☆冒険者になったからとりあえず帰ってみるか!
宿屋の息子視点。
ちょっと長くなった。
オレの名前はカイン・エルド。
ベルム村出身で<竜星の隠れ家>と呼ばれる宿屋の息子だ。
オレは小さい頃からの夢があった。
それは、冒険者になっていろんな街や物、世界を回りたいと思っていた。それに強くもなりたいって。
だから、ちょっとでも戦えるように村の近くにある森で毎日修行していた。
あの森は普段村の子供達の遊び場になっているが、奥まで進むと途端に魔物が徘徊する場所に変わる。
そこでオレはスライムやゴブリンなど弱い魔物(ランクD)から倒し続け、冒険者になる為の条件年齢である15歳になる頃には森に住む全ての魔物を一通り倒せるようになった。(まぁ、小さい頃は怪我ばかりして母ちゃんや村の人達から叱られたけど。)
「オレは冒険者になる!!」
そう宣言しながら村の人達が唖然としている間に村を飛び出した。
冒険者になるにはまず王都セイグリットにある冒険者ギルドに行き、登録しなければいけない。
最初はランクDからで、ギルドに毎日大量に届く依頼を(ランク相応を目安に)片っ端からこなし、ある程度の力量を認められれば昇格試験を受けることが出来る。その試験を合格できればランクが上がる。
オレは事前に魔物を倒し実戦の経験があり、村が自給自足な為に森に薬草や獣肉を自分で採取しなければいけなかったので、依頼の殆どは村にいた頃と同じ様なものばかりだった。
故になんの苦労もせずに楽々に依頼をこなしていき、気付けばオレはランクAの冒険者となっていた。
そして今現在四人の仲間達と一人の冒険者を連れベルム村に一時帰村している。
「あら、貴方が何もない村だと言っていましたからどんな村かと思いましたら随分と話が違いますわね。」
「本当ですね。僕もベルム村の事は話に聞いてました。メウンの街が近くにあるせいで全く目立たないって。」
輝く金の巻き髪にラベンダー色のつり目の瞳の人間族の勝ち気な美少女、<神官>のセイラがカインに聞いた話が違うことに瞬き、
亜麻色の髪に蒼と緋のオッドアイを持つ猫人族、<狙撃手>のレンリが彼女の言葉に同意しつつ首を傾げる。
「おいおい、なんじゃこりゃ。ちっせぇけど沢山の精霊がうようよ漂ってんぞ。ここマジでベルム村かぁ?」
「・・・地面や植物も彼等の加護を受けているようだね。メウンに比べると派手さは無いけれど休息にはもってこいな村だ。」
毛先が赤い黒髪と血のような紅の瞳の女受けする甘い顔立ちの魔族の青年、<暗殺者>ヴェルサスが楽しそうに笑う精霊達に瞠目し、
白金の髪にアメジストの瞳、セイラに似た綺麗な顔立ちの人間族の青年、<王騎士>ライルが観察するように地面に目を向ける。
「・・・・・・。あいつの気配がする。当たりか。」
赤銅色の髪と目、他の種族に比べ背丈が低く気難しそうな顔に眉を顰めるドワーフ族、<武道家>トワロが何かを見付けたかのように顔を少し和らげ呟く。
そして、そんなパーティーのリーダーを務める<剣聖>のオレは、あまりの村の変わりように思わず、
「はぁあああああぁぁ!?」
叫んでいた。
オレはやっとのこと落ち着きを取り戻し、オレの実家<竜星の隠れ家>に入れば、突然オレの頭に衝撃が来た。
「「カイン!?」」
「ぶっは!!」
いきなりの事だったので衝撃が強すぎてしゃがみ込んでると、セイラとレンリが心配しヴェルサスが爆笑する。ヴェルサスは酷いと思う。
「まったく、いきなり手紙で帰るなんて書くんじゃないよこのバカ息子。お陰で出迎えの準備が忙しいったらありゃしないよ。」
其処にいたのは、オレの母であり宿屋の主人のシーラ・エルド。彼女の手にはお盆がある。
「っだからって、何も殴ることないだろー!?しかも側面で思いっきり!!」
「今までの鬱憤を晴らしただけさ。あんたが文句言う権利は無いよ。さて、そちらさんがバカ息子の仲間達かい?すまないねぇ。こんなバカに付き合ってもらって。」
「いえ、彼のお陰で楽しいので大丈夫ですよ。」
「そうかい?なら良いけどねぇ。」
オレの涙ながらの抗議をサラリと流し、ライルと話をしだす。ライルは此方をチラと見て頭を下げる。
「此方こそ申し訳ありません。いきなりで迷惑を掛けてしまって。」
「あんたが謝る事じゃないよ。謝るならうちのバカ息子さ。なんせ手紙が来たのは今日の朝だからね。」
「うぐっ!」
「それに出迎えの準備は殆ど終わっているから。」
「えぁ?マジで?」
母の言葉に少し驚き、どういう事かと問いだそうとすれば、入り口から見知らぬ二人の男女が入ってきた。
「シーラおばさま。洗濯物を干し終わりました!・・って、あら?お客様ですか?」
「ほう?何とも豪華な・・・。」
人間とは思えない程の美貌がオレ達に向き、藍色と向日葵色の二対の瞳が此方を観察するように見る。
不躾な態度にセイラがいきり立ち、怒りの言葉を発しようと前に一歩踏み出した瞬間、先程まで黙っていたトワロが口を開く。
「ソルルナ。お前等が此処にいるっつうことは確実にいるな?あいつが。」
「え?あら!トワロさん!来ていらしたんですか!?」
「もしや主を探しに?ご苦労なことだ。」
「お前等、何処にいても変わらねぇな。逆に安心する。」
「「光栄だ。(です!)」」
トワロに姿を認識すると途端に態度が和らぐ男女が話をしだし、トワロは呆れながらも懐かしそうに目を細めていた。
「ちょっ、ちょっと!トワロ、貴方その者達とお知り合いなんですの!?」
出鼻を挫かれたセイラはそのままの格好でトワロに疑問をぶつける。どうでもいいが足は閉じろ。ライルが何か怖い。
「あ?あぁ、こいつらは、」
トワロが二人を紹介しようと此方に向くとき、宿の奥から声が響く。
「シーラ?もう息子達が来てんのか?」
「「マスター。」」
そちらに目を向けると、漆黒の髪に金の目をした、男女にも劣らない冷たい印象が残る無表情の美形の男が悠然と立っていた。