領都
「ルーレシア様!どうかお考え直しを」
「もう決めた事よ」
「しかし」
「黙りなさい。この子は領都で産み育てます。ショータももう8歳なのだから一度キャンサー家が治める都市は見ておくのも良いことでしょう」
「何故!私が付いて行ってはいけないのですか」
「貴女も休みが必要でしょう。ショータは一月もすれば帰すわ」
「休みなど」
「侍女が……!私の言うことが聞けないのですか」
「……かしこまりました」
なんだか、久しぶりに会ったお母様は言動も見た目もキツくなっていた。お母様は妊娠6ヶ月で安定期に入り領都で子供を産み育てるつもりらしい。
お母様とお姉様が喧嘩した。結局の所、お母様もお姉様も俺とよりも仲が良かったはずなのに。お姉様は普段からは考えられない位に声を荒げ必死な感じ、でもお母様は一度もヤウって名前を呼ばないし命令までした。
お母様の言っている事は真っ当だ。でも嫌な予感がするのはいつも冷静で正しいヤウが反対しているから?
俺もお母様と二人旅はちょっと気まずい。だって、会ったのは1月前の誕生日。その前は13月前の誕生日……はあ。でも最近はお姉様と居るのもなあ。どうしてこうなのか。
俺はお母様が嫌いだ。お姉様は憎らしい程に好き。
お母様はあんまり会わないからよく分からないけど、避けられてるから俺の事嫌いなんだろう。多分俺がお母様からお姉様を取ったと思ってるから。じゃあお母様の専属に戻せば良いのに嫌って言われるのが怖いから言い出せないんだ。
でも、お姉様はお母様の事しか考えてない。俺の専属侍女なのもお母様が言ったから。産まれる時は確かに俺を愛してくれたんだなって思う。あのお母様がお姉様を付けるなんて。でもやっぱり長年の友情にたった数年の母性は勝てなかったらしい。
お姉様が俺にかけるのは本当に庇護するようなただただ甘やかし守る優しさ。
お姉様がお母様にかけるのは守り、支えるようなもっと対等な優しさ。
そしてお母様もお姉様が自由に動けるように沢山の権限を認めている。
お母様が羨ましい。お姉様はきっと庇護が必要ないと思ったら俺から離れて行く。俺からお姉様に出来る事は無い。させてくれない。
お姉様が憎らしい。こんなに好きなのにきっと最後にはお母様を選ぶ。
「ショータ。もう少しで着きます。支度なさい」
「はい。お母様」
香水くさい。
初めて見た領都は大きかった。というか首都と同じ位?そして若干雑多な感じがした。
首都はそれ一つで魔導具であり、完璧に計画されて作られたらしいし、自然に大きくなっていくとこんな物か、という感じ。
お祖父様には会ったけど、曾お祖父様、その曾お祖父様の父、と会うのは初めてだった。お祖母様達は進化してないので寿命で死んでしまったんだ。
お父様は4週間後に来てお祖父様達とお話しして俺と帰るらしい。本当は当主のお父様は魔導国議会にも出席しないといけないのであんまり領都に帰れないんだって。
お祖父様達に可愛がられてキャンサー家の特色である魔工場に行ったりして、日はあっという間に過ぎて行った。
「……ねえ。ヤウ……は居ないんだった」
「どうかされましたか」
お父様にヴィルが居るように俺にも執事ができた。
「……貴方は、魔工場どう思った?」
「はい。キャンサー家の権威を示す素晴らしい施設かと」
「まあ、確かに。他にはない大規模な生産場だった。じゃなくてさ、雰囲気っていうか。あんまり歓迎されてない感じ?」
ここでも俺は……。
「そのような不敬が?どこの施設でしょう。監督者に言って、」
「……いや、気のせいか」
全部の工場で。活気も無かったような。思ったよりも人が少なかったから?地球と比べるから少なく感じた?
お父様が来た。
正直、ここ数日はつまらなかったんだよね。魔物狩りに連れて行ってもらった他はキャンサー家の歴史だなんだって。早く帰りたい。首都の方が魔導具も豊富で快適だし。あと数日で帰れる。
あ。ヤウも。
「旦那様の命令で侍女として付いて来ました」
うん。お父様に命令させて付いて来たんだ。
迎えたお母様の顔色が変わる。でも、青ざめて怒ってるよりは焦ってる?あっ。また、言い争ってお祖父様に怒られた。
「ヤウ。ルーレシアが一方的に食って掛かっているのは分かってるが落ち着きなさい。今日1日謹慎を命じる。君の主人は誰だ?休みとは言え実質首都待機命令を放棄して。頭を冷やしなさい」
「……はい。ルーレシア様、ショータ様、申し訳ございませんでした。お騒がせいたしました」
お姉様は悪くないのに。
「ショータ、今のヤウはお前の部下と言える。部下の失態はお前の責任でもある。仲が良い事は悪い事では無いが、諌める時はきちんとしなさい。それに、ヤウは冷静で信頼できる者だ。それがここまで暴走したのは主人が頼りない事の裏返しでもある。精進するように」
「……はい」
そっか。俺は頼りないのか。じゃあまだお姉様は甘やかしてくれる。
沢山、沢山の印は有った。俺は深く考えもしなかった。でも考えた所で俺に出来る事なんて無かった。だからせめて……




