤウより優れたこの地位しか無かった」
「ルーレシア様は、私から離れて行くのに!ずるい!」
「ああ。嬉しいわ。ヤウがそんなにとり乱すなんて。私のヤウ」
ルーレシア様はみっともなく喚くヤウをうっとりと見つめる。ずるい。どうして、私、自分はこんなに。こんなに、何?
とにかくルーレシア様を離したくはない。ずるい。ルーレシア様ばかり、ずるい。そんな感情だけが沸き上がって。
パァンッ!
「ねえ。ヤウ。命令よ。ショータを、守って。私はショータにまで嫉妬した。私のヤウを取っていった。けれど、私だってショータは生きていて欲しいと思うわ。ショータが生きている限り私の命令は貴女を縛り付ける。ああ。素敵」
「……ハイ。ご命令、承りました」
……命令。……なら、仕方ない。
そして、部下を御せなかった罰らしいが、ご丁寧にも粗末だが頑丈な部屋に移されて居た。翔太様の部屋に侵入して結界を張る。一応魔導具って偽ったけどばれても良いや。ここでヤウは死ぬ。命令で縛られるのは嫌い。もうヤウのキャラクターは使わない。せめてルーレシア様と一緒に棄てよう。
翔太様は逃げる選択をなされた。賊は予想外だった。
賊が死んだ気配を感じてか、強い気配が追ってくる。
相対したのは神子。Lvは当然自分の足元にも及ばないが、進化している上【固有能力】が反則だった。
【貫通】
突き限定防御無視。『貫通』確率特大。
【耐性無視】
攻撃が各種耐性を無視して通る。
【攻撃増大】
攻撃、HPの削り幅が大きくなる。
【MP攻撃】
MP消費に比例して攻撃増大
あ~あ~あ~。
耐性無視はともかく、貫通と攻撃増大は単純に自分に効く。攻撃増大が2種類って意味不明。消費が無い変わりに常時少しの底上げと消費がある変わりに大幅底上げか。特にそのまま貫通に特化したそれは自分の【独立】の状態無効を貫くやつだ。
大体、異世界来るのに攻撃系ばっかり取ってどうするんだよ。生活は。この脳筋。
自分はむしろ生産系なんだけどなあ。
しかも、自分は対多向き、相手は対単向き。相性最悪だな。厄介な。
とりあえず、かわして、避けて、回避して。さっきはとっさに放り出したが、そのまま近付いて拾ったら逃げよう。って、え?
ぐ……。ミス。くそっ。だから嫌いなんだ。下手に動いて。
目の前には男。手の槍は真っ直ぐに自分の胸、やや左に。塞いで居るからか、思ったより血は出て居ない。が、抜かれる。やっぱりついた。初めての他者からの状態『貫通』『出血』。ああ。やっぱりずるい、固有能力、だ。




