めでたい
休暇一杯研究所で過ごし、ラサルハや仲良くなった研究者に惜しまれながらもキャンサー家に行く事に。
研究者達には半分素人意見を言ってもきちんと聞いてくれるし、分からなければ説明もしてくれた。……天国か。
難点と言えば、魔女研究をする第7研究室の人に首輪魔道具が魔女作だとバレて追い回された事。実験台の奴隷の断末魔や悲鳴がたまにうるさい位。
「保護者君が迎えに来ているよ」
「保護者ですか……?」
「ヤウ嬢!」
「ああ。ヴィル様。きちんと明日からの業務は行いますが」
「そうじゃない!ヤウ嬢と連絡がとれなくて心配しました。ルーレシア様も不安になって居られましたよ。あのラサルハ様からたった一言今日までに帰るとだけ聞かされて」
「そうですか。ご迷惑おかけしました」
「……そうではありません……。帰りますよ。ラサルハ様、家のヤウがお世話になりました」
「そうかい。私もヤウ嬢とはとても素敵な時間を過ごせたよ。では、ヤウ嬢、良ければまた来ると良い」
「はい。ラサルハ様ありがとうございました。では、また」
よくわからないが、ヴィルはラサルハ様が嫌いなのか?ちゃんと研究所内での研究者やラサルハ様の評価は調べたが。
ラサルハ様は普通に好奇心旺盛な人だった。自分で研究をする訳ではないが、知らなかった事を知るのが好きなだけだ。その中でも特に新しい発見や誰も知らないような事が。
ラサルハ様は熱心に研究レポートを読む自分に向かって、知識を得るのが好きかい?似ているね。なんて言っていたが、私は手段として知識を求め、ラサルハ様は目的として知識を求めているように思う。
まあ、侍女は魔道具の知識など知る必要は無く、端からみては道楽でしかないのだろうけれど。
「……ヤウ嬢。連絡が取れずお伝えが遅れましたが、ルーレシア様がご懐妊です」
「……」
ついに来た。
「……ヤウ嬢?」
「……ああ。はい。おめでたい事ですね」
「……まだ1週しか経っておりませんがルーレシア様たっての希望で、産まれた子はヤウ嬢が専属として付く事になりそうです」
「分かりました」
状態として付くから、次の日には懐妊が分かる仕様。
『妊娠』人の身でおこす奇跡。
HPが削れる毎に堕胎判定。
また、各種耐性が最低値まで落ちる。
スキルが使えない。
等々の効果。人の身で奇跡をおこすのだからこのくらいの負荷がかかるのは当たり前らしいが、神様はどうにかならなかったのだろうか。
「ヤウ~!」
「はい。ルーレシア様。ご懐妊おめでとうございます」
「何で知ってるの!ありがとう。……ヤウ。お休みを上げたとは言え1ヶ月全く会えなくて寂しかったのよ」
「ラサルハ様の好意で部屋を用意していただきました」
「そう……。お休みを満喫出来たようで良かったわ。それでね、私達の子供が産まれたらヤウに専属で付いて貰おうと思うのよ。大切な大切な私の子、私が一番に信頼するヤウにお願いしたいわ」
「……私はルーレシア様の専属侍女のはずです」
「ねえ。お願い。確かに私の為に貴族なんかになってまで一緒に居てくれたのは、もう分かっているわ。ヤウ。ねえ。やーちゃん。お願い。やーちゃんが一番なのよ」
「……ルー。……ルーレシア様、かしこまりました。いえ、ご子息様に仕えられて光栄です」
茶番劇。別にルーに付いてきた訳じゃない。貴族の知識が欲しかっただけ。どうせ神様が言っていたからには産まれてくる子供、転生者の面倒をみるのも分かりきっていた事だ。
「ありがとう。……ヤウ」
「……では、今日はこれで」
「……そうね。今日はまだお休みよね。ヤウの私服もシンプルだけどその分ヤウ自身の魅力が映えて綺麗よ」
「ありがとうございます」
「おはようございます。ルーレシア様」
「おはよう。ヤウ。久しぶりだわ。……今朝のお茶はサダ茶ね。アクエリアス家の」
「はい。別名"瓶の幸運"と呼ばれるお茶です。由来は、」
「何代か前のアクエリアス家当主の時に近付いたスライムにお茶がこぼれて熱湯のダメージでスライムを退治したのよね。しかもそのスライムが結構高Lvの疫病撒く系の。でも、それお茶あんまり関係無いわよね」
「はい。実際は事実を元に話を大袈裟にし、お茶の知名度を上げるのに利用したのでしょう。時期的にもマザースライムが発生した頃ですし」
マザースライムはスライムが放置された末に子スライムを次々生み出すスライムだ。
「でも、あんまり美味しくないわ」
「アクエリアス家とは少なからず交流が有りますから。申し訳ありません」
「仕方ないわ。……クスクス。こうしてヤウとたわいもない話をするの、好きよ」
「……しかし、ルーレシア様もスライムをみたら決して触れてはいけませんよ。HPは低いですし、直接攻撃手段もありませんが触れるだけで病気や毒等を撒き散らします。その上、生ゴミが変化して産まれるので結界の内側でも発生しますし、無いとは思いますがメイドの掃除漏れで部屋に現れる事も有ります」
「もう、子供じゃないんだから分かっているわ。……妊婦だからって気にし過ぎよ。それに、子供に付く事になって一緒に居られなくなってもちゃんと出来るわ」
「そのようなつもりでは……」
「いいの。分かっているわ。この1ヶ月ヤウが居なくて思い知ったわ。普通の侍女はお茶を入れたり、服を選んだり。誉めたり肯定する事だけが仕事なのよ。ヤウみたいにスケジュールを管理したり、噂の事実確認をしたり、諌めたり。ヤウはとっても過保護なのね」
「……」
「その上で、私の子の専属になって欲しいと思っているの。私だってもう少し自分の事は自分でやろうと思ったし、ヤウには私のお世話だけじゃなくてもっと個人的なお話しも聞きたいし」
「……はい」
そして、ルーレシア様は1ヶ月前と同じようで、どこか母親を感じさせる笑顔で'働き過ぎ'だと言った。
「ねえ。ヤウ。お休みの間のお話しを聞かせてくれない?」




