仕事
おまけ
貴族の家に忍び込むのに1日目の夜。
何か、書類を持ってこいって言われたが、とりあえず片っ端から'コピー'。コピー魔道具は貰った。
魔道具は〈識字〉〈速記〉〈水属性〉を使った魔道具か。そう言えば、〈水属性〉は色のついた水も出せるんだったか。むしろ攻撃時は見えにくい方が良いので、無駄な効果だと思っていたが、こういう使い方も出来るか。魔力ペンのインクもこれだな。魔力を流すだけで使える。
っと。隠してある書類も。〈隠蔽〉されて居るが、分かる人から見れば目印だ。スキルや魔法を使わない機構の方が……。いや、不自然な空間は感知でも把握出来るか。無駄だな。
さすがに全部を一度には出来なかったので、明日も来ないと。
2日目の昼は、神殿に寄る。神様に文句を言おう。
「やあ」
「……ッチ」
「空?」
「はい。……何故神託を?」
「空が考えた通りだよ。神様は愛しき子に甘いから。普段は警告はないけど。罪も無い神子を手にかければ神様は空を指名手配しなければならないから」
「指名手配?」
「うん。全世界の信者に神託を」
「……。今回は何故呼んだのですか?」
「ああ。転生者を送ろうと思う」
「召喚に寄らない神子ですか?」
「惜しい。……赤子からの転生だ」
「!何故」
「最近世界に国が出来ただろう?」
「既に500年は経っていますが」
「それで、神子が自由に動きづらくなったんだ。元々神子の死亡率の高さも問題だったけれどね」
「それが、赤子からの転生に関係が?」
「言ったと思うけど、神子の魂はかたく柔軟性が無い。世界に適応しにくい。地球の価値観のままだ。だから赤子から魂を育てなおすことで柔軟性のある魂を作ろうってこと」
「?」
「……地球の人類を見限った。人の信仰から生まれたこの神が。それも有って、個人としての連続性を保ったまま新しい世界に産まれさせた。ここで止めては残り60億近い人が可哀想だろう?かといって、適応出来ない世界に放り出すのも憐れかと思ったんだ。最近。それで、少しでも適応出来るように……と」
「神様の力で柔軟性?は出せないのですか?」
「その結果がヴィル達だ。適応、色々受け入れ過ぎて貴族の駒に成り下がっている。そして、それを不満にも思わずそういう物だと思っている。地球の頃とどれだけ違うかも理解できずに」
「……。……自分は?結構変わったと思う」
「……本当に?まあ、暴走しているからある意味地球とは違うが。だが、空の本質は変わらないだろう?」
「!………ッ。……何故自分にこんな話を?」
「100年に一度の召喚は続ける。が、それと同時に赤子も送る。その実験だ……1号君を空にみてもらおうかと」
「ですが、今は」
「大丈夫。お嬢様の第一子、長男だ」
「しかし」
「ねえ。臆病な空」
「ッ!」
「ねえ。本当は認められたい空。だけど、否定されるのが嫌いな空。自意識過剰、他人はそんなに見ては居ないよ、って言われるのも嫌なんだよね。もっと見て欲しい。誉めて欲しい。でも批判されるのは辛い。無視されるのはもっと辛い。
本当は自分の命だってどうでもいい。だけど、殺されるのは誰かに空は邪魔だって言われるのと同義だから怖い。
好きな人からの拒絶も絶対にされたくない。だから空から離れるんだ。
魔女の時だって、実験なんかよりも自分が作った魔道具が望まれた、評価されたから。確かに喜ばれたから。
何時だって、空の本質は変わらない。変えられない。常に素晴らしいと思われたい、少しだって醜い所は見せたくない」
「あ……」
「だからね。空。全ての人から祈りを捧げられる存在である、神様が空に頼んでいるんだ。神様は空なら出来ると評価している。むしろやってくれないと失望してしまうかもしれない。それだけ、空に期待しているんだ」
「……は、い」
「ありがとう。本当に空は神様のお気に入りで、空が一番、何が起こっても対応出来ると思ったからね」
「……はい」
「転生者の詳細は〈記憶〉の方に直接送るから、後でちゃんと思い出しておいてね」
「……はい」
どこでもある白い空間。
本当は、空だってもっと柔軟に生きて欲しいんだけど。
精神が脆すぎて困った。新たに転生させるよって言っても一度死んで、なんて言った日には絶望しきってそれこそ魂が粉々に、なんてなりかねない。
空は、人から崇められる存在として神様に憧れを抱いちゃってるからなあ。憧れの存在からの存在否定。うん。ダメだ。
でもあのままでは、たとえ恋する人が現れても空は怖がって愛を育む間もなく離れるんだろうけど。まあ、空自体はそこまで信仰している訳じゃないし、神様が一方的にお気に入りしているだけだからいっか~。
2日目の夜。
どこかふわふわとした気持ちながらも、書類のコピー完了。ついでに、貴族の頭もお月様にしといてやろう。……よし。ピカピカ。
3日目。
昼の間に書類をざっと確認。整理。重要そうな所はささっと侵入してまたコピーしたり、様子をレポートに書いたり。
夜には、キャンサー公爵家に帰って来た。
ヴィルに報告する。
「ここまでとは……」
「……」
ん?
「ヤウ嬢、貴女は……いえ」
「ヴィル様は何故途中まで聞こうとするのに止めるのですか?」
「……私が聞くと〈話術〉も何も関係なく真実が聞こえてしまうのですよ。知らない方が幸せな事がこれ程多いとは知りませんでした」
「……」
「例えば、貴女が他人に向ける感情の中に真実はほとんど有りません。そんな事まで、分かってしまうのです。貴女は本当に人形かと思うほどにさめきっている……。貴女には人の心が分からないのでしょう。それは、なんと羨ましい……」




