神託
夜、忍び込む。当然、この家の人のステータスは確認済みだ。おかげで夜も大分更けた。早くしないと明け方になってしまう。
気配から起きては居る様だが関係ない。警備もすぐそばのアルタルフ様の部屋に意識が向いて居るし、万が一にも気づかれる事は無い。
……よし。
「……ッ!」
「!」
「……ヤウ嬢」
[無音結界]
「何で分かった」
「……おや。全く気付きませんでした。とても心臓がばくばくしています。……〈鉄面皮〉が良いとも限りませんね」
とても冷静そう。〈鉄面皮〉なら自分も持っているな。
「〈演技〉で操作すればいい」
「ええ。しかし、〈演技〉のレベルが足りないもので」
ああ。つい無駄に時間を使ってしまう。早く殺ろう。でも、どうして気付かないのに分かっていたのか聞かないと。
「ヤウ嬢。神託がくだりました。神託なんて私に来るとは思ってもいませんでしたよ。内容にはがっかりしましたが」
神があぁぁぁ!
……がっかり、したのか。そうだよね。元婚約者に殺されるなんて聞かされれば。
でも、どうして神様はわざわざ死の予告なんてしたのか。
「……内容は?」
「ええ。がっかりしました。せっかくの神託なのに内容が私ではなく、ヤウ嬢に関してなのですから」
自分に関して?
「……」
「貴女は神様の寵愛を受けた存在だったのですね。それで、この年でここまでのLvに成ったのですか」
神子ってバレた!?
……この年?
「……」
「いえ、寵愛を受けた以上に努力をしたのですね。神様はそれをきちんとご覧になっています。だからこそ貴女は神様に愛されたのでしょう」
そうだ。自分は努力をしてきた。当然だ。いくら優秀な固有能力が有っても何もしなければスキルは育たない。そういう世界だ。
……じゃない。何が言いたい?
「……」
「神託です。良く聞きなさい。"信心深き人よ夜が明ける前、そっと目を閉じなさい。その時思い浮かんだ人が訪ねます。その者に伝えなさい。信じなさい。神は見ています。愛しき子"……と」
つまり、本当に気付いた訳じゃなく【幸運】か神様によってか自分が来たタイミングと名前を呼んだタイミングが同じだったのか。
信じなさい。は、自分の真実を知ってしまうかもしれないヴィル
を信じろと。神が見ています。は、ヴィルが善人だから。絶対的に人と言う種の味方の神様は、悪人という人種にとって良くない人には結構容赦ない。特に加護を渡した神子の悪人には。
自分はこれまで、一応向こうから手を出すか、悪人しか殺した事は無い。今回初めて、まだ何もしていない、これから自分の隠し事を暴いてしまうかもしれない相手を殺そうとした。この神託は警告だろう。
愛しき子は、お気に入り。おかげでヴィルが勘違いをしているようだ。でも何故自分に直接神託がくだらなかったのか。
「……分かった」
「……ヤウ嬢。私は……いえ。改めて、婚約の事は申し訳ありません。私は貴女が人を信用していないと気付いていながらに裏切るような真似をしてしまいました」
「……いい。これは私の問題、です。ヴィル様は最初から最後まで誠実でした。こちらこそ夜分……早朝にすみません。失礼しました」
「……くす。貴女の素はそちらなのですね。既に100年以上が経ちますが、私は神子で貴族では有りませんでした。ぜひ、私的な場では素の話し方でお願いします」
「いえ。申し訳、ございませんでした。それでも今は高貴なるお方です」
「……そうですか。……では、ヤウ嬢。貴女に仕事をお願いします。このタイミングは都合が良い。アルタルフ様とルーレシア様のご結婚にあたり、少々おいたをする者が現れました。貴女の実力は少なくとも貴族子女の集まる学園でも大丈夫なのは真実です。ルーレシア様を狙った貴族家の~~」
「はい」
「では、お願いします。私から頼む仕事はアルタルフ様も知りません。嘘だとも真実だとも掴めないよう私は独断が許されています。証拠を残さない為にも契約書も書けません。手が足りないのです。貴女に関しては誰も信用しない真実が、逆に誰にも付かない事を示します。故に私は貴女を信用します」
「……」
仕事を断らないと確信して居るようなのがムカつく。
「何より、貴女はルーレシア様は好きでしょう?学園で行方不明になった令嬢。部屋に呪いの痕跡が有りました。ルーレシア様に向けた……。今回、この貴族は、」
「もう、いいです。ルーレシア様には適当に言い訳しておいてください。3日後、戻ってきます」
「……私が頼んだ仕事ですが、お気をつけて」
自分は、ヤウは侍女だから。主であるルーレシア様は守らないと。安定して貴族の近くに居られるのに都合が良いから。ヴィルの仕事も、仕方ない。ヴィルこそ誠実じゃないと【幸運】に見放されるから、まあ、裏切る可能性は低い。仮に裏切られたとしても何とでもなる。大丈夫。……大丈夫。




