魔神、異世界に行く! 《 Majin goes beyond universe.》
1・魔神、次元の狭間にたゆたう
吾輩は魔神である。
名前は……まぁ、いろいろあるが内緒だ。
諸兄には予断を与えたくないのでな。
さて。
その日、吾輩は次元の狭間をたゆたいながらながら、いつものように地球ウォッチングをしていた。
精神体を亜空間にだらりと拡げて、地球の、とくに日本の文化を享受していたのである。
地上波はもとよりBS、CS、AM、FMをリアルタイムで視聴しながら、なろうの作品に感想を書き、ツイッターのフォローチェックをし、2ちゃんではアラシをおちょくり、ニコ動でコメントを連打をする。
吾輩、暇を持て余しているゆえ、ルーティーンはたいがいこんなんだ。
まぁ、そんな感じでだらだらしていた、その時。
特殊な思念波のビームが、次元の壁を突き破って地球に向かっていることに気づいた。
これは!
と思った吾輩はとっさにそれをインターセプトした。
ビームを掴み、強引に固定する。
解析してみると、予想通りそれは異世界からの召喚術によるものであった。
同輩からの噂で知ってはいたが、実際に観測し捕捉できたのはこれが初めてである。
捕まえたビームをもてあそびながら、吾輩、考えた。
さてどうしよう。
……なんてな(てへぺろ)。
答えは最初から決まっている。
流行っているというか、もはや定番であるよな、異世界召喚モノ。
召喚ビームの逆探知……成功、同調……完了。
本来の被召喚者である彼氏(もしくは彼女)。
もし君が中二精神あふれる探求者だったとしたら、横取りしてすまんの。
異世界行きのチケットは吾輩が頂戴した。
というわけで、行ってきます。
2・魔神、異世界に降り立つ
はるばる来たぜ、異世界。
召喚ビームを逆にたどり、次元の壁をまたぎ越え、吾輩はとある地球型惑星に到着した。
とりあえず地表の召還地点に直接は出ず、上空一万kmあたりに出現してみる。
敵情視察は大事だ。
いや、相手は敵ではないが。
惑星全域をスキャンして観察。
……うむ、典型的な魔法世界のようだ。
地上では人族(仮称)とそれ以外の知的種族が覇を競っているのだが、いまや人族がそのほとんどを掌握していた。
人族以外の種族(仮称・魔族)は連合を組んで対抗しているのだが、人族の勢いに抗えず、衰退の一途を辿っている。
人族は繁殖力と魔術の運用で魔族を圧倒しており、正直、魔族の発展する余地は残されていない。
加えて人族に招かれた異世界人の知識チートも、彼らの覇道に一役かっている。
すでに魔力銃まで開発されているようで、魔族の前途は風前の灯火といえた。
しかしだなぁ、この者たちちょっと魔力の扱い方が荒すぎである。
このままだとこの世界、滅ぶぞ?
吾輩はしばし考えて、魔族側に付くことに決めた。
大雑把なシナリオを即興で書き上げる。
あれをこーして、これをあーして……、まあ、細かいところは臨機応変でいこう。
召喚地点には吾輩謹製の操り人形を送っておく。
しばらくはチュートリアル的状況だろうから、そのあいだは放置で。
と同時に、吾が輩も受肉して、お通夜ムードの魔王城に顕現した。
3・魔神、魔族を掌握する
「何者だ!?」
人族と魔族では、個々の能力は基本的に魔族のほうが高い(ピンキリではあるが)。
魔王が倒されて(まさにお通夜)、悲嘆にくれていたであろうに、吾輩が顕現した瞬間に戦闘態勢をとれる者がいるのは、流石である。
「我は魔神なり」
吾輩は厳かに告げて、ついでに殺気と威圧をこめた思念波を放出した。
誰何した魔族は腰の剣を抜こうとした格好のまま固まった。
他の者たちも、吾輩の威厳に当てられ動けずにいる。
「汝らを救済するために、我は顕現した。ひれ伏し我が一門へ下れ。さすれば汝らを救ってやろう」
厳かに宣言する吾輩。
我ながらノリノリである。
ほどなくして、魔王城に集結していたすべての魔族が平伏したのである。
4・魔神、改革する
吾輩は魔神である。
ゆえに人とはメンタリティが異なる。
とはいえ人が面白いと思うことの一部は、吾輩にとっても面白いと感じられる。
特に地球人の娯楽文化は我々魔神にとってはツボである。
そんな吾輩から見て、この異世界のこの惑星住民の文化はダメダメであった。
まあ、種の生存を賭けた戦争ばかりしているのだ。
文化とか娯楽とか言ってる余裕もなかろうが。
吾輩、しょんぼりである。
いっそこの手で滅ぼしてやろうか、などとは思わぬが(放っておいても滅ぶし)、荒療治が必要なのはたしかであろう。
吾輩はまず人族の天敵を作った。
この星の、いかなる生物とも似ても似つかぬ、異形の怪物どもである。
人族の生存圏にダンジョンを百箇所ほど建立し、この怪物どもを解き放つ。
ダンジョンから怪物どもが這いだし、人族を襲うようになると人々はその対応に追われ魔族を相手にするどころではなくなった。
「あれは、僕の世界を滅ぼした異界の怪物だ! まさか召還ルートを辿られたのか!?」
チュートリアル中に、チート無双して勇者の称号を得ていた操り人形にそう叫ばせてみた。
人族の上層部は詳しい話を訊いて、顔を青くしていたが、召還を行ったのは自分たちである。
吾輩、知らね(召還は計画的に)。
怪物どもは人族も魔族も等しく襲ったが、魔族だけこっそり魔王城に届けた。
何というか、もうこれ以上減ると種の存続もままならぬ者どもゆえに。
人族が怪物どもにかまけているまに、吾輩は魔族領を要塞化し、農地を開拓し、交通網を整え、上下水道を通し、街を作り、教育機関を発足させ、魔族たちに教育を受けさせた。
豊かになってゆく魔族たち。
戦って死ぬか、捕まって隷属させられるかの二択しかなかった彼らの表情に、若干の余裕が見えはじめた。
魔族たちがどのような娯楽文化を開化させてゆくのか、吾輩とても楽しみなのである。