寂しい
お父さんに会えない。
お母さんはたまに来てくれる。よく分からないけど貴族だから赤ちゃんの世話は侍女任せなのかな。でも、全く会えない訳でも二度と会えない訳でも無い。
けど、お父さんには最初の三回しか会ってない。忙しいのかも。偉い貴族なんだったら仕事なんか部下に任せて会ってくれても良いのに。俺の事、どうでもいいのかな。
むしろ、専属侍女っていうヤウさんの方が家族みたい。赤ちゃんの俺が理解しているって知らないはずなのに、誰も見てなくても俺に丁寧でいろんな事を教えてくれる。
最初に自己紹介してくれた時だって、
「おはようございます、ショータ様。申し遅れました。私はショータ様の専属侍女を勤めさせていただきます。メシエ伯爵家次女のヤウと申します。これからよろしくお願いいたします」
って!侍女だって。俺の専属。メイドと何か違うのかは分からないけど、侍女。赤ちゃんの俺を有る意味対等に、接してくれる。赤ちゃん言葉なんか使わない。
そして、あまりに違和感が無さすぎてスルーしてたけど日本語だし、俺の名前は翔太だし。まるで小説みたいに都合が良い。分からない物は考えても仕方が無いのだけど。
そうそう。小説みたいといえばステータス。『未熟』って状態異常が付いていた時はビビったけど赤ちゃんならみんな付いているらしい。これもヤウが言ってた。
「〈観察〉……ステータスに異常はありませんね。5歳までは『未熟』も付いていますし、油断は出来ませんが」
ヤウの独り言?を拾って情報を集めて過ごす。けど、失敗した事が有った。
「……〈演技〉!?赤子がスキルを覚えるなんて……。いや、よく私達の真似をするからあり得ない事も……。もしかしたら〈演技〉の才能が有るのでしょうか」
ヤバい。
赤ちゃんの振りがスキルとして付いてしまったみたい。あり得ない事はないらしいけど、転生者だってバレたくない。普通の子を目指さないと。
夢で選んだ【固有能力】っていうのがあるんだけど、なんか転生したってバレないように神様が加護でそれだけ他人から見えなくしてあるらしい。どうせなら全部隠して欲しかった。ヤウさんは俺のステータス見る時に〈観察〉って言ってる。〈観察〉スキルを覚えれば他人のステータスも見えるのかな。だったら〈隠蔽〉スキルとか有るかもしれない。けど、〈隠蔽〉でも隠しきれなかったらまた変に思われるかも。
俺は今この環境を捨てたくない。お父さんに会えないし、お母さんも毎日会える訳じゃないけど前よりは愛情って物を感じている……多分。
やっぱり、下手に行動しないで普通に……普通に。あ。〈演技〉レベル2になっちゃった。
「今日は大人しいですね。〈観察〉……〈演技2〉ですか。まあ、スキルが有って困る事もありません」
ヤベッ。
「あー。うー」
とりあえず何も知らないよ。
「ご機嫌ですね。今の内に本を……」
珍しい。仕事に真面目なのに俺から目を離すなんて。
「ぶー」
いつもは、ずっと一緒過ぎて見張られてる感覚も有ったけどこうなるとこっち向いて欲しくなる。……不満を上げても効果無し。……泣いちゃうよ?
何か言ってる?
「ぶつぶつ……話し始めるのが生後10ヶ月位、歩き始めるのが、~」
育児本だ!普通の赤ちゃんがどんなのか聞いとかないと。
「……しかし、ショータ様はすでにLv2なので話すのはともかく歩き回るのは早いかもしれません。もう6ヶ月ですし、クッションの導入を……」
成る程。そうなるのが普通なのか。
本で勉強までして、ヤウさんは本当に凄いなー。見た目は18歳位なのに。
俺のお母さん。ルーレシア様って言うんだっけ。お母さんもそういう事してくれてるのかな。でも、貴族様だし……。
養護施設の子達の気持ちがちょっと分かった。お母さんが居るから、期待してしまうんだ。前の俺みたいに始めから居ない物だと思ってた方が楽かな。
どうしてずっと一緒に居てくれないの?
俺の事嫌いなの?
前はもっと単純だったのに。ただただ寂しいだけだったのに。
俺の事好き?
俺の事愛してる?
俺は望まれて産まれて来たの?本当に?
俺は誰よりもお母さんに、家族に愛されたいと願って居る。家族を知りたいと思っている。
ぐすっ。まだ6ヶ月しか経って無いのに。自分で動けないのが余計な事を考えさせる。自分で動けないから確かめる事も出来ずに落ち込んでいく。
「ショータ様?大丈夫ですよ。大丈夫。……さっきお食事はされたし、原因は……」
お母さんじゃないけど、お父さんでもないけど、愛されてるって思ってしまうような優しい、優しい声が降る。大丈夫って。
「あー、あー!あーぁ……」
眠たくなって来た。ぶー。侍女の癖に。……喋れるようになったらお姉ちゃんって呼んでも良い、か、な……。




