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『商品No.9。ゴリラの目覚め』    商品ランク★★

掲載日:2016/07/31

 気付いたらゴリラになっていた。

 起きた場所は冷たく固いコンクリートの部屋で明かりは、部屋に差し込む僅かな明かりのみでほの暗かった。

 部屋には正方形でねずみ色の一メートルほどの机が置いてあり、その机の上にメモが置いてあった。

『君は今日からゴリラだ。君はなぜゴリラになっているのか分からないと思う。だが、君がしたことは覚えているだろう。君は強盗をした。そして君は刑務所に送られた。その時、君は国による極秘実験の話をもちかけられたことを覚えているだろうか。君がした強盗でしばらく刑務所に入っていなければならないが、もしその極秘実験に参加して成果を収めると懲役が免除されるという話だ。もう思い出しただろうか。そうだ君はその実験の参加にサインをしたのだ。そして今がある。そう君のゴリラである。この実験は君がいかにゴリラとして人々を楽しませるかという実験だ。君がいるのは新設されたばかりの動物園だ。君がいるのはもちろんゴリラのコーナーだ。君は人々を楽しませ動物園のアンケートでゴリラが楽しかったと書かせなければならない。そのアンケートで10万人ゴリラが楽しかったと書かせれば実験は成功だ。君はゴリラのいる動物園から開放されて、懲役もそこで終わり、君は晴れて自由の身だ。だが、もしアンケートにあのゴリラ人間じゃないか? などと疑いのもたれた感想を書かれたらまた一からやりなおしだ。君が仮にその時点で99999件のゴリラ楽しかったアンケートを得ていて残一件だったとしても、またそれがゼロに戻り、君は再び10万件のゴリラ楽しかったアンケートを得なければならないのだ。

 君がゴリラを演じるに当たってしてはいけない注意事項がある。それは必ず守らなければならない。もしそれを破れば君は死刑だ。その一、君は人間の言葉を発してはならない。もし君が「私は人間です。助けてください。動物園に監禁されているんです」なんて一言でも発したら君は死刑だ。それだけではない。君がもしくしゃみをして「ハックション」までなら何とか許されるが、「ハックション、ちくしょう」などと喋ろうものならこれもまた死刑になる。気をつけたまえ。注意事項その二、……うーん。考えたが何も浮かばない。あっ、今浮かんだ。君は脱走してはならない。脱走したらその瞬間に射殺する。最後に食事とトイレとお風呂だが、今君がいる部屋の隣の部屋が食事の部屋だ。その隣の部屋が小さいがトイレとお風呂の部屋だ。動物園が閉演したらお風呂が湧き、君は着ぐるみを脱ぎお風呂に入ることが出来るだろう。動物園が休園の時は君の自由にしたまえ、テレビは食事の部屋にあるが、ゴリラの番組しか観れない。DVDもゴリラ関連の物しか置いていない。ラジオもゴリラ関連のものしか聞けないのであしからず。後は、そうだ。君がゴリラとして動物園で活動するのは自由だ。嫌なら外へでなくてもよい。しかしその時は、その日の飯はなしだ。働かざるもの食うべからず、だ。まあ休園の日は食事、風呂どちらもあるがな。だが、休園は月に一度なので、どうしても働かざるを得ないだろうがな。ちなみに動物園の開園時間は朝の9時から夜の8時までだ。午前は二時間以上外でゴリラとして働けば、昼食が出る。午後は五時間以上働けば夕食と次の日の朝食が出る。まあ、働くといっても外で君が何をしようが自由なのだがな。人間とばれずに人々を楽しませれば何をしてもいいのだから。君の好きなようにしたまえ。あ、今思い付いた。注意事項その三、観客の前で着ぐるみを脱いではいけない。もし脱いだらその場で射殺する。何か質問などが、あれば、この部屋にある食事を回収するボックスに食べ終わった食器と共に、机の上にあるメモ帳に質問事項を記入して一緒に入れてくれればいい。後、こちらから何か変更点があれば、随時報告していく。以上だ。それでは快適なゴリラの生活を楽しみくださいませ。(アナウンス風に)。だが、くれぐれも忘れるなよ。ゴリラになりきることが、目的じゃない。ゴリラになって人々に気付かれずに人々を楽しませ、アンケートにゴリラ楽しかった感想を貰うことが目的なのだから。では、ミッション開始だ』

 このメモを読み終えたとき、目から涙。いや、獣汁が流れ落ちてきた。

 ようやく、極秘実験の話を思い出した。懲役が嫌だった私は、懲役を免れる為なら、とその極秘実験に参加することを選んだのだった。だが、まさかゴリラになるとは。

 私は部屋に置かれている大きなノッポの古時計を見た。古時計がちょうど、朝の9時を差し、古時計から平井賢の、大きなノッポの古時計の曲が流れた。シュールな光景だ。

 私は自分の身体を見回した。ゴリラとしての完成度を全身が見れるミラーで確認する。

 すごい着ぐるみだ。とても着ぐるみとは思えない完成度の高さで、着ぐるみを着ている自分でさえ、すぐ目の前にゴリラがいるかのように感じられる。これならば外見でばれる心配はないだろう。

 よし、行くぞ。私は部屋の扉を開け薄暗く肌寒い通路を歩き、外へと出る。まだここは観客からは見えないようだ。

 あそこだな。私が今いるのは舞台の袖とでも、呼べそうな場所だ。

 ここを行けるといよいよ私のゴリラとしての第一歩が始まる。

 さあ、どんな華々しいデビューを飾ろうか。

 そうだ。これにしよう素晴らしいアイデアを思い付いた私は、ゴリラの着ぐるみのお尻の部分のチャックをゆっくりと開け、ウンコをすると、それを手に持った。

 観客がいるであろう場所からはゴリラはどこだ。ゴリラはどこにいる、という声がひっきりなしに聞こえてくる。

 私は深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

 気持ちを落ち着かせると私は、さあ、行くぞ。と自分の心の中で気合を入れた。

 そして私は観客の前へと出ると、観客に向かってウンコを投げつけた。

 その日の感想は、あのゴリラ最悪死刑にしてだった。

 ウンコを投げて観客を喜ばせようとしたが、逆効果だったようだ。

 だが、まだ私のゴリラ生活は始まったばかりだ。これから少しずつ学んでいけばよいだろう。

 閉演時間になり、部屋に戻ると、夕食が用意されていた。今日の夕食はバナナ定食だった。

 ご飯を食べ終わると、着ぐるみを脱ぎお風呂に入った。

 外から差し込む月の明かりが私に優しく降り注いだ。これからどうなるのだろうか。今はまだ分からない。だが、今私に出来ることはがむしゃらにゴリラとして、過ごすことだけではないだろうか。振り向いている時間などないのだ。さあ、明日はどんなゴリラを演じようか。

 お風呂に浸かりながら私はこれからのゴリラの生活について思いを馳せた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] メモの内容がぶっとんでいて、面白かったです。
2016/07/31 14:16 退会済み
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