舞台裏
うん。独り言の振りをして聞かせた甲斐が有った。
中身が14歳でも、赤子の体では睡眠時間も多く、上手く情報を渡すタイミングが掴めなかった。
しかし、翔太様は順調に普通の赤子より早いペースで成長している、ようにみえる。完璧な3歳児だ。
翔太様はたまに意味も無く泣く事が有る。中身……。いや、神様曰く、そもそもの魂の柔軟性がどうのこうので、やり直すために一度精神も幼くなるんだったか。
泣く声がどうしようもなく気にかかる……鬱陶しい、……。
ねえ、やめて。泣かないで。熱が顔の中心に集まってくる。目頭が……。
問題は大人の方。
まず、赤子に付きっきりなので外の情報が入らなくなって来た。侍女は所詮貴族令嬢の世間知らず、元々孤児だったりするメイドも情報の価値をいまいち分かって無い者が多い。ろくな噂も聞けない。様子だけでも見ようにも[遠視]は難易度が高過ぎて魔道具無しでは周囲の確認も疎かになるし魔力〈隠蔽〉も必要だし。
次、現在キャンサー家が危うい。だからこそ情報が欲しいのにっ。元々ルーレシア様は孤児院に居たし、翔太様は中身は一般市民。没落しようが逃げても良い。ヤウの処分にもちょうど良いし。
最後、ルーレシア様自身が危うい。出産後から不安定だったが、これまで悪意からの盾になっていたヤウが側から離れた。ただでさえ若干の疑心暗鬼になった所へ、慌ただしくなった家に帰らない旦那様。旦那様が忙しいのは分かるが、それでもルーレシア様は納得して居ないようだ。
今日もルーレシア様がやって来る。ヤウに会いに。
「ねえ。ヤウ。旦那様は何をなさっておいでなのかしら」
「……お茶を開かれては?噂を集めましょう?噂を集め、流し、操るのもルーレシア様の仕事です」
「……」
ルーレシア様は社交にすっかり怯えている。
正直言うと翔太様の専属になった以上ルーレシア様に構っている場合ではない。今もルーレシア様は翔太様の部屋で、ぼんやりしている。翔太様を見る事もせずつらつらとヤウに話しかける。
翔太様は気付いて居るかは知らないが、一生懸命に母の気を引こうとする様は、憐れだ。
「かーさま、ぉかーさま。これ、なーに。ねぇねぇ」
少し前から与えた絵本を持っては質問している。
「……」
「きゃははは、かーさまぁ」
頭を撫でられ笑い声を上げる幼子。しかしその小さな頭におかれた手の持ち主の視線は幼子を向いてはいない。
経歴故か、撫でられ、ただそこに求めた母親が居るからこそ笑うのか。ただただ空虚な光景が、……ここ数週続いていた。
仕方ない。前にその存在すら居なかった翔太は母をどうしようもなく求めている。が、正直見ていて不愉快だし時間の無駄なので他に目を向けさせよう。
愛情なんて求めた所で手に入る訳が無い。持ってる奴は始めから手に入れようだなんて考えても無い。要するに愛情なんて他人に見る幻だ。他人の幸運が羨ましいから見る夢に過ぎない。
さて、……ガタンッ!
「……ヤウ?……キャアァァァ!」
「ヤ、ヤウさん?ヤウ!……おねーちゃん!起きて!何で寝るの!ねえってば!」
「どうされましたか!」
既にヤウの設定でも67歳となっている。大分早いが、元々ヤウの優秀さは知られて居た。Lv100を超えてもおかしくはない。
そして、進化の際どうしても気絶するのは決まっている。一応神様曰く周囲に脅威が無い時、もしくはたまたま脅威が気付かない時に気絶するので進化の時に死亡するっていうのはまずあり得ないらしい。
神様とはたまに夢で会う。直接も見ているが、ヤウ視点でも転生者について報告を聞く為だ。報告の報酬は神様の解答一つ。世界の答えが直接知れる。が、内容は自分が一度でも不満に思った事や疑問のどれか。
まあ、短い間とは言えヤウが気絶、進化。一時期にも気はそれるだろう。特に目が覚めるまではヤウのステータスも見えないし原因不明。慌てふためいて居るので進化の分かりやすい特徴をだす。
設定ではヤウは隠密より進化するなら闘人種、環境より黒猫とか呼ばれてたのでその特徴を持つ混人辺りか。混人なら自分も魔物化出来る。猫……ネコ。
猫又かなぁ。
尻尾が2本有って、角が生えてる。角が鬼の角で2本の尻尾が特徴。鬼系と獣系の混ざりもの。因みにただの角が生えた尻尾も一本しかない猫は獣系、化猫という。
という訳で、生やす。
「ヤウ……貴女……」
「うえぇぇぇ。おねーちゃんに猫耳と角と尻尾が生えた~!うわあぁぁぁん」
「これはめでたいですね。ヤウ嬢が進化なされたぞ~!」
「「おお!」」
うるせえ。ぐっ。気絶している振りとは言え触るな!
「ベッドにお運びします。誰か代わりの侍女を!」
「ヤウ、進化したのね。おめでとう……」
「うっえくっ。進化って、何?」
「……Lvが100を超えるとね、~」




