予感。
「……!」
「……」
……
「っ!」
物音?悲鳴……襲撃!?
飛び起きて状況を確認しようと不用意に扉を開けようとする。
「ショータ様」
「わっ、むぐっ」
大声を上げかけて口を塞がれる。ヒヤッてしたけどこの声。
「夜分遅くに申し訳ありません。非常時ですので。現在キャンサー家は襲撃を受けており、劣勢です。戦いに巻き込まれればまだLvの低いショータ様では命は無いかと。今はこの部屋に隠蔽結界を張ってはおります」
「……!」
劣勢。命はない。俺、死ぬの?せっかく二回目なのに。まだ8年しかこの世界に生きてないのに。
「ショータ様!先ほども言いましたが、今この部屋に人の気配を隠す結界を張りました。発見されるまでの時間は稼げるはずです。敵は公爵家に不満を持つ平民。しかし幸か不幸か圧倒的に公爵家が劣勢なので敵は殺さない余裕が有るようです。おとなしくしている方が安全かと」
「捕まったら?」
その後でゆっくり殺されるかも。こんな時でも冷静なお姉様に比べてカタカタと震える自分が情けない。
壁越しに状況を見通すように空を見ていたお姉様は俺に目を向けないまま言う。
「一生軟禁か傀儡では?」
ゾッとした。
お姉様は俺が死なない方法のみを提示している。俺がどうなろうと生きていればそれで良いと。
それは俺が死にたくないって思ったから?
でも、それでも何の感情も浮かばない、ガラス玉の目で言い切った未来に俺という存在は無かった。
「やだ。……逃げよう!貴族じゃなくても良いから。私は、俺は……」
「かしこまりました」
……へ?
「良いの?」
「僭越ながら提案はさせていただきましたが、決めるのはショータ様では」
そうだよね。でも、大丈夫なのかな?
……あれ?
「……お母様達は?」
「……ルーレシア様方は、」
嫌な予感がした。お姉様が言いにくそうだったから。
「徹底抗戦を選択なさいました」
「へへっ。良い部屋だ。決起軍様々だぜ……ああ?」
時間切れ。
「へ?」
間抜けな声。お姉様の言葉と賊の侵入に頭が追いつかない。
「……何でもお持ち頂いて結構ですが、私達の事はどうか内密に」
決起軍とかいう敵。それに便乗し、人の居ない部屋を狙って盗みを働く者達のようだ。運が悪い。
「おやおやぁ?えらいべっぴんさんじゃねえか。首輪、お貴族様の物なら持って行って良いなあ。そこのガキは要らねえよ」
「……仕方ないか」
お姉様!
「おお?ガキがナイト気取りか?へへっ、反抗なんだから仕方ないよな。邪魔なんだ、よ!」
いきなり剣を振り上げた、のは見えた。その先を予測して目を瞑ったのを恐る恐る開く。……そこは、産まれてすぐに見たのと同じ。……赤。
ドサドサと重たく水気の有る物が落ちる音。不思議な事にそれ以外の音は無い。
「行きますよ。もう時間は有りません。早く!」
隠密関係なく窓から飛び降りる。お姉様が抱えてくれて衝撃はほとんど無く着地。そのまま、
「待て!」
「っ!」
「へえ」
行く手を阻む茶髪の男。こっちでは派手な色が多い中落ち着いた、前の時でも居そうな髪色。槍を持って居る。
「……ジョンを殺ったのはお前か」
ジョンって、さっきの?
「神子か……。厄介な」
神子って。召喚者!前の、地球の。話せば分かってくれるかも。
「ッチ。視たのか。だが、まあ。平民なんて何とも思わないお貴族様にはうんざりだ。ガキの方はまだ教育できるが、ジョンを殺したお前はダメだ。"黒猫"ぉ!」
黒猫って。進化したお姉様の称号。あの男も知ってたのか。……うげっ。
「申し訳ありません。そこでお待ちください!」
投げられた。男とお姉様が戦って居るが、お姉様はやりにくそうだ。
目まぐるしく動く。が、お姉様が体制を崩す。俺のせいだ。追い込まれて俺の近くまで後退したから。それを避ける為に。
すぐ近くだった。
男が止めをさす為にタメを作った。
俺は、一歩踏み出せた。
「おねぇ……!」
「ッチ」
「オラァ!」
尻餅をついた俺の目の前で、背中から銀色を生やしたお姉様は。
男に槍が抜かれるのにあわせて地面に落ちた。
「っふう。……痛」
「ふう、じゃねえ!"黒猫"殺ってどうすんだ!あの"黒猫"だぞ」
「だって、なあ。ジョンが殺られたんだ」
「ジョンが殺られたのは別の奴にだ!さっき貴族のガキの部屋で死体が見つかった。ジョニーだ」
「なんだと?ジョニーって破落戸のか?」
「ああ。また、火事場泥棒でもしようとしたか、剣を抜いた状態でだ。状況からいって返り討ちだな」
「あ~。それは、だが、貴族だ」
「この、脳筋が!"黒猫"は推定、暗部の重要人物だぞ!ああ、情報が。特にルーレシアを人質に取ればやりようが有ったのに」
「だって、~」
「~~」
他にも人が来たが、俺には目もくれない。どうせ貴族の子供が一人じゃ何も、足引っ張る事しか出来ないって。その通りだ。さっき、お姉様と男の間に間に合ってしまった俺は、またお姉様に捕まれて場所を入れ換えられた。お姉様、それだけ動けたならきっと避けられた。
俺のせいで。
お姉様だった物からは血が流れ続け、俺を囲むようにたまって……?血が、模様を描いて?
「……!」
「なに!魔法陣か!」
「よりによって血の魔法陣。暴走するぞ!消せ!」
「並みの魔力じゃ無理っす!血も足りません!」
「っく!総員退避!ガキは諦めろ!くそが!最期までぇ!」
「魔法陣、恐らく[転移]です!発動します!」
「嘘だろ!空間かよ!」
「……!」
俺はただただ呆然として、座りこんだまま動きもしなかった。そしたら魔法陣が強く光って、目も開けていられなくて、でも閉じるとまた、お姉様を幻視してしまうから。
やがて、視力が回復した時、俺は森の淵、荒野に居た。




