悪いが俺の趣味ではない。
ツェンというのはソルティナ、ルナリスと同じくシトの使役している者で、魔族に当たる。
BOG内では、魔法職やサブ職業の生産系を扱うもの達が使い魔や召喚獣を連れていく事が出来、その中にプレイヤーが自分の分身を作る際、選択可能な天族、魔族、獣人が使役対象となる。
召喚、討伐、イベントなど様々な方法で仲間にすることができるが、一番行われていた方法は彼等の好感度・・・要はNPCとして登場する彼等と仲良くなれば仲間になってくれるというもの。
音声チャットで使用するヘッドセットというマイクで現実同様、人付き合いや友達作りをゲームでも出来る。毎日話し掛け、時にはアイテムをプレゼントし仲間となる。勿論、彼等NPCにも好き嫌いがある。執拗に迫れば嫌われ、今後仲間になることが出来なくなる。そのリアリティーさが、プレイヤーにハマりこの方法、<友誘>がメインとなった。
そんな友誘で仲間となった者の一人がツェンだ。
赤みがかった長い黒髪に血の色を模した紅眼、存在感漂う二本の角、近寄りがたくとも目を惹かれてしまう野性味溢れる美貌に尊大な態度を取る、正に魔王と称されるであろう魔族。
他者になど興味を持たないツェンだが、何を思ったのかシトに突然絡んできた。
そもそもシトは彼を仲間にするつもりは全くもって無かった。ただ、イベントや討伐で召喚獣を仲間にするつもりでいたのだ。
それなのに何故ツェンはシトという存在を気に入り絡んできたのか。
何度か理由を聞いてみたものの『面白そうだから』としか言わない。しかも姿を変えてまで常時シトの側にいる。時には幼い少年に、時には美しい女性に変化しながら。
疑問はあるものの、相手が何も話す気がない為シトは現在も理由を知らないまま、彼を放置している。
ただし、ソレが気に食わないのだろう。他の使役している者達からの不満不平が毎回ある。というかいい加減うるさい。
痺れを切らしたこの双子の精霊は大胆にも原因である本人に問い詰めたらしい。
それがどうしてメイドと執事なのか。
「・・・で?人型になってんのは分かった。けどその格好がいまだに分からん。何でソレだ。」
「我々は主曰く目立つらしいのでね。側にいる理由をつくろうと。主の使用人ならば何も言われないだろう?」
「私達はツェンさんみたいに姿形を変えることが出来ませんから。それに私達はマスターの使用人みたいな存在ですから!」
「あぁ、因みにこの服はアルシエラが作り上げた物だから、性能は高い。」
「・・・・・・。」
楽しそうだとか、コイツら本当に自由だなとシトはつい遠い目をしてしまった。
後、あの女装天族は何をしてるのだろうか。
「そういえば、その人狼族は主の小さなご友人で?」
「ん?あぁ、そうだ。・・・ガイ。挨拶できるな?」
シトは服の裾を掴みベッタリ引っ付くガイを一歩前に押し出す。
「こんにちはっ。ふたりともシトにーちゃんの友達か?」
「まぁっ!小さな狼さん。私はソルティナ。こちらはルナリス。マスターの仕える者です。マスター共々よろしくお願いしますね?」
「うんっ!シトにーちゃんは優しいからずっと一緒にいる!!」
ソルティナとガイはお互いニコニコ笑いながら話し出す。ルナリスは此方に目を向け愉快そうに笑う。
「随分と懐かれているようで。将来我々の同業にならないと良いですね?」
「・・・お前は本当に楽しそうだな。」
「ふっ。私の言動で主の美しい顔が歪むのが堪らなくてね。諦めてくれ。」
「はぁー・・・。」