友人兼戦友兼自称メイド&執事がうるさい。
ベルム村の端にある広々とした何も施されていない土地に、遠夜改めシトとガイがポツンと立っていた。
「なぁなあシトにーちゃん。こんな何もないとこで何すんだ?」
「ん?ちょっとな。」
そう言いながらシトは地面に赤いチョークの様なもので何かを描いていた。
ガイは疑問符を浮かべながらも興味深そうにシトの描いているものを見ている。
「よし。こんなもんか。」
作業を終え立ち上がり、無表情ながらもシトは満足そうに頷いた。
そこにあったのは細い線を精巧に、そして正確な左右対称に描いている魔方陣だった。
「すっげー!!これシトにーちゃんがかいたんだよな!?えっと、魔方陣?」
描き終えると同時にガイが大きな声をあげ興奮した。目を輝かせながら魔方陣をじっと見て、声を弾ませながらシトに話し掛けた。
「お。よく知ってるな。これは召喚用の魔方陣でな、ここから俺の友人を呼び出そうと思ってるんだ。」
「友達?」
小首を傾げるガイを危険がない範囲にまで下がらせ、魔方陣の前に向かい魔力を練りながら言葉を唱える。
「我が魂と繋がる者、愛する者、我が声に導かれ御前に現れる事を願う。我を望まれる事を願う。」
シトが唱えると辺りに魔力の波紋が現れ、波紋と魔方陣が淡く光出す。近くで成り行きを見ていたガイはその幻想的な綺麗さに目を奪われていた。
「さぁ来い、俺の友人達。久しぶりに顔を見せろ。」
シトが普段は見せない挑発的な笑みで呼ぶ。
その声が響いた後魔方陣の中から二体の精霊が揺らめきながら姿を現す。
片方は銀に煌めく髪を前髪で顔半分を覆い、静かな夜を連想させる深い藍色の瞳をモノクルで隠した男性。
もう片方の女性は膝裏まで伸びた白金の髪に陽の光を思わせる暖かい向日葵色の瞳を此方に向け、愛らしい笑みを浮かべていた。
両者とも美麗な顔と出で立ちだ。
ただひとつ気になるのは、二人とも執事とメイドの服装をしていることだろうか。
「お久しぶりです、マスター!また一段と美しくなられて、私改めて誇りに思いますっ。」
「私も貴方に会えて嬉しく思います。我が愛しき主よ。」
大きな瞳を更に大きくし、元気いっぱいにピョコピョコ飛びながらマスターと呼ぶ少女の名はソルティナ。
知的そうな顔とは裏腹に不適な笑みを浮かべ、これまた顔に似合わない愉快そうな声色で歓迎した青年はルナリス。
何もかも正反対な彼等は太陽と月の精霊であり、双子の姉弟だ。
彼等は召喚師専用の限定イベントで手にいれることが出来、またその珍しい属性と綺麗な外見から人気の精霊だ。
ただ、一週間という期限と入手の確率が低かった為、彼等を連れている者は少ない。
シトの場合はその一週間パソコンに向かい、期限終了ギリギリまで行いやっと手に入った。その後力尽きたが。
「あぁ、久しぶり。・・・で、何でそんな格好してんだお前ら。あと人っぽい。」
服装に目が行き気付かなかったが、普段霊体に近い精霊は体が透けているのだが、今目の前にいる双子の精霊は透けておらず、エルフの半分程あった尖った耳が人間の耳と同じ大きさになっていた。
「実はツェンさんに相談していたんです。どうやったらマスターの側に居られますか?って。」
「あの悪魔はなに食わぬ顔で主の側にいますのでね。自らの正体を隠し人間の姿で四六時中。」
ソルティナはモジモジと、ルナリスは黒い笑みを浮かべ言う。
「何してんだお前ら。」
シトは彼等の自由さに呆れる。双子が現れた時からずっと黙っていたガイがシトの服の裾を掴み、シトを見上げ小首を傾げた。
「なぁ、シトにーちゃん。ツェンって誰なんだ?」
・・・目の前にいる双子の言動はスルーらしい。
この子狼は将来大物になるなとシトは思った。