近親相姦はなぜタブーなのか
ところで、近親相姦はなぜタブーなのでしょうか?
有力な説のひとつは、劣性遺伝子の重ね合わせが発生し、先天的遺伝疾患が起こる可能性が高まるからだそうです。
これは事実としては存在するのでしょうが、どれくらいの頻度で発生しうるのかは疑問の余地があります。
天皇家やヨーロッパ貴族などを見ていて、こういう事実が観測されたというわけでもないようです。
タブーの存在を説明するにはちょっと弱いのではないでしょうか。
動物の世界を見ても、近親で交配する種はかなり多いようです。
家畜を見ても、優秀な遺伝子を持つ家畜は優先的に種付けするものだから、結果的に近親の範囲が異様に広がりを見せることになります。
遺伝欠陥を持ち出す議論は、タブーを強化するための「言い訳」に類するものかと考えています。
別の有力な説は、共同体間の連携を重視するものです。
「家族」や「部族」といった共同体は、普通にしていると内にこもっていく傾向を持ちます。
そこを婚姻により女性のやり取りを共同体間で行うことで、いざというときに協力できる体制を築けるというものです。
古代天皇は、戦争に勝利するよりも、子弟を地方豪族に婿入りさせることで勢力拡張していったように思われます。
身内で固めた強固だが小さくてもろい部族よりも、広範な協力関係を周辺で取り付けた部族の方が、社会勢力として生き延びる可能性は高かったことでしょう。
とくに中国のような広大な大陸ではそれが当てはまることと思います。
そのような政治力学にもとづく規範意識が内面化されていって、ついにタブー意識につながったという説です。
これまた、もっともな説ではあるのですが、そこまで強く内面化される規範なのかというところで、やや首を傾げざるを得ません。
近親相姦タブーと連結することで機能していったにしても、ルーツ自体は別と考えたいところです。
そこで最後に残るのが、フロイト的な家族成員間の葛藤にまつわる考え方です。
近親相姦を許すとすると、父と息子で、母や娘の奪い合いが発生するかもしれません。
これは内部の結束を乱すのは当然ながら、殺し合い等に発展する可能性が極めて高いと考えられます。
殺人がタブーとなるように、食人がタブーとなるように、近親相姦がタブーである必然性というのは、このレベルで存在するのではないでしょうか。
殺人に関しては、理非判断を抜きにしてタブーとされます。
特に現代社会においてはそうです。
ゆえに戦場で人を殺したトラウマに苦しむことになります。
近代以前は、理由がつけば、殺人の多くは奨励されることも多くありました。
現代社会における近親相姦も、これに近いレベルのタブーと考えられます。
理非判断抜きに嫌悪されるのです。
しかし、理由が立てば事情が変わることもあるのかもしれません。