魚と競走と男の子
これはスーパーの水産コーナーのバイトの話
初めてバイトした先を思い出したり想像しながら読んでみるのもいいかもしれませんね。
俺、山田拓巳はスーパーの水産コーナーでバイトしてる高校3年生だ。
水産コーナーの売り場に出るメンバーは俺とパートのおばさん2人と後は社員の人なので平均年齢出すと40近くになる。
それにバイトが一番最後まで残るからだいたい帰る時は誰もいない。
20分くらい一人で作業してる。
そんな日々だった。
俺は、1年の時から3年間ずっと陸上部だった。
だから、例え経験値で負けててもほかの所では負けたくなかった。
例えばお客さんへのあいさつだ。
俺は、先輩が引退した後、部長をしてたので指示を出すのには慣れてるし大声を出すのも苦じゃなかった。
ただ、このあいさつに関してはライバルがいた。
パートの植田さんだ。
植田さんは、水産コーナーのメンバーの中でも古参メンバーだった。
植田さんのあいさつは、いらっしゃいませだけでは終わらずに
「いらっしゃいませ~本日は〇〇がお買い得です」というセールスまでしているのだ。
俺も真似して言おうとした
「いらっしゃいませ!……」
いらっしゃいませまで言った時にその次のセールスが浮かばなかったのだ
結局、この日は言えなかった。
悔しかった。
そして、明日こそは言ってやると思ってその日はさっさと寝た。
次の日
学校があったので学校に行き授業を受けてバイトに向かった。
AOで合格していたので、俺は気楽だったが、クラスメイトは受験シーズン真っ只中で空気がピリピリしていた。
バイト開始
今日は、値引きの数が多いやつをセールスすると決めていた。
今日の値引きの数が、多い商品は二種類あった。
鰤と牡蠣だ
そしてパートの植田さんが、まずセールスをはじめた。
「いらっしゃいませ~本日は鰤がお安いですよ〜」
それに負けじと俺も牡蠣を勧めた。
「いらっしゃいませ~晩ご飯に牡蠣、牡蠣はいいがでしょうか?」
値引きをしていたのもあってブリもカキも売れた。
その日の最終結果は、引き分けだった。
ブリもカキもその日の分は売り切ったからだ。
でも、内心では負けだと思ってた。
何故なら、ブリは7時には売り切れていたのに対して
カキが売り切れたのは8時だったからだ。
だから、次のバイトの日俺は先制攻撃に出た。
前の時は、ブリの後にカキだったからスタートで出遅れていたと思ったのだ。
今日の売り切らないといけない商品は明太子と鯖だった
明太子はほっといても売れると思った俺は、サバを売り込んだ。
「いらっしゃいませ~!晩ご飯にサバ、サバはいかがでしょうか〜?」
サバの売り場に人が集まってきた。
このペースなら7時までには売り切れそうだ。
そう思って周りを見た時に、いつも競ってる相手が今日いない事に気がついた。
今日は植田さんが休みだという事に。
失念していた。
植田さんと俺が、全く同じシフトではない事を、
今日は、もう1人のパートさんの藤村さんの日だったという事を。
はっきり言って張り合いがなかった。
藤村さんは、どちらかと言うとサボるタイプの人だったからだ。
なので俺はほかの売り場に俺と張り合える人がいないか見てみた。
でもいなかった。
水産コーナーとレジ以外声がそんなに聞こえないのだ。
となるとライバルはレジの人達になるけど、レジと水産コーナーは結構距離があるのでほとんど聞こえない。
つまらなかった。
そして、恥ずかしくなってきた。
1人だけ売り場で大きな声出しているのだから……
そう思っていながらもいらっしゃいませ~!って言いながら値引きをしていた時幼い声が聞こえた。
「いらったいまて〜」
それは、男の子だった。
お母さんと一緒に買い物に来てたようだった。
俺は、その子に
「いらっしゃいませ~」
って微笑みながら言うと
にこ〜って笑ってくれた。
その笑顔がとても可愛かった。
その笑顔を見てから恥ずかしいとは思わなくなった。
周りがやらないなら自分が率先してやる。
そういう風にして統率力が低いながらも引っ張ってきたのはお前じゃ無いのかという事をあの笑顔に言われた気がした。
それからも植田さんの出勤日で俺のシフトと重なってる日は、
植田さんの方は思ってないかもしれないが俺は売り込みをいつも以上に頑張っていた。
あの笑顔をまた見たいという気持ちがバイト時のあいさつの気恥しさを取り除き
植田さんに負けたくない気持ちが俺の頑張りを後押ししてくれている。
このお話は創作というよりは私が見た事が近いですね。
私のバイト先の水産コーナーの男の子はレジまで聞こえる声で売り込みしていたのでその様子を妄想しながら書きました。
男の子の笑顔と部長をしていたというくだりが妄想で、売り込みの所はこんな事言ってた気がするレベルですが覚えている事です。