パパの死
冷え切った空気が凍った。
「_____本当の家族じゃないのよ・・・」
1.
パパが死んだ。事故死。
昨日、仕事帰りだったらしい。警察から電話がかかってきたのは21時前だった。
「はい、葉林です。」
「葉林雅矢さんのお宅ですね、北山第一警察署の山部と申します。至急、島居総合病院に来ていただけますか。」
「・・ん、えっ、、、。」
警察、病院、父の名。整理がつかず、おどおどと黙ってしまった私の様子を察したのか、山部さんが続けて話してくれた。
「雅矢さんが事故にあい、大変危険な状態にあります。今から来ていただけますでしょうか。」
少し言いづらそうに、しかし堂々と告げた。
「・・わかりました。・・・鳥居総合病院ですね、、、。すぐに、向かいます、、。」
電話を切ると、ママが心配そうに私の顔を覗いていた。
私は、電話にちゃんと対応出来ていただろうか、、、。もっとパニックになるのが普通なのだろうか、、、。もし、私じゃなくて、ママが電話をとってたら?、、、。ママが何か心配そうに私の顔を覗いていた。
「ママ、・・・パパがね、、パパが事故にあった、あってね、、、・・それで、、、それで、、危ないんだって、、今・・・。・・・島居の総合病院に来てほしいって、け、警察の人が・・・。」
私は十分テンパっていた。珍しく家族がリビングに集まっていた。周りで聞いていた玲ちゃんが動揺を見せる。奏が言った。
「父ちゃん、病院?どうして?ねえ、なんでー?」
芽唯はいつも一緒の人形を強く抱きしめていた。涼が時計を一瞬見て、口を開いた。
「とりあえず、・・・行こうや。」
五人兄弟、家族全員が乗れる大きい方の車に乗り、玲ちゃんが運転した。
「あの、葉林です・・・。」
「あっ、はい。こちらです。」
カウンターの看護婦さんがある病室まで案内してくれた。部屋の前で、顔を伏せるように小さくお辞儀したまま、最後まで姿勢は戻さなかった。
「・・・パパ?」
私の声でベッドを囲んでいた医師や看護婦さんが全員視線を向けた。
「葉林さんですね。」
そう一言確認すると、ベッドの周りを空けた。もう、息はしていなかった。ママと玲ちゃんは口に手をあて、目に涙をためた。先頭に立ち尽くしていた私を、涼と奏が抜けてベッドに駆け寄った。しかし、涼は声が出なかった。何も言えなかった。私の手を握っていた芽唯が、手を強く握り直し、私を見上げた。小さい奏と芽唯にこの状況が何なのか、分かるだろうか、、。いや、、。無理だ。奏と芽唯だけがきょとんとしていたが、それでも何か今までにない空気を読んでいた。
「・・・・・ん、。」
何も言葉が出ない。でも、たまっていた涙がすっと流れおちた。それを見た芽唯がこの空気を破って口を開いた。
「せあちゃん?涙、なんで泣いてるの?ねえどうして?」
まるで耳に入ってこなかったが、「ねえねえ」と手を揺すられ、何か言わなきゃと考えた。
「・・・芽唯、なんかジュース飲む?」
誤魔化すことしか、思いつかなかった。
「うん!」
芽唯の目がきらきらと輝いて笑顔が可愛い。「俺も!」と涼の後ろにべったりだった奏が、芽唯と同じような目で振り返った。